ブレナ王都にご用心!5
つみれは朝は苦手なほうだ、った。スマホのアラーム最大音量無しには起きられないし、寝てる間に店長や他のバイト仲間から来た泣き言メッセージにだらだら返信しながらでないと頭が目覚めてこないのが常だ。
朝日が差し込む寝室で自然に目が覚めたつみれは、その習慣がもう無いのを思い出し、不思議な気持ちになった。でもそのことを深く考えるのは面倒だった。そういうのはなにかもう遠い昔のことのように感じる。
つみれはさっさと服を着替えると、階下に降りて行った。台所ではもうヒルダがきちんと整えた身なりで何かノートに記入していた。なにかの勉強をしているらしかったが、つみれが来たのを見ると顔をあげた。
「あ、お客様!よく眠れましたか?早起きなんですね、まだ朝6時ですよ。おじいちゃんはもう畑に出かけました!朝ごはんはクレープと野菜のペーストです、ご用意しましょうか?」
いそいそと支度し始めるヒルダは楽しそうだ。普段は年相応の話し相手もいなくて退屈しているのだろう。つみれは少しかわいそうに思って少し相手してあげることにした。
「あ、うん、良かったら。一緒にやろうか」
ヒルダの瞳が輝いた。
7時の鐘に合わせて、スリアミドラとアルトが揃って降りてきたのに合わせて、つみれとヒルダは焼きたてのクレープやら朝食を運んできた。ひと仕事終えた国王もこれから朝食をとるべく戻ってきたので都合がよい。
「つみれ様、わたしも呼んでくだされば一緒にお手伝いできましたのに……」
とすこしつまらなそうな顔をするスリアミドラにつみれは今日はお願いしたいことたくさんあるから、と言ってなだめると、いちごとグラノーラのサラダを手渡した。上には、昨日ヒルダがガゼボで出してくれた飲み物に使われていた、ブレナ草の花びらがあしらわれていて愛らしい。
「これ、つみれ様に教わって私が作ったんです。麦と燕麦を蜂蜜と混ぜて、かまどでローストするんです。こっそり味見したんですけど、とっても素敵な味でした!花びらは、さっき裏庭の私の花壇から摘んできたんです!」とヒルダが言い添える。
「スリアミドラ様はすてきですね、こんな先生がいつも付いていてくれて!」とにっこりした。
国王も、
「こんな華やかな朝食をこんな華やかなお客さん方ととれるなんて、いやはや……」と笑顔を見せながら、「さて、キャロトリアの皆様は、本日はどのようなご予定かな?」と訊ねてきた。
つみれはアルトを少し見つめると目があった。アルトは早速切り出した。
「早速ですが、昨日通りましたブレナ王都の市場を見学させていただきこの土地の食材への理解を深めまして、そのまま午後には旅立とうと思っております。」
「午後にはもう旅立たれるとなると、いや、もっと長く滞在頂いてかまわんのじゃが……」
「いえ、私どもにもやり遂げなければならないことがありますゆえ、今は少し旅路を急ごうと思っております。」
アルトの返事に国王は優しそうに微笑んだ。
「ほう……それは、確かに、若い方々をここに引き止めておく理由はありませんからな。わしも、畑をやる前はいろいろな場所でむちゃくちゃなことをやったもんですじゃ。」
国王は茶目っ気のあるウインクをしてみせた。
食事が終わるとスリアミドラ達は市場へ向かった。市場は城下町の半分を占める大きさで、その殆どが小麦の他国への輸出手続きをするための国営取引所と、各農村から行商に来て取引する者たちで賑わっている。取引所の近くにはちらほら異国の民も見受けられ、昨日午後にここを通りすがったときの寂れた雰囲気とはまったく違っていた。ここでブレナの主要な経済を成り立たせているのは明白だった。
「こういった活気はキャロトリアにありませんから新鮮に感じますね……」と感嘆するとともに、様々な種族が行き交う様に少し怯えたスリアミドラの言葉を聞くひまもなく、つみれは人の波に潜り込むようにして食材をチェックするのに夢中になっていた。
