怪盗"M"からの予告状(其ノ陸)
ルインの目の前にはジグソーパズルが広がっていた。徐々に埋まっていくピース。
真上にある照明がジグソーパズルを虹色に照らしていた。
「まだ全てが埋まった訳ではない。しかし、そこから導ける仮説はある。まず、宝石を守る機械及びガラスの状態を見て欲しい。」
機械の周りに散らばるガラスの破片。
「これがどうしたんだ?」
祥子が「あっ」と声が溢れる。何かに気付いたようだ。
「持ち物検査で確認した道具ではこの状況は作り出せないですね。」
「そういうことだ。」
「詳しく聞かせてくれ!!」
祥子は真剣な眼差しでギラギラに輝く破片の砂利を眺めた。
「まず持ち物で野球ボールがありましたが、それではガラスが四方八方に散らばることはありません。
円形なのが分かりにくいので四角として考えます。目の前の一面、奥の一面、そして側面の二面。そこへ、ボールを投げ込んだら前と奥の二面が衝撃を受けて破壊されるかも知れませんが、側面は破壊されません。もし、壊れることがあるとしたら重量に耐えられなくなった時、その時は機械ごと落ちてくるでしょう。」
ガラスに投げ込まれる球。その球が真っ直ぐガラスを突き破る。そして、奥のガラスを破壊して外へと飛び出した。
壊れたのは衝突した部分とその周りだけで他の部分は無事だった。
「さらに言えば、ボールを投げたとしたらそのボールは手元にはなく地面を転がっているでしょう。ここから、縣さんの野球ボールでは破壊不可能ということが分かります。」
投げたボールは地面を転がる。それを拾ってリュックにしまう時間はなかった。
つまり、野球ボールではこの状況にはならない。
「そして、ガラスの破片の残骸は四方八方で外へと飛び散っています。すると、衝撃は内側から起きたのではないでしょうか?」
もし野球ボールがガラスに衝撃を与えた時、最初に衝突したガラスの破片は宝石のある機械内部へと飛び散る。
ボールは内部から外部へと出るように後ろの一面を破壊する。その時、ガラスは外へと飛び散る。
つまり、ガラスが外へと飛び散ることで内部から外部への衝撃だったことが証明された。
「内部からの破壊説が有力です。」
祥子は淡々と話していく。それを聞き、愛家は何度も頷いた。
「そして、田中博士の持つ機械ではガラスを壊すことは難しいでしょう。この機械もまた外部からでしか破壊出来ない。」
内部から破壊するということはガラスで守られた内部へと侵入するということだ。それは基本的に不可能である。
「それじゃあ何故、ガラスを破壊されて宝は盗まれたのか。」
愛家は悩んだように上を向いた。その態度を見た祥子は「すみません。そこからは分かりません」と困った態度を見せた。
その時、ルインはガラスの砂利へと立った。
「この破片を触れてみてくれ。」
その一声でルインに続いて祥子、健治、愛家が破片を持ち上げた。
健治が何かに気付いたようだ。
「これ、少し温ったかくないか?ガラスは冷えているはずだ。」
「どういうことだ?」
「それは私が説明しよう。」
ルインは片手を横に上げた。
それによって羽織るコートが靡いた。
「この宝石は最も美しく見せるため、マイナス三十度に保たれていた。ガラスの内部は冷気が出るほど冷たくて当然なのだ。だが、今この破片は温い。」
冷気が出る程冷たいガラスの中に宝石があった。
この部屋に入るために通る部屋の棚に置かれた白い花が冷気を纏い優しく微笑む。
何故冷たいガラスは今温いのか──
健治にはピンと来ず首を強く捻っていた。
「それで何故冷たくないんだ?」
「それはガラスを破壊する時に温められたからだ。それも結構な熱さだ。」
「どういうことなんだ?」
ジグソーパズルが埋まっていく。
そこから発せられる光がガラスに向かって進み、ガラスがその光を乱反射する。
「そう。これが今回のトリックの種だ。」
色の帯が分解され、虹色の光線があちこちに進む。ルインはその光を操る。光はルインの元に吸い込まれ、ルインを華麗に魅せた。
「私の仮説が正しければ……」
「怪盗"M"の正体は藜 慎也だ!!」
何故ガラスが冷たいのかは其ノ参に詳しく書かれてます。




