表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乱れた髪を結ぶ手は  作者: 遊月奈喩多
2/3

月の音色は密やかに

こんばんは、遊月です!

殺伐感情戦線「髪」、2話目です! 少し遅くなっておりますが、明日には完結させられると思いますので、お付き合いくださいませ!


本編スタートです!

「え、あ、その……」

 もしかしたらよくお見かけしている方だったのでしょうか? けれど、わたしはこんなに美しい方を見たのは、生まれて初めてでした。もちろん、凛様の美しさもよく存じておりますが、目の前にいらっしゃる方の美しさは、まるでこの世のものではないかのよう。

 夕暮れ時は逢魔が時とも言われますし、まさかそういう類いの……と一瞬でも思わなかったかと問われると、自信を持って頷くことなどできようもありません。


「えっと、今、あの、外にいて、」

「うん、あんたが外にいるのはわかってるけど……あ、もしかしてあんた、(まゆみ)(りん)の近くによくいる子?」

「……凛、さんのこと、ご存知なんですか?」

 凄いです、こんな常人離れした美しさが目を引くお方にまで知られているなんて、さすがは凛様! 思わず嬉しくなって頬が緩みますが、目の前のお方が少しだけ顔をしかめたように見えて、なんだかこの方がよくない存じ上げ方をしているのだと察してしまいました。

「そりゃ知ってるって。だって檀って、あの浪川(なみかわ)朝陽(あさひ)の“いい子”でしょ?」

「えっ……?」

 その方の言葉には、どこか凛様を蔑むような影が窺えました。いい子であることは褒められこそすれ、このように蔑まれるようなものではないはずです。凛様に対して侮辱するような態度をとられたことにはもちろん嫌な気持ちがしましたが、わたしはどうしても、怒りだけを抱いてはいられませんでした。

 わたしも気になっていたからかもしれません、凛様はいつも、この教室で何をしておいでなのだろう、と。それに、目の前の方はそれほどまでに美しい顔をしていらしたのです。


「あの、なんで、」

「え?」

「なんで、“いい子”と言っているのにそのようなお顔をされているのですか?」

 だから、尋ねずにはいられませんでした。

 怪訝な顔をしたあとに「ご主人様を嫌な言い方されて怒ったの?」と尋ね返されましたが、その方はすぐに「ま、いっか」とご自分でその言葉を取り下げて、代わりにわたしを見つめました。


「――――――、」

 紺碧の夜空にも似た深い瞳に見据えられて、心臓が跳ねるのを感じました。本当に美しいお顔です、どうして同じ世界に生きているわたしたちの間に、こんな違いがあるのでしょう?

 凛様に可愛がっていただいているときにも似た熱が心に(とも)り、痛いくらいに胸が跳ねます。

「ねぇ、」

 その綺麗なお顔のまま、彼女が尋ねてきます。なんでしょう、ひどく高鳴る鼓動がうるさくて、声が聞こえないかも知れません……けれど、その声はあまりにもはっきりと聞こえました。


「あんた、檀のこと知らないんだね。あんたの前では、理想的な“ご主人様”なのかな」

 それは蔑むというより、心の底から憐れむような声でした。

「え、」

「ちょっと開けてみよっか。じゃなきゃ私も帰れないし」

「あっ、駄目ですよ、凛様から止められて……っ!」


 ガラッ!

 制止も間に合わず、教室のドアは開け放たれて。


「…………っ!」

「え、」


 中にいたのは、はしたなく机に脚を開いて座り、いいえ、いいえ、それよりも目が行ったのはまず、無造作に脱ぎ捨てられた衣服でした。

 わたしが見たのは、机の上に座り、まるでお風呂にでも入るみたいに制服をすべて脱ぎ捨てた姿で、浪川さんの触れるがままになって頬を林檎のように染めている、凛様の姿だったのです。

「……ぃで、」

 涙を浮かべながらわたしを見つめる凛様の姿は、蠱惑的でした。わたしを可愛がってくださるときに見せる姿とは違い、まるで幼子のように震えながらわたしたちの顔色を窺う凛様のお顔はとても可憐で、わたしの中に今まで感じたことのない感情が芽生えるのがわかりました。


 けれど、同時に思うのです。

 どうして、わたしじゃないのだろう?

 いつもわたしにだって同じことをしてくださるのに、どうしてわたしではなく浪川さんとこのようなことをしていらっしゃるの?

 心の中に、何か重い雲のようなものが立ち込めてくるのを感じました。苦しくて、何かを吐き出したくて、なんだかそれですら足りないような、激情が込み上げるのを感じました。緑色の化け物に、心を蝕まれるような心地がして、何かいえば、凛様に向けるものとしては相応しくない悪口雑言が飛び出してしまいそうで、だけれど何も言わずにはいられなくて。

「どうして……」

 口をついて出たのは、そんな言葉でした。

「どうして……?」

「……てよ、」

「なんで、凛様? どうして、」

「出ていって」

「凛様、」

「出ていってよ、すぐに出ていきなさい! ここからすぐ、そちらにいる月音(つきね)さんと一緒に出ていなさい!!!!」

「凛様……っ!」


 首を振り、涙を散らしながら、凛様は叫ばれました。

 いつもの自信に満ちた美しさなど欠片ほどもなく、取り乱したご様子。行こう、と背中を叩く月音さんの言葉に従って、わたしは学校を出ることにしました。といっても、学校を出ることを決めたのは月音さんで、わたしは焦りながら付いていくだけでしたが。

「あのっ、どちらまで行かれるんですか!?」

「私の家、あんな状態の檀のところに、あんたを帰せないじゃない! 一応責任も感じてるしさ……」

「でも、凛様がっ、」

「あいつは、今日は帰らないと思うよ。ううん、浪川が今日は檀を帰さない」

「え、」

「あいつは、気に入った後輩を自分のペットにして“可愛がる”んだよ。それで飽きたらすぐに捨てるけど」


 そう言う月音さんのお顔には、どこか沈んだ影が窺えました。

 だからでしょうか――思ってしまったのです。

 どうせ今夜、凛様がお戻りにならないのから……浪川さんと過ごされるというのなら……。


 今は、月音さんと一緒にいよう、と。

前書きに引き続き、遊月です!

月音さんに自分と同じものを見た白雪。彼女の決断は、いったいどんな未来に繋がっていくのでしょう……?


次回、お会いしましょう!

ではではっ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