何を買ったらいいのかわからないスリアミドラとアルトはただ活気のあるプロ達の掛け声に圧されてきょろきょろしているばかりだった。つみれだけがヒルダの説明を受けながら真剣な目つきで色々な品を触っては頷いたり頭を振ったりしている。
「あの、つみれ様は先程から何をなさっているのでしょう……?当分の食料にしては結構な量をお求めになっているようですが」
様々な小麦をさらさらと触りながら店員に相談しているつみれを遠巻きに眺めながら、スリアミドラはアルトに訊ねた。アルトは昨晩つみれと話しあったことをどう切り出したら良いかわからず逡巡していたが、ちょうどいいタイミングですべての買い物が終わってスッキリした顔で「おまたせ!」と言うつみれに任せることにした。
「つみれ様、こんなにたくさんの穀物、どうお使いになるのですか?アルトは説明してくれないんです、なにかお考えがあるのですか?」
馬車に大量の小麦を積み込むつみれに、スリアミドラは同じ質問をぶつけた。
つみれはちょっと気まずそうにしながら答えた。
「え、えっと……朝ごはんのとき、ちょっとお願いしたいことがあるって言ったの、おぼえてる?その……
私、お店、やろうと思って。、ほら、馬車、のキッチン、事故とはいえ大きくしてもらったし、それで、す、すすす、……
手伝ってほしいんだよね、すりみ、ちゃんに」
最後の方は恥ずかしくて声が震えていたが、つみれは一応「すりみちゃん」と言えて、ほっとした。
スリアミドラは身動き一つしなかった。
思ってもいなかった沈黙が流れ、つみれは次第に発言を後悔する気持ちと、ちゃん付けした恥ずかしさで脂汗をかきはじめる。
も、もしかして、迷惑な思いつきだったかな……そうだよね本人はもう予算の半分がなくなっちゃったって知らないんだししかも一応まだ全然お金に余裕あるんだし、あと料理できない子にいきなり料理屋なんてあとごめんあのときすりみちゃんって呼ぶんでくださいって言ってたのはやっぱ社交辞令だったんですねそうですよねこんなブスから呼ばれて迷惑でしたよねごめんなさい!!!
そう叫びそうになった瞬間、つみれは甘い香りに包まれていた。スリアミドラが力いっぱい抱きしめてきたからだった。
「つみれ様……つみれ様は、やっぱり、素晴らしい方です!!!!あんな恐ろしい馬車の事故から私にお料理のレッスンをしてくださる妙案を思いつくなんて……」
そう言いながらスリアミドラは涙でまつげを濡らしていた。そして、抱きしめたまま「お姉さま、つみれ様は本当に聖者様です……」と感謝の言葉をつぶやく。耳元でそんなことを言われたつみれはさっきまで落ち込んでいたのもあり舞い上がった。
正直、“趣味と実益を兼ねまーすついでにアルトさんの相談に答えたことにもなって評価ポイントアップかもゲヘヘ”くらいにしか思っていなかったつみれの心は、スリアミドラの涙で洗われた気がした。
これに報いるためにも、ちゃんとやろう。つみれはそう決心した。
やっと話がタイトル部分に近づくことができました。
ブレナ風いちごのグラノーラサラダのレシピ
・いちご 1パック (こぶりなもの)
・レモン汁 レモン1個分
・オートミール 200g
・はちみつ 40g
・油 (グレープシード、アーモンド、サラダ油のいずれか) 40g
・塩 ひとつまみ
・クルミやピーカンナッツ、ひまわりの種 お好みで
・ブレナ草の花びら (装飾用) 適量
①いちごのへたを取り縦半分に二等分し、レモン汁であえる。
②オートミールとはちみつと油と塩をボウルに入れ、へらでよく混ぜたら、クッキングシートを敷いた天板の上に平らに広げる。
③180℃に予熱したオーブンで15分焼き、途中で天板を取り出しナッツ類も加えスプーンなどで焦げないように天地を返す。
混ぜ終わったら追加で10分焼き、全体がこがねいろになったところで取り出し冷ます。
④ ①と混ぜて器に盛り、上にブレナ草の花びらを飾り付ける。




