村 その1
「おもい……だした!」
生まれてからちょうど5年。前世の記憶を取り戻したのだ。
ここはど田舎の村のすぐ横。西側に広がる森の中。
まるで少女のようにかわいらしい少年は小さな袋を片手に1人でキノコ狩りをしていた。
自分の前世は学生で、風呂で転んですってんころりんと神様に合って、異世界に来れたことを思いだし、喜びに震え、両手をあげて叫ぶ。
「ふふふ、ぼくのじだいのとうらいだ!!」
そして手を前にかざし、心のまま唱える。
「ふぁいあーぼーる!」
もちろん魔法なんて出ない。
この世界ではスキルと魔力さえあればすぐに魔法を使うことができる。だが、この少年は何のスキルも持ち合わせていない。さらに持っている魔力も最底辺。魔法が使える要素は皆無である。
「いでよ、すてーたす!」
ステータスも出ない。
「すてーたす、おまえもか……」
異世界定番のすぐに見れると思われたステータスにも裏切られ、両手を地面につき、うなだれる。
「きっとまりょくがたりないんだな、まりょくそうさだ! まりょくをふやすぞ!」
少年はすぐに気持ちを切り替える。まだまだこれぐらいなら想定内だと。
記憶を取り戻した主人公が強くなるタイプならこういうことだってよくあるんだと。
少年にとって、できないならできるよう努力する。それだけの話なのだ。
まずは自分の体内の『何か』を探す。何かわからないが、その『何か』が魔力なはずだと。
(あ、これが魔力かな?)
体内の中で額と心臓、臍の下あたりに魔力っぽい前世で感じたことない『何か』を感じとる。
少年は前世でも自分の魔力を無駄に探したり、気の修行と称されること行っていた。そのころは思春期特有の病にかかっていたのだ。だからこそ今回すぐに気づくことができた。
前世では無意味でしかなかった行為が意味を持つ。
「まりょくをあつめて……こねこね、こねこね」
体内で魔力の集中を軽々とこなし、それをこねるように動かす。今は合わせても小豆程度の大きさしかないがそれを操ることができている。これがすでに異常なことだとは知る由もない。
「うーん、うごかしたりすることはかんたんだな。でも、まりょくをつかいきってふえるたいぷだったらこまるなー」
やれやれこのまま様子見かなと考えて、他にやれることもないので体の中の魔力を適当に動かしながらキノコ狩りを続けることにした。
前世で読んだ物語では魔力は使い切ると死ぬもの、使い切ると増えるもの、とにかく使っていたら増えるものなど、様々なパターンがある。この世界がどれに当てはまるのかはわからない。だからこそ、試してみるしかないのだ。
少年は楽して強くなろうとは考えていない。初めにチート能力が与えられていない時点でほぼ不可能だからだ。
チートが与えられなかった主人公たちはみな努力して強くなっている。だから今はこの村から出ていくまでに強くなっていればいいと考えている。
「さあ、キノコキノコー。のこのこやってきたなキノコ!」
この世界の普通のキノコは歩いたりしない。単に少年が記憶を取り戻せたことで気が高まっているだけだ。
5歳になったばかりの子どもにキノコを1人で取りに行かせるなんて普通では危険極まりないことだが、ここは平和で安全な村。近いところならある程度は許容されるのである。
少年が親と交わしたルールは家が見える範囲から離れないこと。
ルールは守ろう。