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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第1章 戦いの始まり編
9/94

不屈の闘志

 言葉や理屈で覚えるより、実際に動いて体で覚えるほうが良い。

 とはよくいうが、この猫少年はその典型的なパターンといえるだろう。

 最初はぎこちなかった攻撃もスムーズに行えるようになり、防がれてもすぐに立て直すことも出来るようになっている。

 VR初心者ゆえの伸び代だろうが、昔の俺よりも上達が早いのは本人のセンスだろう。もし、彼がバーチャルに適応したら……

「にゃあ!」

 まあ、おたけびを行うときの声は気にならないではないが、些末なことだ。なお、必要なモーションは息を大きく吸ってから声を出すことで、内容は関係ないらしい。

 俺の動きが止まったことで、チャンスとばかりに突っ込んでくる。だが、リオンの剣が届くよりスタン状態から回復するほうが早い。

 このあたりはまだまだ詰めが甘いな。

「残念だったな」

 リオンが振り上げた剣を押し返し、がら空きになった脇腹から反対側の肩に向かって切り上げる。

 3割ほどになっていたHPゲージがさらに減少。0になると同時に、勝者を告げるファンファーレが鳴り響く。


「もう1回、お願いします」

 10回を超える敗北を味わってなお、リオンの目には強い闘志が宿っていた。

「いや、戦い方はもう十分だ」

 これでは経験値も得られないし。

「実際にモンスターと戦ってみよう」

 そう言って振り返ると、待っていたかのように3体のモンスターが現れた。

 そのうちの2体は見慣れた幼虫――ラビーヴァとキャタパルだ。だが、残りの1体は見覚えのない骸骨型のモンスターだった。

 ゲーム風にいえば、スケルトンか。

「あのスケルトンは俺が引き受ける。リオンは幼虫2匹を頼む」

「はい!」

 初戦闘となるスケルトンの能力はわからないが、負けることはないだろう。

 俺は自分の敵へと意識を集中させた。


 骸骨は武器すら持たず、無防備に歩いてくる。顔面が髑髏(どくろ)では表情から考えを読み取ることも難しい。いや、それは幼虫達も同じか。

 あと少しで射程に入る。

 そう思った瞬間、スケルトンが立ち止まった。

「なに?」

「ゴォーフッ!」

 体ごと向きを変え、スケルトンが走り出す。ーーリオンの方へ向かって。

「行かせるか」

 無防備になった肋骨(ろっこつ)に向かって斬撃を放つ。スケルトンは防ごうとしなかったが、止まりもしない。

 わずかとはいえ、ダメージを与えられてもターゲットを変えないということは、このモンスターはアバターの種族によってヘイトの扱いが違うのか。

 ま、確かめるのは後回しだ。


 弱点でダメージ率が高いであろう背中――より正確に言うと背骨へ向けて、剣を振り下ろす。なおも逃げるので、もう一撃。

 ついに、スケルトンが足を止め、振り返る。

「ゴォーフッ!」

 スケルトンは自らの肋骨をへし折って、正面に構えた。まるで剣のような構えだ。あれが武器なのだろうか。

「ゴォーフッ!」

 スケルトンが骨を突き上げる。戦闘開始の合図なのだろうが、なんとも斬新な演出だ。

「まあ、相手にとって不足はないか」

 スケルトンは肋骨剣を高く振り上げる。

 俺は無防備に開かれた胴を切り裂き、後ろへ飛んだ。視線は外さずに、追撃に備えて剣を構え直す。

「え?」

 と同時に、スケルトンは光の粒となって虚空に消えた。3という数字が現れ、消える。

 それは紛れもない経験値の表示。それが示すのはスケルトンが倒れたこと。そして、幼虫と同程度の強さだったということだ。

「なんか釈然としないなぁ」

 だが、気にしていたところで何かが変わるわけでは無い。剣を収めて、リオンの戦いを見守ることにした。


 ◇


 リオンとってまず計算外だったのは【おたけび】が効かなかったことだ。

