表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第4章 領域解放編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/94

切り札

「なにっーー

 驚きの表情を浮かべる悪魔が消え、全身に力が漲ってくる。

 チートの再発動によって身の安全が確保されたところで、俺はホッと胸を撫で下ろした。

 いや、気を抜くには少し早いな。

 残存HPが1割を切って、バーが赤く染ってる。

 生半可な攻撃で大きなダメージを喰らうことはないが、心もとないHPは心臓に良くない。

 HP回復ポーションを喉に流し込み、改めて肩の力を抜く。

 ヒュドラとの戦いの最中であることは百も承知だが、息詰まる攻防を終えた直後なのだし、少しくらい気を緩めたっていいだろう。


 ふいに発生したグリードとのエンカウントは、まさに死闘だった。

 私闘でもあったけど。

 毒状態(・・・)偽装(・・)なんてよく思いついたな、と自画自賛したい気分だ。


 幸運だったのは、グリードの【ポイズンネイル】が確定で(・・・)相手を毒にする技ではなかった(・・・・・・)ことか。


 バニティや黒影との戦いで毒にされた経験も生きているのかもしれない。

 というか、【ポイズンネイル】に【ポイズンアロー】、【ポイズンダガー】と序盤から毒技のバリエーション多過ぎないか。

 領域解放戦のボスまで、猛毒龍(ヒュドラ)だし。

 毒にこだわりでもあるのだろうか。


「……ポイズンアックスとか出ないかな。無さそうだな」

 少し考えてみたが、力押しな斧と搦手な毒の取り合わせはイマイチだった。

 イメージがチグハグというか、存在がバグってるというか。あるところにはあるだろうけど、珍しそうみたいな。


「って、そういえばどっか落としたんだった」


 ゴタゴタのせいで常夜の斧(オールナイトアクス)を落としたのを忘れていた。

 おかげでスキルのない剣で戦う羽目になったのだ。落としてなければ、グリードとの戦いだってもっと楽にーー

「……そうでもないか」

 スキルや斧自体の特性があるから、物理面は攻防ともに上昇するが、素早さはむしろ下がる。

 フェザーソードの追加効果である素早さの上昇がなければ、グリードの動きについていけなかったかもしれない。

 それに、誰かが(・・・)かけてくれたバフ(・・)がなければ、最後は相打ちになっていただろう。

 いや、加速した俺にグリードがしっかりと対応してきたら、どのみち相打ちだったに違いない。

 そう考えると、グリードに勝てたのは運が良かっただけだな。

 次また現れたとしても、勝てるだろうか。

 出来れば、次が来ないことが1番だが……。


「対人戦……ねぇ」

 積極的に人を襲うつもりはないが、護身術くらいは身につける必要があるかもしれない。

 ただ、1人では出来ないので、訓練をしてくれる相手が必要だ。

 仮にいたとしても、素人2人で対戦(DUEL)を繰り返して上達するかと言えば別問題なので、戦い慣れてる人に頼むか、あるいは教えてくれそうな人を探す必要がある。


「……対人特化ギルド、神龍(しんりゅう)(なげ)き、か」

 PK請け負いをするのは気に食わないが、マリウス・バニティとは共闘もしたし、レヴィも含めてプレイヤーとしては悪人じゃなさそうだった。

 必ずギルドに入らなければいけないわけではないが、入りたくない理由があるわけでもない。

 リンクが実利を求めてSeLFに加入したように、対人スキルを求めてーー


「シャァ!」

 ーー視界が水色に染まった。

 声と色からして水属性サーペントの水流攻撃だろう。バブルスコールなど比ではない密度の滝のような攻撃だが、ダメージは焼け石に水だ。

 それとも、頭を冷やせってことで水を差してきたのだろうか。

 勢いが強過ぎて地面が抉れているし、差すってレベルじゃないけども。

 まさに、雨垂れ石を穿つ。

 いや、違うか。あれは雨のような小さな水の粒でも時間をかければ石に穴を空けることも出来るという意味だ。

 僅かな時間で地面を削るのは……ウォーターカッター……も違うな。

 あれは削るというより斬るだしーー


「シャァ!」

 再びの奇声に、身構える。

 が、今度は頭から水をかけられることはなかった。

 巨躯を起こした【アクア・サーペント】と視線が交差する。

 表情はよくわからないが、無視してたから怒っているのだろうか。

「拗ねるなんて可愛いじゃないか」

「シャァ!」

 全身を震わせ、大きく口を広げたサーペントが襲いかかってくる。

 無防備でいる必要もないので、俺は剣を構えた。


「まぁ、死に水は取ってやるよ」

 1足で距離を詰め、一閃。

 すれ違いざまの一撃で、サーペントはポリゴンの欠片となって四散する。

「くっ……これは」


 その瞬間、急激な脱力感に襲われた。


 チートの効果がなくなった時にも似ているが、風邪で寝込んだ時のように不自然に体が重い。

 それにHPバーの上には、誰かが掛けてくれたバフを相殺してなお効果を発揮するデバフと未知の記号がついている。


【チート封印(ふういん)状態(じょうたい)


