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11 ツヴァイと煩悩

堅物真面目(?)の脳内へようこそ!

 


 どうしよう。


 今、俺の腕の中には愛しの白百合の姫君ことシェイラ嬢がいる。


 落ち着け、落ち着けー・・・ない!

 いや、普通に無理だろ。

 どこの世に好きな女の子と急接近して平気な男がいるんだ!!


 何故こうなったかというと。

 まず、摩訶不思議な現象が起きて震えるシェイラ嬢に俺の上着を被せ、驚くほど軽い華奢な体を抱き上げて劇場から脱出することに成功した。


 ここまでは問題ない。

 よくやった、俺。

 シェイラ嬢柔らかいし良い匂いで役得だ。


 次に、何だかよくわからない混乱に乗じて混み合う馬車回しの乗り場を通過。

 シェイラ嬢の侍女も付いてきてるから問題ない。


 そのまま馬車止めにあるマカダミック伯爵家の馬車にシェイラ嬢を抱えて乗り込む。

 そして、シェイラ嬢の侍女に馭者休憩室に待機しているマカダミック家の馭者を呼びに行ってもらった。


 つまり、今、馬車の中にシェイラ嬢とふたりきり。


 はい。問題はここからです!!


 俺の愛しいシェイラ嬢が!

(俺のではない)

 俺の上着を被り!

(俺が勝手に被せた)

 俺の膝に座り!

(俺が抱えて乗り込んだ)

 俺の腕の中!

(俺の手が離れないから)

 俺の胸にすがり付いている!

(俺の手が離れないから!2回言う)


 ヤバい。

 どうしよう。

 呼吸荒くない?ハァハァしてたらどうしよう。

 もし気持ち悪い顔しててシェイラ嬢に嫌われたら死ねる。


 ・・・はっ!?これは、あれだ。


 強制猥褻罪だ!!

 俺、殿下の近衛騎士なのに、強制猥褻罪とか。

 ヤバい。ヤバい。不味過ぎる!

 誰か助けて!誰かって誰だ?


 え~と、神様とか!?


「あ、あの、ツヴァイ副隊長様?」


 阿保なことを考えていたら、上着の中からくぐもった声が聞えた。ちょっと鼻声が幼い感じで可愛い。


「は、はいっ!何でしょう!?」


 この至近距離は心音バックバクなのバレてるんだろうな。

 変態って軽蔑の眼差しで罵られたらどうしよう。死ねる。


 神様助けて!今まで信仰心足りず反省してます!!


「えっと、連れ出して下さりありがとうございます?」


 ・・・お礼を言われた?疑問形だけど見えないからな。

 しかも、俺のベストをきゅっと握る手に心臓鷲掴みされたみたいでヤバい。手も可愛い。


 あれ?まさか俺の疚しい下心と書いた恋情がバレてないのか?


「いえ、当然です。むしろ、あの令嬢の接触を防げずすみませんでした」


「そんなっ、ツヴァイ副隊長様は庇ってくださいました!」


 か、神はここにいた・・・シェイラ嬢、女神か!


 こんな不甲斐ない俺に優しい。

 庇うって言っても、愛しの姫君を抱き寄せたり、抱き上げたり俺には役得でしかないのに。

 シェイラ嬢を泣かせてしまった俺に優しくして貰う資格なんてないんだ。


 ただ、現在進行形でシェイラ嬢から手を離せない俺。

 接着剤でくっついたかもしれない。

 もっとギュって抱き締めるためなら離せる気がする。

 だって、今後ヘイゼルミア侯爵からシェイラ嬢に会わせてもらえなくなるかもしれないし。俺死ぬかな。


「俺は、ヘイゼルミア侯爵に貴女を頼まれました。怪我や不快な思いをさせないと。それを引き受けました」


「お父様に頼まれたことなど気にされなくていいのです。怪我も不快な思いもしてません。ただ、ツヴァイ副隊長様や皆様を恐がらせ、ご迷惑をおかけしたことが申し訳ないだけです」


 何てことだ!

