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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第4章 領域解放編

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廻る悪意

 でこぼことした地面に足を取られながら、グリードは地を駆ける。

 翼があるから飛べばいいと思うかもしれないが、飛ばないのではなく飛べないのだ。

 悪魔(DEVIL)の翼に飛行機能がついていないわけではない。

 一定数以上羽ばたけば浮力は得られるし、重心移動で自由に動き回ることも出来る。

 けれど、その羽ばたくというのが難しいのだ。


 当たり前だが、人間に翼は生えていない。


 コントローラーで操作するゲームとは違い、VRゲームでは自分の意思によってアバターを動かす必要がある。

 腕が翼の鳥人(HARPY)とは別として、本来の体にはない翼を動かし、羽ばたくのは簡単ではない。

 救済策として羽ばたくためのスイッチは存在するが、使うためには片手が塞がってしまう。

 片手を塞いでまで飛ぶメリットは、なかった。


「シャァ!」

 襲いかかってきた巨大な蛇(サーペント)が火炎を放つ。

 揺らめく炎を結晶に宿した【フレア・サーペント】。

 巨大な図体からゆったりとした動作で放たれる攻撃を避けることは、素早い悪魔(グリード)には難しいことではない。

 視界から外れ、駆け抜ける。

「シャァ!」

 だが、死角にいるはずのグリードの気配を敏感に察知し、サーペントが巨躯を翻した。

 だが、今は()がいる。

 ククルが勝手に決めたチームは無視したが、彼だけは別だ。


「敵を引きつけろ!」


 グリードが発した命令は、システムを通して絶対のルールとなる。

「くっ……、わかったよ」

 剣奴の少年が立ち止まり、腰を落として構えた。

「シャァ!」

 目論見通り、サーペントがターゲットを切り替える。

 だが、囮が使えるのは1度きりだ。

 つまり、未だ戦場の各地で敵を求めて這いずっているサーペント達は、自力でどうにかしなければならない。

「ちぃっ、もっと引きつけやがれよ。使えねぇ」

 筋違いに文句を垂れながら、グリードはサーペント達のいない方へ走る。

 けれど、それだけで見逃してくれるほどサーペントは甘くない。


「シャァ!」

 新たなサーペントの放った光線がグリードの翼を掠める。

「クソッ!」

 よりにもよって、グリードに目をつけたのは【ライト・サーペント】らしい。

 悪魔の弱点たる光属性の光線を放つ光の蛇だ。

 グリードは立ち止まり、振り返った。

 フレア・サーペントの例を考えれば、簡単には逃げ切れない。

 付与術師(ENCHANTER)のおかげで被ダメージは減っているが、受容出来るかと言えば別問題だ。

 何より、ダメージを受けた以上は、やられっぱなしで逃げるのはグリードの性にあわない。

 ヒュドラ討伐のために無視するのはいいが、攻撃された上での逃亡は度し難い行為だった。


「覚悟は出来てんだろうなァ、サーペント!」


「シャァ!」

 真っ直ぐに突っ込んでくるサーペントの頭突きを避け、グリードは赤く輝く爪で横っ腹を掻き切る。

 ククルも使っていた爪スキルの基本技【クラッチネイル】だ。

 ただし、サーペントに与えたダメージはククルの数倍だった。

 それは蛇人(SNAKEMAN)悪魔(DEVIL)の物理攻撃力の差というより、グリードが持つチート【悪魔(THE DEVIL)】による差だ。

 もっとも、共闘したことのない2人はその威力の違いを知らないが。


「シャァ!」

「うるせぇよ!」

 必要最低限の防御と回避を繰り返しながら、グリードはサーペントの全身に爪を立てる。

 顎の下の逆鱗にだけは触れないように注意しつつ、隙があれば弱点の角を狙った。

 すでに数十回(・・・・・・)と戦っているサーペント相手に、遅れをとったりはしない。

「手間かけさせやがって」

 程なく、サーペントは四散した。


