10 シェイラの懺悔
あぁ、最悪です。
さすがに、ここまで酷い事態になるとは思ってませんでしたが。
誰かに私の顔を見られたらツヴァイ副隊長様にご迷惑をおかけするとわかっていたでわありませんか。
本当に、己の愚かさに吐き気がします。
どうして、どうして断らなかったのでしょう。
つい、うっかり?
お見合い相手がいないのに?
ツヴァイ副隊長様が気を使ってくれたから?
滅多に観劇にいけなかいから?
ランチの時大丈夫だったから?
ツヴァイ副隊長様が可愛らしかったから?
言い出すタイミングが掴めなかったから?
劇場の席が個室だったから?
・・・わかっています。
いつまでも気付かないフリをできません。
最初は、ツヴァイ副隊長様が私を見ても悲鳴をあげなかったから。しかも、醜い泣き顔なのにも関わらず!
今までそんな方いませんでした・・・
初対面でしたので、ツヴァイ副隊長様には誰かもわからない不審な化け物であるはずの私。
ドレスなどが認識されていれば、高位貴族の娘であるのはわかって下さったのだと思いますが、それでも王城の中庭に潜むように隠れていた不審な化け物。
後々でよく考えたら、騎士であるツヴァイ副隊長様に問答無用で斬りつけられたり、捕らえられてもおかしくない状況でした。
気付いてからツヴァイ副隊長様という奇跡に感謝しました。
それから、ツヴァイ副隊長様は私が泣き止むまで姿を通路から見えないように然り気無く立って隠してくださいました。馬車までエスコートも!!
何てお優しい方なのかと、気になってしまいました。
例え、通りかかった者が私を見てしまい被害を出さないためだとしても、嬉しかったのです。
えぇ、もうおわかりかと思いますが、この時点で私の中でツヴァイ副隊長様はかなり特別な存在になりました。
ですが、私は化け物令嬢と呼ばれる存在。
ツヴァイ副隊長様にお会いできたのは偶然です。
もう、お会いすることはないだろうと思っていました。
それが、ツヴァイ副隊長様のご実家であるマカダミック伯爵家から結婚の申し込み、というより化け物令嬢相手にお見合いのお手紙が届きました。
お相手は何方か存じませんが、どうせ私の顔を見たら破談です。
近頃お見合いなどは、悲鳴をあげられたり、泣き叫ばれるのに辟易して断っていました。
しかし、ツヴァイ副隊長様からのお優しい親切を返すべく、破談になるのはわかりきっていますが参りましょう!と、軽い気持ちで受けました。
しかし、何故でしょう。
素敵なツヴァイ副隊長様が迎えに来て下さり、お父様以外の男性からは初めてのエスコートでランチまで!
楽しそうに話し、笑顔を見せて下さるツヴァイ副隊長様。素敵です。
さらに、逃げたお見合い相手を庇い、私とお見合いするのはご自分だと。
嘘だとわかっていても、顔に、頭に熱が上がらないわけがありません!
正直に申します。浮かれてしまいました!
観劇に行きたかったのは、
ツヴァイ副隊長様と一緒にいるのが楽しかったから。
私の顔を見ても微笑みかけて下さり、とても嬉しかったから。
もっと、少しでも長くツヴァイ副隊長様の側にいたかったから。
・・・私、ツヴァイ副隊長様が好きになってしまいました。
「・・・ごめんな、さい、ごめっ、なさい、ツヴァイ副隊ちょ、さま」
好きになってしまい、ごめんなさい。
見苦しい嗚咽しか口から出てくれません。
化け物の分際で、幸せな時間を引き延ばそうとした罰です。
私がツヴァイ副隊長様の側にいるのが許せなかった眼光鋭いご令嬢にぶつかりそうになりました。
ツヴァイ副隊長様が私を逞しい腕で引き寄せて下さりましたが、ご令嬢の扇子が私の帽子に当たり、顔を隠すために被っていた帽子が脱げてしまったのです。
私の顔をまともに認識したご令嬢があげた悲鳴を皮切りに、周りの方々も化け物を認識して恐怖に倒れ、逃げ惑いました。
ごめんなさい。本当にごめんなさい。
私のせいで、恐がらせてしまってごめんなさい。
いくら謝ろうが、心で念じようが現実は変わりません。
周りの方々の様子をツヴァイ副隊長様はどのように思われたでしょうか。
いくら、平気なフリをして下さるツヴァイ副隊長様でも、私の酷い影響力を目の当たりにされ、先程までと同じようには接してはいただけないでしょう。
今、何を思われ、どんなお顔をされていますか?
私を畏怖や奇異、嫌悪の目で見られたら・・・
恐くて、知りたくなくて、見たくなくて顔をあげられません。
暫く、いえ、一瞬だったのかもしれない沈黙の後、ツヴァイ副隊長様が私の腰や腕からそっと手を離されました。
「シェイラ嬢、申し訳ありません」
「・・・え?」
耳許で囁かれた声は変わらず優しく、けれど少し悲しそうでした。
胸がズキリと痛みます。
ツヴァイ副隊長様が触れていたところから熱が失われ、じわじわと凍り付くように動けません。
嗚咽が酷く、呼吸が苦しいです。
駄目でした。
ツヴァイ副隊長様が離れていってしまいます。
化け物と周りに知られた以上、一緒にはいてもらえません。
既に、先程まで私をエスコートしてくださっていたツヴァイ副隊長様は周りにどう見られているのでしょう。
ごめんなさい。ツヴァイ副隊長様にご迷惑をおかけして、ごめんなさい。
喧騒の中、ツヴァイ副隊長様が私から一歩離れる靴の音が耳に響きます。
シュッと衣擦れの音も。
「失礼します」
突然、頭から何かが被せられます。
人の温もりが残ったそれと共に男性用の香水の爽やかな香り。
そして、背中と膝裏から持ち上げられた浮遊感。
気が付いたら、安定感抜群の逞しい腕にお姫様抱っこされていました。
「―――っ!?ツヴァイふ、きゃっ」
「批難は後でお願いします」
優しく、けれど有無を言わせぬ声のツヴァイ副隊長様に抱かれ、喧騒から連れ出されました。
あぁ、ツヴァイ副隊長様の香りと逞しい腕に包まれ、頭がクラクラいたします。