 シェイラ嬢は俺や他人のために心を痛めている。

 俺はいいんですよ。シェイラ嬢に関われるなら迷惑歓迎です。


 そもそも、あの故意にぶつかりに来た令嬢が悪い。

 さらに言えばシェイラ嬢の可愛さに惚けて油断した俺が悪い。

 腐っても騎士。しかも、王太子殿下の近衛騎士だ。

 惚けてない普段の俺ならばもっとスマートに防げたはずだ。ヘイゼルミア侯爵預言者かよ。


「シェイラ嬢。俺は、貴女にも誓いました。命に代えても、全てのことからシェイラ嬢を守り無事にヘイゼルミア侯爵へお返し致します、と」


「あっ、・・・で、でも」


「貴女の憂いを晴らせず、泣かせてしまいました。俺の失態です。批難は如何様にも」


 ランチから観劇までチャンスをもらっていたのに。

 いくら優しいシェイラ嬢でも、内心ではもう俺に会いたくないんだろうな。


「ツヴァイ副隊長様・・・」


「叶うならば、シェイラ嬢の隣にいる資格が欲しかった」


 ポツリと未練がましい言葉が口から漏れた。俺カッコ悪いな。


「・・・何故、ですか?」


「はい?」


「何故私の隣を望んで下さるのですか?」


「そ、それはっ――――」


 シェイラ嬢が好きだからですが!?


 一目惚れです。って言ってもいいのだろうか。

 そもそも、好きだからこそ求婚の許可を取る手紙をヘイゼルミア侯爵に出してお見合いしているわけで・・・


「ツヴァイ副隊長様は、わ、私の顔を見ても、その、へ、平気なのですか!?」


「シェイラ嬢の、顔?」


 平気か平気でないかで問われたら全く平気ではありませんが?

 だって白百合の化身のごときシェイラ嬢は美し過ぎてドキドキするし。緊張で口から胃が出そう。良くて鼻血。

 今日1日で初対面の時より多少マシだが、やはり顔がみっともなく赤いだろうし、熱くて汗だくな上に息が荒くなる。


 しかし、さすがに惚けた俺でも違う意味だとわかる。


 先程の退場ゲートでのことが関係あるのだろう。

 シェイラ嬢の顔を見た者に、良くない意味で逃げたり避けられ、畏怖の目で化け物と呼ばれていた。


 そう言う意味でならば平気と言えるだろう。

 俺の目には化け物に見えないからな。では、何故?

 俺には飛び抜けて美しい以外は普通の令嬢に見えるし、話してみても少々箱入りだがとても優しく可愛らしい女の子だとしか思えない。


「な、何でもありません!わかってます、気味が悪いですものね?」


「・・・俺には美しく見えます」


 あぁ、言ってしまった。

 語彙力の死んだ俺に言われても嬉しくないし興味ないだろうけど、そんな悲しそうな顔で「気味が悪い」って自分を言うシェイラ嬢に我慢できなかった。


「ふぇっ!?」


 何故か驚いたシェイラ嬢が腕の中でビクッとした。


「今まで生きてきて初めて、あの日シェイラ嬢に一目惚れしました!」


「っ!?――――、あの」


 俺の上着を頭に被ったまま、シェイラ嬢がそっと顔だけ覗かせる。

 先程泣いたせいで潤んだ榛色の瞳が俺を上目遣いで見ていた。ヤバい可愛い。

 しかも俺の膝の上にいるため顔の距離が近い。息かかりそう。俺の口臭大丈夫だろうか。


「・・・ツ、ツヴァイ副隊長様!その、化け物(わたくし)の顔に、触れることはできますか?」


「はいっ、・・・!?」


 流れで肯定した後、言葉の意味を咀嚼してから呆気にとられる俺の目の前で、シェイラ嬢の榛色の瞳が少し赤くなってしまった瞼に覆われた。


 は?へ?

 っえ?ぇええ!?


 シェイラ嬢?男の前で目を閉じたら駄目ですよ!?

 しかも、手より顔の方が距離が近い状態で!

 口付けされても文句言えないから!

 どう見てもキス待ち顔ですけど!?


 ・・・え?


 触れるって、キスってこと?

 していいの?

 本当にしていいんですかね?



 俺、顔から火出て爆死するかも・・・




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