白い閨で、雪を散らして
こんばんは、遊月です!
毎週日曜日恒例のようになってきた、百合のお話です。今回は主従?関係の少女たちの物語……
本編スタートです!
「んっ、ご主人様……っ、声が、ふ――――、」
「ふふふ、白雪、可愛い……♪」
ご主人様は、いつもわたしの頭を撫でながら微笑んでくださいます。いいえ、頭だけではありません。頬や首筋、背中や腕、胸やお腹、脚に、他の方には見せられないような場所まで、ご主人様は優しく撫でてくださるのです。
まだご主人様みたいに大人の身体にはなれていないから、じっと見つめられるのは恥ずかしいけれど、ご主人様はそんなわたしを見つめているときだけは優しくて、幸せそうなお顔をなさいます。それを見ていると胸の奥がとても温かくなって、身体の奥がじゅん、と熱くなるのを感じます。
わたしも、ご主人様が満足されて幸せです。
けれど、ご主人様に撫でていただいている間には、幸せ以外のものもたくさん感じてしまいます。
訳もわからずぞわぞわとした震えが込み上げてきて、その震えに逆らえずに泣き声をあげてしまうことなど日常茶飯事で、時々はご主人様のベッドに粗相をしてしまうこともあります。こんなの、お家を追い出されても文句の言えないことです。それでもわたしがご主人様のお側にいられるのは、ひとえにご主人様のお慈悲によるもので、感謝してもしきれません。
だからわたしは今日も、誠心誠意ご主人様――凛様にお仕えするのです。
* * * * * * *
「それじゃあ、外にいてね、白雪?」
「はい、凛様」
「学校では“さん”でしょ? 私たちは友達なんだからね?」
今日も、凛様に軽く窘められてしまいます。
夕暮れ近い放課後の教室。その外で、今日もわたしは凛様がお出でになるのをお待ちするのです。閉めきられた扉のなかで何が行われているのかは、窺い知れません。ただ、凛様の『お待たせしました♪』という少しだけ弾んでいるような声と、それに応じるように微笑む上級生の方……確か、浪川さん、と仰ったでしょうか、だったかと思います。
凛様は毎日この時間になると、浪川さんとお会いになられます。わたしもご一緒に、と申し上げたときには、珍しくお強い口調で止められてしまいました。そのときに、中を窺うことも禁じられてしまったのです。
せっかく凛様のご厚意で通わせていただいているこの学校を追い出されてしまっては、もちろんわたし自身は凛様のお側にいられたら何も不自由しませんが、学校にいらっしゃる間の凛様をお世話できなくなってしまいます。ですから、わたしは今日も、凛様の言いつけに従って、教室の前でお待ちするのです。
凛様は誰かが入ってきそうなら止めるように、と仰いますが、授業もすべて終わり、部活動もほとんどが練習を終えて解散しているような下校時刻寸前の時間に教室を訪れる方はほとんど降りません。凛様ご自身も、帰ってからはお勉強やお食事などすることがあるのですから、早めにお帰りになった方がよいようにと思いますが、それを申し上げたときにそれはできない、と仰ったのです。
『私はね、毎日浪川さんと会わなくてはならないの。お願いだから、わかって。そして、浪川さんが帰った後、私の側にいてほしいの。お願い、白雪』
わたしを可愛がってくださるときの余裕に満ちた美しさはなく、ただ孤独に震える幼い子のようなお顔でした。そして街灯に照らされた悲しげなお顔の理由について、今もお話しになりません。
けれど、それが何だというのでしょう?
凛様が望むのなら、そのように。それで十分じゃありませんか。そう言い聞かせて、わたしは入り口に立ちます。
凛様が浪川さんとふたりきりになられると、決まって泣き声に似た声が教室から聞こえます。笑っておられるのは浪川さんでしょうか? おふたりが何をされているのか、わたしにはよくわかりません。
気にしたくはありませんが、凛様のお声が濡れているとやはり気にはなるのです。うっかりドアにかかりそうになった手を軽く叩き、自分を諌めます。
『やだ、だめ……っ!!』
凛様が、いつもより大きな声で泣いていらっしゃいます。すぐにでもお助けしたいのに、きっと止められてしまうことがわかっているせいで足が動きません。
自分が情けない……凛様を信じて待つこともできないなんて。
歯軋りして、そっぽを向いたときでした。
「あんたも忘れ物?」
ふと涼やかな声がして顔を上げると、そこにはどこか冷めた目をされた、月のような銀色の髪がとても美しい方が、そこに立っていました。
前書きに引き続き、遊月です!
突然白雪の前に現れた謎の少女。彼女の登場によって、物語は展開を変えていくのです……
次回、お会いしましょう!
ではではっ!!