「シャァァァァァァァァ!」


 ヒュドラが雄叫びを上げる。

 それにつられて視線を上げると、空中を激しく回転しながら飛ばされるプレイヤーが目に入った。

 サーペントを避けようとパタパタと飛んで行ったせいで、咆哮にあおられ吹き飛ばされているのだろう。

 そう納得して視線を外しかけた瞬間、プレイヤーの手から武器が落ちた。

 激しく回転しているため、その形状を正しく理解することは出来ない。

 けれど、その武器は夜色(・・)をしていた。

 全身の血が沸き立つ。乙女座の攻略を妨害され、弄ばれ、コケにされた。

 3度にもわたり屈辱を与えてきた敵と、同じ武器の色。


「ぶっ殺す」


 憤怒と憎悪を両目に滾らせ、ヒュドラに向けていた数倍の殺気を放ちながら、グリードは落下した人影に向かって走る。

 幸か不幸か、偶然か必然か、その進路を妨げるサーペントは1匹たりともいなかった。


 ◇


 グリードが辿り着いた時、件のプレイヤーはダーク・サーペントを倒したところだった。その手に武器は握られていない。

 だが、近くで顔を見て確信した。


「会いたかったぜ、クソ野郎」

「……グリードか」

 戦士がため息混じりに返してくる。

「ご明察。さァ、ぶっ殺されろや」

「……そんな場合じゃないだろ」

 言いながらも、戦士は武器を構えた。

 鍔に羽の装飾品がついた剣。市販品ではなさそうだ。

 夜色の斧は落としたから使えないとして、なぜ剣を構えたのか。

 基本的に、プレイヤーの主力武器はひと種類である。斧で戦うまでもないとの判断か。

 剣が本来の武器ならば、今までは手抜き状態で戦っていたということになる。


「……ふざけやがって」

 どちらにせよ、グリードの怒りを逆撫でするには十分過ぎた。

「ふざけてるのはそっちだろ。今はヒュドラをーー」

「ヒュドラなんざ、どうでもいんだよ! テメェさえぶっ殺せればなァ!」

 腰を落とし、爪を構える。

 戦士は再びため息を零した。


「……わかった。なら、対戦(DUEL)をーー」

「安心しろよ、ここじゃ死んでもデスペナはねェ」

 厳密には、ヒュドラやサーペントに倒された場合であって、他のプレイヤーに殺された場合のデスペナがないかどうかまでは知らないが。

「もちろん、攻撃だって普通に通るぜ。ここは混沌の世界(カオスワールド)だ。共同戦線張ってようが、関係ねェ」

 そこに根拠はない。

「そうじゃない。戦ってやるから、もう絡んでくるなって話だ」

「ハッ、なら余計に受けるわけには行かねェな」

 ようやく、戦ってやる、と戦士が言った。

 上から目線なのは気に入らないが、言質としては十分だ。


「1度ぶっ殺したくらいで、気が晴れるわけねェだろうが。気が済むまで(なぶ)ってやるよ」


「リベンジ果たして、ヒュドラ戦からも脱落させーー」

「御託はいらねェ!」

 グリードはスキル技【ポイズンネイル】を発動させる。

 ダメージを与えると共に、敵を毒状態にする技だ。確定ではなく確率なのは腹立たしいが、毒になるまで繰り返せばいいだけのこと。

 戦士の硬さに胡座をかいて、初手は避けてこないとの判断だーーったが。

「チィっ」

 ーー躱された。

 鈍足の戦士とは思えない俊敏さだ。

 けれど、わかっていれば見切れない速さではない。

「ポイズンネイル!」

 素早く体を反転させ、距離を詰め、爪を突き立てる。

 戦士は回避ではなく、反撃を選んでいた。

 グリードの爪は戦士に刺さるが、振り下ろされた剣にHPを2割強(・・・)削られる。


「まァ、こんなもんか」

 反撃を受けながらも、グリードの顔には笑みが浮かんでいた。

 決して小さなダメージではないが、前に一撃で倒されたことを考えれば、少ないと言っていいだろう。

 それもこれも、スキルと装備で低い物理耐久を補ったおかけだ。

「くそ、毒か……」

「気づくのが遅せぇよ」

 戦士は剣を引いて、距離を取った。

 そして、ストレージから解毒ポーション(・・・・・・・)を取り出しーー


「させっか!」

 グリードが素早く距離を詰め、叩き落とした。

 自身の攻撃力はチートで強化されているとはいえ、敵は重装甲の戦士。

