今日からお世話になりますわっ!
ラストリーフ支部の朝は、いつもより少しだけ賑やかだった。
「──本日より、こちらで正式に勤務させていただきます、カミーユ=フロリネッタと申しますっ!」
朝礼の場で、金髪の巻き髪を揺らしながら、カミーユが勢いよく頭を下げた。
制服は支給品だが、リボンやレースでどこかアレンジされている。
その姿を見て、職員たちは一斉にぽかんとした。
(や、やっぱり……インターンのときとテンション変わってない……)
ミーナは内心で悲鳴を上げながら、それでも笑顔を作った。
カミーユは、あのときと同じ、いや、それ以上にまぶしかった。
「世間勉強がとても楽しかったので、こちらに再就職させていただきましたの!」
朗らかに宣言する彼女に、支部内の空気が微妙に固まる。
遠くのカウンターでは、リリアがクスクスと笑いを堪えていた。
「……はい。フロリネッタ契約職員、配属確認しました」
淡々と書類を読み上げるアルフォード支部長も、どこか眉間に皺を寄せている。
「以後、業務指導はミーナ副支部長に一任します。適切に対応を」
「は、はいっ!」
思わず背筋を伸ばして答えるミーナ。
(あ、あのテンションを……わたしが……)
不安しかないスタートだった。
朝礼が終わったあと、カミーユがきらきらした目で近寄ってくる。
「ミーナ先輩! 本日から、どうぞよろしくお願いいたします!」
「ど、どうぞよろしくお願いします……」
思わず敬語で返してしまうミーナに、リリアが遠くから親指を立てている。
(応援してるってことですよね!? ね!?)
心の中で叫びながら、ミーナは覚悟を決めた。
***
「では、まずは支部の案内から始めましょうか」
「はいっ! 楽しみですわ!」
制服のリボンをひらひらさせながら、カミーユは元気よく答える。
その無邪気な笑顔に、ミーナはふっと肩の力を抜いた。
(……うん。大変そうだけど、悪い子じゃないんだよね)
「こちらが受付カウンターです。主に来訪者対応と、書類受付を担当します」
「わあ……っ、なんだか冒険者ギルドみたいですわね!」
「え、えっと、まあ、似てる部分もありますけど……」
(そんなワクワクする場所じゃないです……たぶん)
支部内を一通り案内しながら、ミーナはカミーユの素直すぎるリアクションに、なんだかむずがゆい気持ちになっていた。
「資料室はこちらです。過去の斡旋記録や、求人票が整理されています」
「すごい……歴史を感じますわ!」
(ただの紙の山にそこまで感動できるの!?)
心の中で全力ツッコミを入れながらも、ミーナは少しずつカミーユのペースに慣れつつあった。
最後に、事務スペースで立ち止まる。
「ここが、わたしたちが日常業務を行うメインの場所です」
「はいっ、しっかり覚えましたわ!」
カミーユは真剣な顔でメモを取っている。
(……見た目に反して、案外まじめなんだな)
そんな感心が、ミーナの中に少しずつ芽生え始めていた。
遠くからちらりと見ると、リリアがまたニヤニヤしている。
(な、なんですかその顔は……!)
戸惑いながらも、ミーナは自分に言い聞かせた。
(大丈夫、大丈夫……最初は戸惑うのが普通……たぶん……)
今日からまた、支部に新しい風が吹き始める──そんな予感がした。