シュガーリリーにご用心!6
「え、すりみ、砂糖見たことないのか?!」
リーニャが遠慮なく大声を上げて笑う。「うっそだーっ!」
「は、はい、実は先程から皆さんがお話しされてる、サトウキビというのも……不勉強で申し訳ありません!」
スリアミドラは恥ずかしさでウサ耳の先まで真っ赤に染めている。アルトがボソッと、
「日頃のお勉強嫌いの成果ですよ。」と呟いた。
ラナは「まあ……」と言うと、「お砂糖が届かないくらい遠いところから来られたのね。」とフォローしたが、全員の驚きはなかなかのものだった。それはそうだろう、この島にとって砂糖およびサトウキビは最も主要な作物、山全体がサトウキビ畑なのだから、それを知らない人生など考えられなかった。
「はあ、はっはっはっ、やあ、やあ、まあ、ここに砂糖を買い付けにくるのはシラノ様を除いたら砂漠の連中しかいないし、そりゃあそうかもしれないなあ!」
村人は派手に笑いだした。そしてひとしきり笑うと、ワインをもう一杯もらってから、足元に置いていた小さな麻袋を手に取るとスリアミドラに渡してやった。
「お嬢さん、中を開けて手を入れてみなよ」と言う村人に応じて、スリアミドラは大人しくその麻袋を開けた。使い古された袋に入っていたのはもちろん砂糖だ。そっと触れてみたスリアミドラは「きゃ!」と声をあげた。
「あ、茶色い粒みたいな、そ、そうです、海の砂がたくさんあります、う、ベタベタする……?」
そう言うと手を袋から抜き出して、指をまじまじと見つめたり匂いを嗅いだりしだした。
つみれも袋を受け取り中を触ってみる。もちろんそれは現代のグラニュー糖、いやきび砂糖にすら比べ物にならない粗い精製で、まだ蜜が滲み出ている。舐めてみな、と言われてスリアミドラは大人しく指先を口に含んだ。
「!!」
途端にスリアミドラの警戒心はさらりと溶けて、目もとろんとした表情になる。どうやら砂糖=甘いと理解したようだ。
「ま、まるで蜂蜜みたいです!素敵ですねえ……」
とうっとり呟いた。
つみれも興味津々で袋に指を突っ込む。
「うわーこういう粗めの砂糖、初めて触ったかも。色も濃いし濃厚だなー。
自然食品店なんかでたまーに売ってるけど、こういうののほうがグラニュー糖とかみたいな今時のより、コクもミネラルも断然あって高価なんだよね……」
感嘆しながらつみれは注意深く袋を閉じた。
そういえば砂糖をまだ持って無いのは盲点だった。たしかにここまでで、店で見かけた時の価格はちょっと庶民には手が出ないくらいだったか、これまでは後回しにしていたが、この島でしか生産されてないのならその理由も頷ける。
「流石にお嬢さんのほうはご存知かあ、よっ宮廷料理長っ!」
煽ったワインの酔いが回ってきたのか、村人は高らかにそう囃し立てると、「ちょうどいいや、その砂糖はあんたにやるよ!大した量じゃあないしなあ」と言って笑った。つみれは思わずニヤッ……と笑みがこぼれるのが抑えられなかった。
(この袋など5キログラムってとこかな、やば!小麦粉はブレナで買ったパン用のが大量にあるし、久しぶりにお菓子が焼けるじゃん!あーすっご夢広がる〜っ)
あれもこれも、と期待に胸を膨らませ不気味な笑みを見せたつみれの顔を見たスリアミドラは、嬉しそうに微笑んだ。スリアミドラにとっては、このつみれの不気味な笑いも、救国者の聖なる微笑みだ。
興奮するつみれの様子にリーニャの父親は陽気に笑ってからこう言った。
「これでこんなに喜んでもらえるとは嬉しいね。だけど、この島にはもっといい砂糖があるんだよ。さっき話してたあれだけどね、あれ……、
そうだ、リーニャ。お客さん達にぜひ見せてあげなさい、こんな美味しいお料理、タダで作ってもらっちゃ申し訳ないから。それで少し持たせておやり。
でも、爺様に見つからないように気をつけるんだよ。」
後半はかがみ込むようにして声を落としてヒソヒソと言う父親に、リーニャは
「えっいいのっ!?分かったっナイショねナイショ!」と目を輝かせた。そして村人にも、
「おじさんも誰にも言っちゃダメだからな、ここだけのナイショね!」と言って、口に人差し指を立てると口を「い」の字に開いた
こうなると居ても立っても居られないたちだ。リーニャはさっそく、スリアミドラたちの腕を引っ張ると、
「行こう、行こう!!ねっこっち!ついてきてっ!」と言ってまたあちこち飛び跳ねて騒ぎだした。猫耳がピクピク動きまくっている。
しょうがない、食後の腹ごなしだ。少し休憩して足の疲れも回復したつみれは、
「歩くのゆっくりめでよろしく……」と情けない声を出しながら、ニコニコとリーニャの手を繋いで歩きだしたスリアミドラの後についた。
黒砂糖みたいな、処理工程が少ないお砂糖っておいしーですよねーっ!!!




