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終話 ツヴァイとシェイラ

昨日更新間に合わず済みません・・・


最後だけ三人称です。

 


 ―――約1年後。


 澄んだ青空に陽射しが眩しいよく晴れた日。


 王都で一番有名なゲーグルンディル教会で高位貴族家の結婚式が行われていた。

 ゲーグルンディル教会は、イノンド王国3代目の国王が宗教改革や教会の設立に多大なる貢献をしたことから名を取ってつけられた教会である。


 盛大な結婚式の参列者は豪華な顔ぶれであった。


 伯爵家次男の新郎ツヴァイ・マカダミックは、王城勤めの近衛騎士副隊長な上、王太子殿下の幼馴染みからの側近兼専属護衛。

 当然、王太子夫妻や他の側近である高位貴族家の子息が参列している。

 新郎兄弟は軍に勤めて階級も高く顔が広いため、友人も多く軍務関係の重鎮も多数いた。

 また、真面目で堅物と有名な騎士がなりふり構わず王城中に響き渡る声で新婦へ求婚した話は有名で、若い娘達が憧れ注目する仲睦まじいカップリングでもあった。


 筆頭侯爵家長女にして跡取りである新婦シェイラ・ヘイゼルミアは、諸事情につき長らく社交界から離れていたが、昨年になって突然社交界へ婚約者と共に姿を表すようになり、奇跡のような馴れ初めで社交界の話題をさらったことでも有名だ。

 神々しいまでの美貌、更に稀少な魔術師となった彼女は、短期間に有力者である友人やファンなど人望が増していた。

 今日はそれらの有力者がこぞって参列している。

 国内でも稀少な魔術師達が魔術師仲間である彼女のために多く集まる結婚式は、珍しいもの見たさでも民の関心を寄せた。


 粛々と執り行われた教会での式から、賑やかな披露宴へと移り、招待客が次々と新郎新婦へ挨拶や祝いの言葉を述べてゆく。


「ツヴァイ、シェイラ、ふたりとも結婚おめでとう。これからも公私ともに宜しく頼む」


「おめでとう!シェイラさん、一緒に暮らしてみて妖精関連でツヴァイさんの体質とかソレのことで困ったら気軽に相談してね。修行も1年お疲れ様。魔術師仲間が増えて嬉しいわ!」


「「お忙しい中御足労いただきありがとうございます。ヴォルレムディル王太子殿下、フェレイラ王太子妃殿下」」


「固いな、ツヴァイ。まぁ、また幼馴染み衆で砕けて祝ってやるから頑張れよ」


「ええ、主役を独占してはいけないからまたね!」


 一番位の高い王族である王太子夫妻から順に、次々に祝いの言葉が飛び交う。


 緊張のためか固い表情でやや顔を赤らめる新郎ツヴァイ。

 そんなツヴァイの腕にぴったりと寄り添う新婦シェイラは幸せそうに微笑み、時々ツヴァイと仲睦まじく甘い視線を交わしている。


 挨拶に一区切りつくと、酔いが入ったツヴァイの友人達が絡み騒ぎだしてきた。


「いやー、目出度いですね。ぷぷっ、奥方が美しすぎるからって、ツヴァイ緊張しすぎでガチガチじゃないですか!まだ免疫足りないんですか?上手く社交用の顔で誤魔化してるけど、求婚した時みたいに新郎が花嫁に興奮して失神とかダサいから気をつけてくださいね」


「・・・煩いぞ、アストン」


 渋い顔のツヴァイが黙らせようとするが、のらりくらりとかわされる。

 放って置いたら幼馴染みらしか知らない黒歴史を暴露し始めるに違いないと必死だ。


「まぁ!?ツヴァイ様はあの時長期のお仕事でお疲れだったのですから仕方ありませんよ?」


 シェイラのきょとんとした様子に、「そう言うことにしたんですねー」と訳知り顔で頷くアストンと焦るツヴァイ。


「へぇ~、では今夜が楽しみですね!僕はツヴァイが鼻血噴くに一票」


「「っ!?」」


 明け透けな物言いに盛大に咳き込むツヴァイと、全身を真っ赤に火照らせ硬直するシェイラ。

 結婚式の夜と言えばわかりきっているが、深窓の令嬢であるシェイラの前でからかい混じりで出す話題ではない。


「ゲホッ、お、お前は人前で、しかもシェイラ嬢の前で何を――――ぅわっ!?」


 抗議しようとしたツヴァイは、突然大柄な男の腕に肩を組まれてシェイラから引き離される。


「よっ!ツヴァイと化けも、じゃなくて嬢ちゃん、おめでとさん!本当にガチガチだな。んなもんは俺と飲みで勝負でもしたら緊張ほぐれんだろ?嬢ちゃん、ツヴァイをちょっと借りるぞ」


「えっ、ツヴァイ様!?」


「おらツヴァイ、俺と向こうで勝負するぞ!!」


「なっ!?」


「アーモンディ隊長、僕もその勝負に参加させてください!今まで酒で勝負をしたことはなかったが、貴様には負けないからな、ツヴァイ!!あ、クレメルが強制缶詰めの魔術師修行で留守だから代わりに祝いを述べるよ、シェイラ殿」