 怯ませてから一気に畳みかけようと思っていたリオンの作戦は、その時点で変更を余儀なくされた。

 そして、次の作戦を考えていたリオンに、白い幼虫型のモンスターが糸を吐きかけてくる。

 戦闘中だから敵が動くことは当然のだが、さっきまでの(ライト)は待っていてくれていたので、リオンは油断していた。

「くっ……」

 焦るリオンには、周りの状況が全く目に入っていなかった。

 そのおかげで、骸骨が自分に向かって走って来るのに気がつかなかったことは、不幸中の幸いかもしれない。もし気がついていたら、リオンはさらに混乱していただろう。

「フシャー」

「うにゃっ!」

 突然近くから聞こえた鳴き声に驚き、リオンは剣を突き出した。

 その一撃は、偶然にも幼虫の喉の辺りに刺さる。ダメージを受けた幼虫は後ろへと下がった。

 リオンは自分を落ち着けるように深く息を吐くと、剣を肩の上に構える。

 剣が赤く光を帯びると、リオンは剣を振り下ろし、幼虫に体を一刀のもとに切り裂いた。【スラッシュ】という技名通りの光景だ。

 幼虫はピタリと動きを止め、光の粒となって消滅した。次いで小さな数字が現れ、消える。


「もう1体いるぞ」

 1匹を倒したことで完全に気を抜いたリオンだったが、ライトの声を聞いて慌てて辺りをキョロキョロと見渡した。

 現実世界でも行うその動きは、リオンを子供っぽく見せている原因の一つだ。見た目が中性的で幼顔なこともあり、現実でのリオンはよく女の子っぽいと言われていた。

 だから、強くなるためにこのゲームを始めた。

 だから、強くならなくちゃいけない。

 リオンは自分自身の体に糸を巻き付けている幼虫を見つけると、剣を肩の上に構えて走った。

 倒す! 

「てやぁ!」

 意志とは裏腹のどこか気の抜ける掛け声とともに、赤く光を帯びた剣を振り下ろす。鋭い斬撃がモンスターを斬り裂いた。

「シュゥ」

 青虫は苦しそうに身体をよじらせる。

 しかし攻撃しようとはしてこないので、リオンは遠慮がちに斬りつけた。青虫は身をよじるが、やはり攻撃は仕掛けてこない。

 リオンは肩の上に剣を乗せて、再びスラッシュを発動させる。そんな攻撃を3回ほど繰り返したところで、青虫が光の粒となって消えた。入れ替わるようにして、3という数字が現れ、消える。


「ふぅ」

 リオンはゆっくりと剣を下ろした。

 軽快な音楽が鳴り響き、視界の端に【LEVEL UP】と文字が出現する。

 謎の数字は経験値を表すものなのだと、リオンは理解した。

 ただ、今はそんなものはどうでもいい。

 そんな見かけだけ数値より、目には見えない経験値をたくさんもらったお礼を早くしたかったからだ。

「ありがとうございます! ライトさん!」

「さんはいらないよ。リオン」

 苦笑いするライト。リオンはさん付けで呼びたい衝動を必死に抑え、その名を呼んだ。

「ライト……。色々とありがとうございました!」

「お礼はもういいから。それより、これやるよ」

 金色のネックレスを具現化させ、差し出してくる。

「そんな、高価そうなものを貰うわけには……」

「これから頑張れってことで、受け取ってくれ」

 そう言われては無理に拒む理由もなく、恐る恐るといった感じでネックレスを受け取る。だが、首にかけようとすると、顔が引っかかって入らない。

「ああ、それはアイテム欄からな……」

 ライトに説明してもらって、リオンはようやくネックレスをつけることが出来た。

 アイテム名は、【小さな王の首飾り】。

 赤く光る大きな宝石が中心にあり、各所に大量の黄金があしらわれたデザインは、まさに古代の王の持ち物を彷彿とさせるものだ。

 モンスターからゲットしたが、趣味に合わなかったらしい。

「さあ、もう少しやっていくか」

「はい!」

 リオンはとても楽しそうに笑顔を浮かべた。


 ◇


 タヴの鐘に到着後。仲間と合流の予定があるというリオンとは解散。カラフルなベンチでは他にも何人かのプレイヤーが待ち合わせをしているようだったが、俺の待ち人はいなそうだ。

