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怪盗"M"からの予告状(其ノ漆)

 スペクトルが分解され、虹色の光線があちこちに進む。ルインはその光を操る。光はルインの元に吸い込まれ、ルインを華麗に魅せた。


「私の仮説が正しければ……怪盗"M"の正体は藜慎也だ!!」


 よく見ると藜が震えているのが分かる。

 飯田は穏やかなトーンで口を動かした。


「どうしてそのように思われたのですかな?怪盗"M"の最大の被害者が怪盗"M"本人とは意味が分かりませんですぞ!!」

「そうだ!我は財産なる宝を幾つも奪われたんですよ!!我が怪盗"M"な訳があるわけないですよ!」


 ルインは宝石があったはずの機械の前へと立った。


「奪われたと見せかけて怪盗"M"を作り出した。そしてそれは、ライバルを蹴落とすための作戦に対する投資。ライバルを蹴落とせるなら奪われた宝などどうでも良かった。」


 藜はそれを聞いてから、発する言葉が小刻みに揺れる。もはや、胡散臭い。


「そ、そ、そんなことは。そ、そもそもどうやって穏風と妖精の宝石(シルフ・ジュエリー)涼介(あいつ)の所にあるのですか?」

「簡単だ。暗くなった時に宝石を外部へと出して、鞄へと入れればいい。その眼鏡なら暗闇でも見えるだろう。」


 藜の眼鏡は停電する前には変えられていた。

 愛家は「少し頂戴(ちょうだい)する」と眼鏡を取り去った。


「鳳探偵の言う通り、これは暗視眼鏡だ。」


 愛家は眼鏡を掛けたり外見を見渡したりして、見終わったら藜の元へと返した。


「全ては(ふところ)によるトリック。元から停電するようにいじることも機械の外へと宝石を移動させることも懐の人物なら容易(たやす)いことだな。」


 愛家は納得するように首を縦に振ったがすぐに止めて今度は横に振った。


「だが、どうしてガラスは破れたんだ?」


 ルインは宙に浮くジグソーパズルのピースを埋めていた。

 ピースを埋める作業の手を止めるとルインは部屋全体を見渡した。


 「それでは私の仮説でこの事件の真相を解き明かそう。」


 深夜の静けさがルインの声を響かせた。


「まず藜はライバルに蹴落とそうと思った。そして、この策を思いついたんだ。」

「成程。儂は最近、大発明をしたんじゃ。その発明を公表すれば藜は儂により表に出にくくなる。それに、日本一の研究者としてのプライドもありそうじゃしな。公表よりも前に蹴落とそうとしていたんじゃな。」


 藜は涼介の研究が公表されることを恐れていた。

 公表されれば涼介に負けるどころか、今後の研究者人生で表舞台から去ることになる可能性が高い。今まで築いたトップの地位は落ちてしまう。

 藜は今後の研究者人生のために涼介の発明の公表だけは阻止したかった。しかし、真っ向から阻止する方法は見つかりやしない。

 そこで、涼介を怪盗と見せたて彼を蹴落とすことを考えた。


「別荘や実家は藜の私有地。盗まれたように工作する暇もあるし、バレる可能性も低い。自ら予告状を作り自ら怪盗に狙われているフリをした。結局、怪盗"M"が存在するように見せることが出来た。警備会社では所有者には勝てず、次の所有者の埋め合わせでは勝てるはずなかった。」

「そう考えると警備会社が一番可哀想(かわいそう)だよな」


 宝石は守られていた。

 警備会社達により宝石が守られる。誰も藜がそれを隠そうとは思ってもいなかった。

 宝石が取られた。いや、隠された。警備員達は取られたと思っていた。まんまと出し抜かれたと。だが、違った。宝石は盗まれてなかったのだ。

 負けたと見なされた警備会社の地位は落ちた。


 金塊は守られていた。

 ただ、配備した人達も守る機械も全て盗む側の手中(しゅちゅう)にいた。

 藜の駒は金塊を巧妙に盗まれる、いや隠される布陣にいる。

 彼らは藜の手の中で踊り、悔しみだけを押し付けられる。勝つ(すべ)のないマリオットだ。


「この二つの事件で怪盗"M"は脅威と見なされ警察が動く羽目になった。次の事件で怪盗"M"が涼介だと見なされなければならない。そのためにやることがあった。」

「やることとはなんじゃ?」

「涼介と会うことだ。」

「それでアポまで取って儂の家にわざわざ会いに来たのか?」


 藜は電話で涼介に会う日を決定した。

 約束の日、藜は涼介の家へと入っていった。


「そこで一つ涼介に確認したいことがある。」

「ほう、なんでも聞いちょくれ」

「そこで賄賂は受け取ったのか?そして、その家で藜から目を離した時はあるか?それは、どれぐらい離しているか?だ。」

「賄賂は受け取った。これは確かだのう。迷惑電話がきて目を離した時もあったのう。確か、十分ぐらいかは藜は自由じゃなかったかのう。そういや、儂が戻って来た頃には不審な行動をしていたのを見られて慌てて何も無かったよえに振舞ってたのう。まあ、なんにも不審なことはなかったし未遂ではなかったのかの。」

「成程。多分、それは不審な行動の後始末の一つだろう。」

「我は賄賂なんかやってない!!」


 藜は家の中へと入った。

 何時間後、藜の放った使者が涼介に迷惑電話をかける。電話を取った涼介は静かな家の外へと出て電話に集中した。

 その間に、藜は家の中を歩く。


「藜は涼介の家で盗まれたとされる宝石と金塊を隠した。例えば、収納庫の中など日常的に全く使わない所へ隠せばいい。次の事件まで間もないため、すぐに見つからなければよい。」


 藜は収納庫を勝手に開けて宝石と金塊を隠した。

 収納庫を開けたことを気付かれないように工作していく。最後の工作の時に涼介が戻ってきた。そのせいで、慌ててしまった。

 慌てた藜だが、収納庫も工作も涼介にバレることはなかった。


「それなら、現行犯で田中博士が捕まった(のち)、家宅捜索の際に二つの事件で盗まれたとされる宝石と金塊が見つかれば田中博士が怪盗"M"で疑われなくなりますね。」


 緻密(ちみつ)な作戦が(うごめ)く。

 影に隠れて藜はニヤリと笑っていた。三つ目の事件、それが最後のミッションだ。最後まで失敗出来ない。藜は闇に隠れて成功を祈っていた。


「予告状の日。藜は自ら予告状を警察に送り出した。怪盗"M"が送ってきたという(てい)だ。それに踊らされた警察や私達、そして飯田がここに呼び出された。そして、証人となる縣、怪盗"M"の役を押し付ける予定の涼介。そうして役は揃った。」


 藜の持つ駒、飛車。

 だが、飛車は龍へと成り果てた途端、急に(ひるがえ)し藜に牙を向く。それをきっかけに他の駒が反旗を翻していった。

 最強の持ち駒、飛車は王である藜に王手をさすためジグソーパズルを埋めていった。

次回、答え合わせの後編が始まる!!

ガラスの謎はどう暴かれるのか?

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