「えっ、は、はい?」


 アーモンディとリュメル、ついでに面白がるアストンに共謀連行されるツヴァイと、呆気に取られるシェイラ。


 シェイラの父ヘイゼルミア侯爵が苦笑いを溢していた。


「君達、ツヴァイ殿をあまり酔い潰さないでくれよ。晴れの日に婿殿の不在が長いとシェイラが悲しむからな」


「「「承知しました~!」」」


 ツヴァイが済まなさそうに目で合図するのを、シェイラは少し妬きながらも笑顔で見送っていた。








「ツヴァイ様、大丈夫ですか?」


 深夜前にまだまだ続く披露宴を暗黙の了解で抜けた新郎新婦。

 寝室に引き上げたシェイラはベッドの縁に腰掛け項垂れるツヴァイの背中を擦っていた。


「はい、何とか。アーモンディに遠慮も躊躇もなく飲まされましたよ・・・」


「むぅ。殿方だけで盛り上がるのもいいですが、あまり私を放っておかないでくださいね。私は嫉妬深いようですので」


「嫉妬してもらえるのは嬉しいですが、奴等は俺をここぞとばかりにからかいたいだけですよ。ですが、やっと手にいれた妻に愛想を尽かされたら大変なので気を付けます」


「はい、ありがとうございます」


 ふたりは、この1年と数ヶ月の間の出来事をしみじみと振り返っていた。


 偶然の出逢いからふたりは恋に落ちた。


 勘違いからの噛み合っているようで噛み合わない擦れ違いからのドタバタなお見合い期間。

 ツヴァイによる周知の求婚に、婚約してからも妖精や悪友達に絡まれ賑やかで腹立たしくも楽しい日々。

 シェイラの難航していた魔術師の修行も、《精霊の忌み子》であるツヴァイが側にいることにより、強制的に魔力の流れが変わり、ソレの力も抑えられて驚くほど順調にに進んだ。


 日々の仕事や修行の合間にデートを重ね、結婚式の準備に追われていたらあっという間に今日になっていた。


「・・・結婚、しましたね。夢ではなく」


 だいぶ酔いが治まってきたツヴァイがポツリと呟いた。


 念願叶った余韻を噛み締めるように目を瞑り、シェイラが寄り添うように肩へ凭れかかってくる重みに其方を見やる。


「はい。あっという間でしたね」


「シェイラ嬢・・・」


「ツヴァイ様、違いますよ?私はもう令嬢ではありません。貴方の妻です」


「ああ、そうだな。―――ッシ、シェイラ」


「はい。何ですか、私の旦那様?」


 花開くように艶やかに微笑む花嫁に、ツヴァイの心臓と理性はイカれそうだった。いや、既にイカれている。


 この1年、何度落雷に心臓が止まり、血管や脳が沸騰したことか。

 男として愛しい婚約者の前で醜態を晒さないように踏ん張った自分を誰か褒めて欲しい。


 透けるように薄い生地越しに伝わる温かな体温と柔らかい身体。誘うように甘い匂いに引き寄せられる。

 ほっそりとくびれた腰が折れないように抱き寄せ、華奢な首筋へ鼻を埋め滑らかな肌に唇を這わす。


「シェイラ、っ。」


 シェイラは自分の身体に回された逞しい腕にされるがまま、むしろ自ら押し付けるように身を寄せ、がっしりとした肩から首筋、割れた腹筋から脇腹を通り広い背中を手でなぜる。


 少し身を離し、交差する黒曜石の瞳が蕩けるように自分を見つめる熱に胸を高鳴らせて瞼をそっと綴じる。


 ふっくらと柔らかな唇を、少し薄く熱い唇で食まれて徐々に身体をベッドへ押し倒された。



 ――――が、



『うわぁ~ん!!シェイラー、みんなが意地悪するんだ!!』



 と、突然幼い声が割り込んできた。



「「っ!?」」


 勢いよく身体を引き離し、慌ててシーツで身をくるむシェイラに、シェイラの異変を察知して身を起こしたツヴァイは天を仰ぎため息を吐いた。


「――――っ、くそ妖精め」


 見えない妖精に悪態を吐いても、今日ばかりは自分は悪くないとツヴァイは項垂れる。

 シェイラはシェイラであたふたと、現れた妖精ソレに対応する。


「ソ、ソレ!今日はブラットフォード公爵のお屋敷に行くって、」


『だって、シェイラに番ができたお祝いにソレが来たらシェイラ喜ぶかなって。でも宴にいたマジュツシ達が今夜はシェイラのとこ行ったら駄目って意地悪するから逃げてきたんだ!』


「・・・ソレ、」


 胸を張って主張する妖精に何と言っていいやら言葉を失う。


 直ぐに控えめなノックが寝室の続き扉の向こうの、居間の扉から聞こえた。


「ごめんなさい、シェイラさん。ソレを子供達が取り逃がしたのよ。もう邪魔しないように連れ帰るから安心してくださいね」


『わぁーーー!?』


 扉越しに可愛らしい声が聞こえた。


 ブラットフォード公爵の奥方の声である。

 奥方の声と共に、ソレが見えない力に引っ張られるように扉や壁をすり抜け連れていかれた。


「後、夫婦の寝室には彼らが入れない結界を張ることをオススメするわ。お詫びに今、夫に厳重にかけさせといたから私達はこれで失礼しますね」


 そう言って離れていく足音に、ツヴァイとシェイラは顔を見合わせた。


「・・・俺にはよくわからないですが、ブラットフォード公爵がかけてくださったなら王城並みに頑丈な結界でしょうね」


「はい。私では考えが及ばなかったですし、まだ力不足でしたので助かりました」


 締まりのない空気にふたりは力なく笑い目を細めた。





 ――――――――― Fin




最後までお付き合いくださりありがとうございました!


連載はこれにて終了です。

完結から2週間たちましたので感想も閉じさせていただきます。

予想外にたくさんの方に読んで頂き感謝です!


次はギャグ混じりのホラー作品にチャレンジしたいと思いますので、こちらの作品は暫くしたら誤字脱字やおかしな文章を直す作業に入らせて頂きたいと思います。


そのあとに、本編外の小噺でも書けたら良いなと思ってますので、機会がありましたらよろしくお願いいたします♪


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