 俺の疑問に答えるように文字が浮かんだ。


【ヒュドラの眷属(けんぞく)【シール・サーペント】の(どく)により、(ぜん)プレイヤーのチートが一時的(いちじてき)封印(ふういん)されました。

 チートを()つプレイヤーはチートの発動(はつどう)状態(じょうたい)いかんに(かか)わらず、【チート封印(ふういん)状態(じょうたい)】となります。

 さらに追加(ついか)効果(こうか)として、(すべ)てのステータスが低下(ていか)し、疲労感(ひろうかん)発生(はっせい)します。

 1/2】


 読み終わってページをめくろうとしたところで、体が動かないことに気がついた。

 それだけではない。水を打ったように戦場から音が消えている。

 俺だけではなく、プレイヤーだけでもなく、ヒュドラやサーペント、それに放たれた魔法なども含め全てが、止まっているのだ。

 ゲームあるあるだが、VRの場合は動き出した瞬間に体の感覚がズレたりして大変なんだよな。

 今回は動いてないので大丈夫だが。

 と、考えているうちにページが切り替わった。


封印毒(ふういんどく)解毒(げどく)方法(ほうほう)存在(そんざい)しません。

 しかし、(どく)自体(じたい)持続性(じぞくせい)はありませんので発生源(はっせいげん)たる【シール・サーペント】が(たお)れれば、(どく)効力(こうりょく)(うしな)います。

 なお、この(どく)はチートを()たないプレイヤーには(がい)(およ)ぼしません。

 2/2】


 つまり、どこかにいるシール・サーペントを倒すまでチートは使えない上、動きもステータスも制限されるということだ。

 非戦闘系で今は(・・)効果を発揮してしないチートの使い手も含めて。


【チートを持たないことが重要になる場面も存在します】


 PVでそう言ったことに対して、公式が示した1つの答えということだろう。


【ご武運(ぶうん)を】


 その一文と共に金縛りが解けた。

 世界は音を取り戻し、俺の前にも新たな敵が現れる。

「シャァ!」

 固有名はライト・サーペント。

 ライトとあるが俺とは関係ない。(LIGHT)大蛇(SERPENT)だ。

 ちなみに俺は(LIGHT)じゃない。

「でもま。ライト同士、仲良く……は出来ないよな」

 常夜の斧(オールナイトアクス)は失われ、チートは封印された。

 デバフがかけられている上に、体は重たくて動きづらい。

 圧倒的に不利な状況で、相対する敵は同じ音を持つライト・サーペント。

「……面白い」

 俺は剣を握る手に力を込めた。



「……我がタメ(・・)を無駄にするとは不遜な」

 チート封印により前線が大きく崩れる中、後方に位置する青年は小さく顔を歪めた。

 整った細面に、尖った耳。壮麗な金色のローブで包んだ彼は人ではなく、小妖精(ELF)である。

 彼は、開幕から1歩も動かずに機が熟す(・・・・)のを待っていたのだ。自身の切り札(チート)が争いに終止符を打つその時を。


 それが、シール・サーペントの登場によって無に帰した。


「あれか」

 群衆の遥か先に蜷局(とぐろ)を巻く大蛇を見つけ、エルフの青年は手を上げた。

「伏して詫びよ。()ちろ、雷霆(らいてい)。ケラウノス」

 不敵に笑い、腕を振り下ろす。その動きに合わせて、大蛇に一筋の雷が落ちた。

 だが、エンリルの気がそれで済むはずもなく、再び手を上げて振り下ろす。

 2度の雷撃を喰らっても、サーペントに動きはない。

「無視するのならそれもよかろう。座したまま死ぬがよい。()ちろ、雷霆(らいてい)ーー」

「シャァ!」

「ーーケラウノス」

 背後から聞こえた鳴き声に、青年は振り返りつつ魔法のターゲットを変更した。

 上空で方向転換し、青年の横を掠めた雷が、漆黒の大蛇の闇を内包した角へと突き刺さる。

「シャァ……」

「闇討ちとは、畜生風情が姑息な手を」

 小さくため息をつき、エンリルはローブと同じく金色に輝く剣を取り出した。

 荘厳で(きら)びやか、神へ捧げられた宝剣の如き美しさを放つひと振りの剣を携え、青年は仰向けに倒れるダーク・サーペントの上に飛び乗る。


「我の邪魔をし、武器まで手に取らせたのだ。命で償う覚悟はあるのだろうな?」


 そのままサーペントの首筋まで歩いて行き、1枚だけ逆さに生えた鱗に剣を突き立て、

「蛇如きが逆鱗を持つなど烏滸(おこ)がましい」

 破壊(・・)した。

「シャァ……!」

 ダーク・サーペントは僅かに痙攣し、砕け散った。

 これもチートではない。弱点(WEEK )部位(POINT)の破壊によって、一撃で倒したのだ。


「「「シャァ!」」」


 その眼前に、(ランド)(ウィンド)フレア(アクア)の名を冠する4匹のサーペントが立ち塞がった。

「よほど、我をシール・サーペントの元に行かせたくないらしいな。だが、それでも足りぬ」

 4匹の敵を前に、青年は笑みを浮かべる。

 4対1という状況の不利も、封印毒によるデバフも疲労も全く感じさせない余裕の笑みを。


「さあ、十把一絡げに誅してやろう」


 誰にも気づかれることなくひっそりと、青年の無双が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