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8 シェイラと観劇

 


「着きましたよ、シェイラ嬢。此方へどうぞ」


「は、はい」


 ツヴァイ副隊長様の手をかりて馬車から降ります。


 そうです。

 私は愚かにもツヴァイ副隊長様のエスコートで観劇に来てしまいました。

 つい、うっかり是と答えてしまった私に微笑まれたツヴァイ副隊長様の笑顔が嬉しそうに見えてしまい訂正できませんでした。


 私と一緒にいても嬉しいはずがないのに・・・


 レストランから劇場までの馬車移動の間言うチャンスはいくらでもあったはずですが言えませんでした。


 ツヴァイ副隊長様は本当に私の顔に慣れることができたのでしょうか?


 私がじっと見て目が合うと、少し目を泳がせ顔は赤くされますが、暫くすると目を合わせてから少し困ったように微笑まれます。

 その様子が可愛らしくて、ついつい何度も見詰めてしまいました。


 私の横でティリがにやにやしているのが少し引っ掛かりますが、楽しく会話をしながら終始そのように過ごして劇場に着いてしまいました。もう、うっかりと。


 後悔はしていないと言いたいところですが、残念ながらしております。


 何故ならば周りの目が痛いからです。

 ツヴァイ副隊長様はご自分を地味だモテないと仰いますが、逞しくスタイルの良い素敵な体躯はやはり目立っています。

 そして、ご令嬢方からの熱視線が凄いです。モテないなんて嘘です。

 エスコートしていただいている私へ嫉妬らしき視線が怖いです。痛いです。


 化け物顔を隠すために帽子を被っていましたが、普通の顔だったとしても帽子を取るのには勇気がいるでしょう。

 ツヴァイ副隊長様は慣れているのか気にされる様子がないのでサクサク劇場のロビーを進んで行かれます。


「ツヴァイ副隊長様、お席は何処なのでしょう?」


 このままでは帽子を取らないにしても周りからの視線で観劇に集中できるか自信がありません。


「マカダミック伯爵家で優先的に使える特別席がありますので、そちらでも構いませんか?母や妹がこの劇場をよく利用するので頼んでおいたら個室予約になっていまして」


「個室なのですね」


 良かったです!

 個室ならば下の一般席を覗きこまなければ、あまり見られることもありませんし、ご令嬢方からの視線も気にならないはずです!

 ヘイゼルミア侯爵家の名でも特別席がとれるのかもしれませんが、普段私もお父様も利用しないのでよくわかりません。

 ツヴァイ副隊長様のご家族は観劇好きの方が多いのでしょうか。助かりました。


「はい。あっ、いつも個室とかばかり利用してたので気にしてなかったのですが、一般の観客席やロビーの休憩室でしたいことがありましたか?」


「いいえ。貴族家の娘としてなさけないことに、私は社交が苦手ですので・・・」


 苦手というより、相手が私の顔を認識すると悲鳴をあげて逃げたり倒れてしまうので社交にならないのですが。

 そもそも、ツヴァイ副隊長様が私に耐えられているのがおかしいのです。


「そうですか。俺としてはシェイラ嬢に恥をかかせずに済みそうで良かったです」


「はい?恥ですか?」


 私がツヴァイ副隊長様に恥をかかせるのではなく?


「情けないことに俺はあまり連れ歩いて見栄えのしない男ですから、シェイラ嬢ならばもっと良い男にエスコートされる権利があります」


 何を仰っているのでしょう?

 ツヴァイ副隊長様が見栄えのしない殿方?あり得ません。

 現に、今もツヴァイ副隊長様へ熱視線を送るご令嬢方から私が睨まれておりますもの。

 しかも、私がもっと良い殿方にエスコートされる権利とは?どういうことなのでしょう?


 化け物である私をエスコートして下さるツヴァイ副隊長様は奇跡の方です。

 そもそも、お父様とツヴァイ副隊長様以外で私を直視した後にエスコートできる方にお会いしたこともありません。


 それなのに、ツヴァイ副隊長様よりももっと良い殿方とは?

 こんなに優しく素敵なツヴァイ副隊長様より良い殿方が存在するのでしょうか?


「・・・正気ですか?」


「え?」


「本気でそう仰っているのですか?ツヴァイ副隊長様はとても素敵です!私には勿体ないくらい見栄えが良いです!」


「シェイラ嬢?」


「ツヴァイ副隊長様より、もっと良い殿方とは何方ですか?」


「え、そんなのたくさん―――」


「おられません。ツヴァイ副隊長様以外に私をエスコートできるのはお父様ぐらいですよ」


 ツヴァイ副隊長様が何故そんなにご自分を卑下しているのかはわかりませんが、私の胸がもやもやいたします。

 ですので、これだけは間違いないと、勘違いなされないように言い切らせていただきました。


「~~~っ?あ、ありがとう、ござい、ます?・・・えっと。あっ、あの、もう劇が、その、始まりそうですので席に着きましょう!」


 私がついムキになってしまったからでしょうか。

 ツヴァイ副隊長様から慌てたように席へ促されてしまいました。

 私の反応が子供っぽくて対応に困らせてしまったのでしょうか。疎ましく思われないか不安になってきました。


 それでも、私はこんなに優しく素敵なツヴァイ副隊長様を貶めるような言葉は、例えご本人からでも聞きたくなかったのです。


 ・・・ですが、確かにもう少しで始まってしまいそうですね。

 これ以上ゴネてツヴァイ副隊長様に迷惑をかけたくありませんから、切り換えて観劇を楽しませていただきましょう。


「差し出がましいことを申しました。始まる前に参りましょう」


 けれど、ついついツヴァイ副隊長様に聞こえない小さなため息が漏れます。


「・・・ツヴァイ副隊長様には、私が化け物に見えないのですか?」


 私の消え入りそうな囁き声を、特別席へ入っていく大きな逞しい背中へ届けることはできませんでした。




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