11話 決闘で恨みを晴らす (四)
俺は衛兵に大人しくついていった。
明らかにむこうに非があるのだからすぐに解放されるだろうと甘く見ていたのだ。
さらに言うならば、何かあったとしても暴れればなんとかなると思っていたこともある。
それに対して、糞王子はまるで場馴れしているかのように落ち着いて、衛兵の指示に素直に従っている。
少し不気味だ。
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そして取り調べが始まった。
「領主を呼べ。お前ら愚民に話すことなどない」
いや、取り調べは始まらなかった。
糞王子はまるでクレーマーが店長を呼べと言っているかのように、当たり前のように領主を呼出すつもりのようだ。
衛兵たちはイライラしたようだけど、他国の王族相手だと外交にも関わることなので仕方なく領主を呼び出すことにしたようだ。
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「待たせたね」
「遅い! たかだか妖精領の一領主ごときが、栄えある王国の王太子をこれほど待たせるとは無礼だよ!」
やって来た領主を見て驚いた。
そこにいたのは素材屋のお姉さんだった。
どうりでソフィアたちのトラブルに詳しかったはずだ。
「おやおや。白昼堂々誘拐をしようとしていた賊を捕まえたと言うから来てみれば……殿下でしたか」
「僕を誘拐犯扱いするとは! 死ぬ覚悟は出来ているんだろうね?」
「ほう? 誘拐ではないと?」
お姉さんは顔には笑みを絶やしていないが、明らかに苛々しているようだ。
糞王子に次々と挑発するような言葉を投げかけていた。
「貧しい孤児を我が妃に迎えてやるんだ! 孤児として明日をもしれぬ暮らしをするより、僕の妃となる方が幸せに決まっている!! 言うならばこれは民の救済だ! それを誘拐犯呼ばわりするとは……これだから田舎ものと言う奴は」
まだ五歳程度であろうソフィアの妹を妃にするつもりだったのか。
糞王子はとんだロリコンの変態野郎だな。
彼女に結婚はあと五年は早いだろうに。
「それで、ソフィアとイリスはそのことに納得したのかい?」
お姉さんは二人に尋ねた。
「いいえ。その話は以前から何度もお断りしていたのですが、今日はイリスが攫われそうになって」
「イリスはね、嫌だって言ったのにね、無理やり腕を引っ張られたの」
お姉さんはわざとらしく考えるようなふりをした後、こう続けた。
「二人はこう言ってますが?」
「ふん。愚民の意見なんて関係ないよ。王太子の僕が決めたことなんだからね」
「おい、そこの糞王子! お前は振られたんだ。いい加減に諦めろ」
糞王子の言い分に苛々してきて、つい二人の会話に割り込んでしまった。
「この僕を糞王子だと?」
「ロリコンストーカーの変態王子の方がよかったか?」
俺の挑発に糞王子の顔はどんどん真っ赤に染まっていく。
「貴様……! 決闘だ! 決闘を要求する!」
「殿下。今回は前回と違って悪事を目撃した者がたくさんおります。そのようなゴリ押しはまかり通りません」
「お姉さん。俺は構いませんよ」
せっかくの復讐の機会を逃す訳にはいかない。
「ふん。身の程知らずが。決闘場で待っているぞ」
そう言うと糞王子はさっさと出ていってしまった。
「やれやれ。本当に大丈夫なのかい? 相手はあの五大英雄の一人ユーインだよ?」
「大丈夫です。僕には策がありますので」
簡単なことである。
ようは、たたっ斬ってぶっ飛ばせばいいだけだ。
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俺は再び決闘場にいた。
今度は助っ人ではなく当事者である決闘者としてだ。
目の前には立会人もいる。
ここに来るまでに衛兵に聞いた話では、前回の決闘も糞王子のゴリ押しだったようだ。
糞王子はソフィアの妹を手に入れるために色々裏から手を回していたのだけど、埒が明かないので短絡的に拉致しようとしたのが今回の事件の経緯らしい。
ダンジョンでのトレイン騒ぎも、邪魔なソフィアを始末するのが目的だったようだ。
騒ぎを起こした連中が妙に羽振りがよかったのも糞王子が資金源だったのだろう。
「まずは決闘のルールを確認する」
立会人は前回と同じ人のようだ。
「決闘者が決闘の決着がつく前に舞台から降りた場合には、神聖な決闘を穢した罪にて晒し首とする。助っ人が決闘の決着がつく前に舞台から降りた場合には、逃亡したものとみなし決闘が終わるまで手出しすることを禁止する。舞台から降りた後も決闘に手出しをしようとするならば、これも神聖な決闘を穢した罪にて晒し首とする。また、どちらかの決闘者が全員、戦闘不能または舞台から降りた時点にて決着がついたものとする。双方異存はないな?」
だんだんとイライラしてきた。