「ったく、自分から呼んでおいて待たせるなよ」

 黙っていても手持ち無沙汰なので、気晴らしも兼ねて狩りを再開。待ち合わせの定番らしいが、ベンチから離れれば普通にモンスターは出現するのだ。

 その中で気がついたことが1つ。骸骨型のモンスター――固有名【スハントン】についてだ。

 リオンと一緒の時にはそれなりの頻度で出現した骸骨兵だが、今は全く姿を見せていない。リオンと会う前も出てはこなかった。

 そこから導き出される結論は、スハントンは獣人(WARBEAST)だけを狙って現れるモンスターだという可能性だ。

 2人で戦っていた時も、リオンが優先的に狙われていた。


「ラーヴォ!」

 と、考える時間を奪うかのようにモンスターが現れる。

 幼虫だ。それも甲虫(ラビーヴァ)蝶々(キャタパル)ではなく、トンボの幼虫(ヤゴ)だ。

 胴体は薄茶色で細長く、さらに細い6本の脚が生えている。尾のような部分は3つに分かれており、小刻みに震えていた。

「ラーヴォ!」

 ヤゴ型モンスターは体をうねらせながら、向かってくる。脚こそ生えてはいるが、攻撃方法は変わらないらしい。これなら、問題は無い。


「え?」

 不意に足が沈んだ。

 後ろを振り返ると、地面がすり鉢状に地面が削られていた。蟻地獄だ。この主も、何かの幼虫だったか。

「なんて、考えてる場合じゃないな」

 具体的にどうなるかはわからないが、黙って引き込まれるわけにもいかない。

 残っている足に力を込める。が、体は少しずつ沈んでいくし、穴も大きくなってきていた。

「ラーヴォ!」

「しまっ……」

 完全に視界から外れていたヤゴの体当たり。ダメージ自体は微々たるものだが、両足が完全に呑み込まれた。

 足掻いてみるが、全く上に上がれない。ゆっくりではあるが、確実に落ちていってる。少し離れたベンチにはプレイヤーがちらほらと見えるが、助けを呼んでも犠牲が増えるだけか。

「無理だな、これ」

 抵抗を諦めて、体の力を抜く。

 それを待っていたかのように、穴の中心から巨大な角が突き出た。いや、違う。鎌状に曲がった2本のそれは、角じゃなくて顎だ。

 巨大な蟻地獄は獲物を急かすように、カツカツと顎を打ち鳴らす。


「ラーヴォ!」

 ヤゴは早く落ちろと言わんばかりに、体を震わせた。少しでも進めば落ちそうだが、そんなミスはしないだろう。

「いや……」

 ーー落ちないなら落とせばいい。

 剣を鞘に戻して、手を伸ばした。ヤゴは気にする様子もない。その脚を掴み、引きずり下ろす。

「ヴォッ!」

 反動で体を持ち上げるが、登れなかった。そう上手くはいかないらしい。

 ヤゴも脱出せんと足掻いているが、動けば動くほど落ちていく。俺のことなどすでに眼中にはないのだろう。

 必死にもがくヤゴを嘲笑うように、穴の主はカチカチと顎を鳴らす。獲物はどっちでもいいってことか。

「ラヴォッ!」

 ほどなくして、巨大な顎がヤゴを捕らえた。

 顎はヤゴをしっかりと挟み込むと、地中へと消えていく。それに合わせて、蟻地獄の動きが止まった。

 出るなら今しかない。

 手を伸ばし、足を上げ、泳ぐように、全身を使って、這い上がる。必死にもがいて、外に出た時には、穴がかなり小さくなっていた。

 放っておけば、いずれ穴は消えるのだろう。

 ただ、またいつ現れるかはわからない。対策は考えておかないとーー


「待たせたな」


 そこに、待ち人が現れた。


 皆さん、こんにちは。1話ぶりの銀です。

 今回のテーマは最後に現れた巨大なモンスターについて。

 あれは【タヴの鐘】に生息する【小領域の主】で、現時点では対策を取れば勝てないことはないが、かなり大変。という強さを誇るミニボスです。

 その分、経験値が多かったり、貴重なアイテムを落としますが、1人で挑むのは無謀ですね。

 ちなみに、ベータテストの時から存在しており、全部で5体います。全てを倒すと特別なアイテムを入手出来るのではないかという噂もありますが、ベータテストの時ですら誰も達成は出来ていません。

 果たして、最初に達成するのは誰になるのでしょうか。

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