働くって、何だろう
──ラストリーフ支部・職員作業室。
ミーナは、自分の机に座り、そっと一冊のノートを開いた。
それは、彼女がこの支部で働き始めたころから、ぽつぽつと書き続けてきた、個人用の業務日誌だった。
改めて見返すと、拙くて、恥ずかしくなるようなメモばかりだ。
(でも……どれも、私にとって、大事な一歩だったんだ)
ふわりと、微笑みがこぼれる。
今までに出会った依頼人たちの顔が、ひとり、またひとりと心に浮かんだ。
──カイ=ローデス。
──レイト=ヴァレンタ。
──ディアル=フェルド。
そして、あの頃の自分自身も。
ミーナは、静かにペンを取る。
ページの一番最後に、こう記した。
『働くって、誰かと歩くことかもしれない』
ただ食べるために、生活のために、働くだけじゃない。
誰かと関わり、支え合い、喜びを分かち合い、時には迷いながらも、少しずつ前へ進む──
それこそが、ミーナにとっての「働く」という意味だった。
──
そのとき。
「おーい、ミーナ! ティーブレイクにしようぜ!」
休憩室から、チットの元気な声が響いてきた。
「ミーナちゃん、クッキーあるよ〜☆」
リリアも手を振っている。
ベイルとヨハンは無言でカップを手にし、ハナミはティーポットを抱えて歩いてきた。
サラは静かにティーカップを並べ、エドリックは何やら手作りの資料を抱えてうろたえている。
カミーユは満面の笑みで、ハーブティーを両手に抱えていた。
最後に、支部長室から出てきたアルフォードが、少しだけ、柔らかな表情で告げる。
「休憩も、仕事のうちだ。全員、きちんと取るように」
ミーナは、ふっと力を抜いた笑顔を見せた。
(……うん。私、この場所が、好きだな)
ノートをそっと閉じ、ミーナもまた、仲間たちの輪の中へ歩き出す。
──
そのとき、リリアがこそこそと寄ってきた。
「ねぇミーナちゃん、聞いた? 今度、新人さん来るんだって~!」
「えっ、新人さん?」
ミーナが目を丸くすると、リリアはいたずらっぽく笑った。
「うん、本部研修組からラストリーフに配属されるらしいよ~! 名前はまだ内緒だけど!」
(……そうなんだ)
小さく笑って、ミーナは静かに呟いた。
「今度は、私が“迎える側”だね」
──これまで、支えられてばかりだった自分が、今度は誰かを支える側になる。
──これまで、教わってばかりだった自分が、今度は教える立場になる。
それが、なんだか、くすぐったくて、でも、とても誇らしかった。
これからも、たくさんの出会いと、たくさんの歩みがあるだろう。
でも、もう迷わない。
ここは、自分が選んだ場所だから。
そして、誰かの“働く”を支えるために、今日もまた歩いていくのだ。
──ラストリーフ支部の一日が、また穏やかに過ぎていく。
【完】