 割合ダメージの毒は、重要なダメージ源だ。

「回復の隙なんざ、あると思うなよ!」

 スキル技は使わずに、グリードは苛烈に攻め立てる。

 そのほとんどは防がれてしまうが、さしたる問題ではない。

 時間を稼ぐことが大事なのだ。

「くっ、この……」

「ハッハ、辛いか! 苦しいか! テメェはそうやって、朽ちて死んでくのかお似合いだよ!」

 罵倒しながらも、攻撃の手は緩めない。


「悔しいか? なら、やり返してみろや!」

 その瞬間、戦士の表情が変わったのをグリードは見逃さなかった。

 守りから、攻めに転じる決意の表情だ。

 けれど、剣を構え直す素振りはない。

 逃げられないのはわかっているのだから、肉を切らせて骨を断ちに来るだろう。

 そう思いつつも、全身に注意を払っていたからこそ、グリードは気がついた。

 静かに上げられた足が赤く輝いていることに。

 足が下ろされるのに合わせて、グリードは跳んだ。

 飛翔(FLY)ではなく跳躍(JUMP)だが、地面にヒット基準があるフットスタンプを躱すのには足りる。


「残念だったな」

 グリードは手を前に突き出した。

()べ、火球(かきゅう)ーー」

 紡ぐのは魔法の詠唱。この復讐の為にわざわざクエストを受けて習得した魔法だ。


「ーーファイアボール」


 悪魔の手から放たれた火球が、戦士を焼いた。

 悪魔(DEVIL)の魔法攻撃力は高くない。

 だから魔法を使う悪魔のプレイヤーなんてほとんど居ないが、敵が魔法防御力の低い戦士なら話は別だ。

 魔法自体の威力の分で、それなりのダメージは与えられる。

 それが高い攻撃力で高い防御力に挑むより大きいことは、闘技場(コロシアム)で検証済みだ。


「チィッ、しぶてぇな」

 だが、グリード自身が魔法の扱いに慣れてないことも含め、何度も使える手ではない。

 出来ればトドメに使いたかったが、タフな戦士には耐えられた。

 だが、HPも残りわずかなのだろう。

 戦士は回復することもなく、剣を振り上げ、赤く輝かせた。

「やぶれかぶれの大技ってか。いいぜ、乗ってやる」

 笑みを浮かべ、グリードも爪を構える。

 倒しきれなかったのは想定外だが、そのおかげで直接殺すチャンスを得た。

 毒でも、魔法でもなく、自らの爪で仕留める。


「くたばれ!」

「アズカウンター」


 激昂と共に、グリードは飛び出した。

 その耳に戦士の声は届いていない。

 仮に届いていたとして、それがガラードの使っていた技だと気がついて、その効果にまで思い至っていたとしても、避けたりはしなかっただろうが。

 戦士の剣が届き、グリードのHPが半分以上削られる。

 だが、グリードの爪も戦士に届いた。


 戦士は倒れーーない。


「テメェ、何しやがった……?」

 カウンターで喰らったダメージからして、魔法は間違いなく効いている。

 毒状態であることも踏まえれば、すでに死んでなくてはおかしなダメージ量のはずだ。

 だが、眼前の戦士は倒れない。

「教えてやる義理はねぇよ」

 戦士は不敵な笑みを浮かべた。

「クソが……」

「まあ、これ以上関わってこないって約束するなら、教えてやるけど?」

「ハッ、ンなことするかよ」

「そうかよ。なら、ゆっくりしてると()で死ぬからな。無法者には退場願おうか」

 戦士が剣を振り上げる。

 グリードのHPは3割を切っているが、一撃ならギリギリで耐えられる数値だ。

 時間切れを狙って逃げるくらいなら、攻める。

 それがグリードのやり方だ。


「とりあえず、死ねよ」

「勝つのは俺だ」


 悪魔と戦士は同時に地面を蹴る。

 戦士の動きは少し早く(・・)なっていった。

 その加速が、グリードの爪よりも僅かに早く、戦士の剣を届かせる。

 その斬撃は、耐えられるはずだったグリードのHPを削り切った(・・・・・)

 HPがゼロになり、グリードの体が碎ける。

「なにっーー


 戦士に返り討ちにされ、グリードの戦いは終了した。

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