さっきは頭に血がのぼっていたので忘れていたが、本来ならばそろそろ商品の受け渡しの時刻だったことを思い出したからだ。
それをこんなくだらない決闘のせいで後回しにしてしまった。
「ありません。そんなことよりさっさと始めてください」
こんな決闘なんてどうでもいい。
そんなことより早く商品を受け取りたい。
「ない。勝敗はわかりきっているしな」
「あやまるのなら今のうちですよ。もちろん、あやまっても許してやりはしませんがね」
それに戦う前から完全に勝った気でいる糞王子とユーインの態度が余計に俺をイライラさせる。
「アルサン側は決闘者一名、ユーインが助っ人で間違いないな?」
「間違いない」
「紫のゴンドラ側は決闘者一名のみで間違いないな?」
「ありません」
とっさに思いついた偽名が『紫のゴンドラ』だ。
俺と最も縁がなさそうなものなのに……。
なぜかわからないけど、地元だからかこの名前が頭に浮かんだんだ。
正直、別の偽名にしておけばよかった。
「それでは、決闘の開始を宣言する!!」
立会人の合図とともに舞台が歓声で包まれた。
「さっさと降参しちまいな。俺様のファンをいたぶるような真似はしたくないんでな」
決闘開始の合図とともにユーインが余裕たっぷりに話しかけてきた。
「誰がお前のファンだって? ふん。剣を振るより腰を振るのが得意な太牙流さんの尻穴剣士さんよぉ?」
「何がいいたい?」
俺の言葉に露骨に尻穴剣士が反応した。
「本当にわからないのか? 糞王の、糞穴の具合はどうだったのか聞いているんだよ! ホモの総本山、太牙流の尻穴剣士さんよぉ?」
太牙流の開祖はユーインの祖父なのだが、当時の王とそういう関係だったのがきっかけで現在の立場――王家の剣術指南役に取り立てられたという噂があったのだ。
そのことはユーインのコンプレックスにもなっていて、当時からパーティー内でもその手の話はタブーだった。
「……」
糞王子が無言で、すすっと尻穴剣士から距離をとった。
「賢明な王子様だな。掘られないように、尻をおさえながらお前から距離をとったぞ」
「糞ガキッ! ぶっ殺してやるッ!!」
短気な尻穴剣士は先程までの余裕が嘘のように、顔を真赤にして怒鳴った。
わかりやすい奴だ。
奴は背負っていた大剣を引き抜きながら走り寄ってくる。
非常に重そうな大剣を武器にしているのにも関わらず奴の動きは常識外れなほどに速かった。
凄まじい速度の斬撃が俺を襲う。
ばれないようにこっそりと肉体強化の魔法を使ってそれをギリギリで躱す。
「どうした、どうしたぁ! 逃げるばかりしか脳がないのか? 」
奴らには、躱すのがやっとで防戦一方に見えているだろう。実際にそうだ。
そこに関しては演技ではない。
魔法を制限して戦っているので、はっきり言えば分が悪いのだ。
ならば、魔法をもっと積極的に使うべきなのだが……魔法と剣の両方が高レベルだと知られると、そこから正体がバレる可能性がある。
特に魔法を主体にした戦い方というのは個人差が出やすく、正体の特定に繋がりやすいのだ。
だから、こんな大勢の観客がいるような場所では魔法を派手には使えない。
それに尻穴剣士は俺の戦いの癖を知っている。
もし正体を見抜かれたらますます分が悪くなってしまう。
だが、そんな制限した状況では形勢はドンドン悪くなっていく。
「動きが悪くなってきたんじゃないか? もう終わりかぁ?」
勝利を確信したのか、尻穴剣士の表情には余裕が色濃く現れていた。
それでも俺はただひたすらにその時を待っていた。
気が付かれぬように少しずつ誘導しながらその時を待っていた。
尻穴剣士の攻撃は鋭くて、完全には躱すことが出来ずに少しずつ俺の体に生傷が増えていく。
それでも。
それでも俺は待ち続ける。
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・・・
そして、ついに時は来た。
尻穴剣士は攻撃に夢中で気づいてない。
「トドメだ。くらいやがれぇ!」
行けるっ!
大振りでとどめを刺しに来た奴の攻撃をギリギリで躱し、カウンターの斬撃を放つ。
俺のその狙いすました一撃を奴は『躱した』。
「おしかったなぁ。俺相手じゃなければ今ので決まってたかもな」
実はこの斬撃は斬るためのものではない。
斬撃を衝撃波として飛ばしたのだ。
俺と尻穴剣士と糞王子は今、同一直線状に並んでいる。
当然、尻穴剣士が躱した衝撃波は、真っ直ぐに糞王子に向かって飛んで行き……。
ボゴッ。
当事者であることを忘れて呑気に構えていた糞王子を、その目に見えない衝撃波が吹き飛ばした。
ドスン。
そして奴はそのまま場外に尻もちをつきながら転げ落ちる。
「勝負あり! アルサンの場外逃亡により、 紫のゴンドラの勝利!」
静まり返った決闘場の中で、立会人の声だけが響いていた。
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