#1 メイド服
「ちょっと男子ぃ~、喧嘩はやめて~?」
本気で怒ってるやつの喧嘩に、こんなこと言いながら割って入ったら、どうなるかわかる?
「うわっっ」
胸倉をつかまれまーす。
「いでっ!」
窓に叩きつけられまーす。
「ししし死ぬ死ぬ死ぬっ! 二階! 結構高いから!」
上半身を窓の外に出されそうでーす。
俺の襟元をがっしりつかんでいる志麻の手を、ばしばし叩く。
志麻は汚い者でも見るみたいな顔して、鼻を鳴らした。
「一回頭打ってきたらマシになるんじゃねーの」
10分くらい前からやり直したい。
けど、たぶん何度やり直したって、俺はおんなじことをしちゃうだろうな。
ついさっきまで、教室はお祭り騒ぎだった。
学級委員の葛西がせっかく用意した段取りを無視して、大塚を筆頭にメイド服争奪戦が行われたんだ。
「ぎゃはは!! 待って蓮司、来ないで!」
大塚の肩に担がれた瑠伊が涙流して笑ってる。
大塚と佐伯も顔を見合わせて吹き出して、俺から距離をとった。
「うわー変態がいまーす!」
「パンツ見えてっから! きったねー!」
まぁ確かにそう言われても仕方ない。
争奪戦に敗れた俺は、182センチある身体を男女兼用Mサイズのメイド服に詰め込んでるんだからさ。
でもお前らだって結構見苦しいメイド姿だぞっ。瑠伊はだいぶ似合ってるけど。
でかい声で騒ぐ大塚たちを、机の間を縫って追いかけて、ルール不明の追いかけっこが始まる。
「お巡りさん助けてえっ」
佐伯は廊下側の席に座っていた桐原を盾にした。
柔道で鍛えたでかい身体に、佐伯の姿はすっぽり隠れる。
桐原は顔を上げて、穏やかな目を細めた。
「何でそんなぱつぱつなんだよ」
「3L頼んでたんですっ、それなのに……3Lはもうないって、葛西に言われてっ……ぐすっ……」
「ご愁傷様です」
ぺこ、と頭を下げながら、桐原はうなだれている俺の手首をごつい手でつかむ。
「公然猥褻罪です、おつかれ」
「ちょちょっ、待ってよ桐原まで……」
とか言いつつ、こういう時にノってくれる桐原のこと、俺は大好き。
ははっと軽快に笑って、桐原はぱっと手を離した。
「早く着替えろよ、次現文だぞ」
「えええっ!? ロングじゃないの?!」
でかい声出したら前の席に座っていた南雲に睨まれる。
「あ、ごめ……うるさかった?」
南雲は答える代わりに特大の舌打ちをして、再び前を向いた。それで何事もなかったように、メイド服についたシワを手のひらでしきりに伸ばしている。
うひょー。こえー。
そんなことしているうちに、桐原に隠れていた佐伯はいつの間にかいなくなっていた。
あいつどこ行った!?
「葛西、ほっときなって……」
切羽詰まったような声がして、教卓の方を振り返る。
文化祭実行委員の広瀬が、困ったような顔をして葛西に声をかけていた。
葛西は窓際の席で突っ伏している志麻惟久の背中に触れて、何か話しかけようとしている。
次の瞬間、机がひっくり返る激しい音が響いて、一度に静寂が訪れた。
志麻がものすごい勢いで立ち上がったんだ。
どうしたの。
なんでそんな怖い顔してんの。
そうやって前みたいに、聞けたらいいのに。
葛西は倒れた机と志麻の殺気立った目を交互に見ては顔を青くして、赦しを乞うみたいに引きつった笑みを浮かべた。
「ご……ごめんって。でも、確認しなきゃいけないことが……」
「……あ?」
志麻が一歩葛西に近づく。
今にも葛西の胸倉を掴もうとしているのに気づいて、俺は慌てて間に入った。




