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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第4章 領域解放編

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領域解放戦・星狩りの剣

 無駄に凝った演出を伴って、貪欲領域(ケムダー)の荒野にヒュドラが姿を現した。開幕の一撃は、猛毒龍の二つ名に恥じない回避不可能の毒ブレス。

 だが、放っておけばHPが削られる状態異常は、その猛威を振るう前にヒーラーによって解除された。


「さぁ! ヒュドラ討伐を始めよう!」


 セフィラ解放軍(かいほうぐん)のエターナルの掛け声に合わせて、プレイヤー達が動き出す。

 だが、転送時に最前線という好位置につけていながら、オルバーを含め、星狩(ほしが)りの(つるぎ)のメンバー達は動かない。


「同胞たちよ!」


 黒鉄で出来た爪を掲げ、ククルが声を張り上げた。

「我らが狙うのは、MVPに与えられる星具(せいぐ)である。そのために、我らは一致団結し、かの邪龍に立ち向かう! 全ては勝利のために!」

 彼女自身の言葉ではなく、ボスからの借り物の言葉だが、それにケチをつけるプレイヤーはいない。


「進軍、開始!」

「「おう!」」

 声を揃えて、武器を掲げる。

 自分本位なプレイヤーが多いとはいえ、協調性が皆無というわけではない。そもそも、ギルドの成り立ちからして、強大な【星の守り神】に協力(・・)して勝つために生まれたギルドだ。

 事前に決めたチーム分けに従って、星を狩る戦士達が進軍を開始する。


素早(すばや)(うご)け、クイック」

 それに合わせて、素早さを上げる魔法が唱えられた。全員の進軍が加速する。


(まも)りを(かた)め、バリアー。(こころ)(かた)め、レジスト」

 続けて使用されたのは、物理防御力と魔法防御力を上げる魔法だ。


(ちから)(ほこ)れ、アームズ。知識(ちしき)(ほこ)れ、インテリ。よし、おっけい!」

 最後に両攻撃力を上げる魔法を放って、自称・魔法少女が満足げに笑う。

 彼女はセプト。サポートに優れた付与術師(ENCHANTER)だ。


「目にもの見せてやりますよ! アザトックス!」


 元は解放軍で僧侶(MONK)をしていながら、支援魔法を習得し、職業を変えて、星狩りの剣に流れてきた異色のプレイヤーでもある。

「ご苦労様です。あとは、回復に専念してください」

「君は私が守るから安心するといい」

「はぁーい」


 彼女とククル、そしてガラードがオルバーのチームメンバーだ。

 数少ないーーというか1人しかいないーーサポーター兼ヒーラーのセプト。

 彼女の護衛に、実力ナンバーワンーーボスを除くーーのククルと騎士(KNIGHT)のガラード。

 それから、遠距離攻撃を得意とするオルバー。

 彼らの役目は、前線の少し後ろから全体を補佐することだ。

 そしてもう1つ。ククル、ガラード、オルバーの3人はU18トーナメントの予選を勝ち抜けたことで、領域解放戦に関する重要な情報を手に入れていた。

 ギルドの意義にまつわるある情報を。


「余裕があるなら、他のギルドのプレイヤーを強化しててもいいですよ?」

 冗談めかした風に、ククルが言う。

「おいおい、敵の手助けしてどうすんだ」

 思わず、オルバーは反論した。

「私達が狙ってるのは、MVP(・・・)です。むしろ、解放軍の連中も助けて、恩を売り付けておけばいいんですよ」

「そんなことで贔屓する連中とは思えないけどな」

「やってみなければわからないでしょう」

「やってみて駄目だったら、俺らの勝率が下がるだけだろ」

「そんなのは目に見えない結果です」

「それはお互い様だろ」

 バチバチと火花を散らしながら、2人はセプトを見た。

 可憐な魔法少女は曖昧な笑みを浮かべ、どう判断するべきか決めかねている様子だ。


「とりあえず、今は味方の支援に集中だ」

「りょーかいです」

 オルバーが優しく声をかけると、セプトは素直に頷いた。その姿に、オルバーの涙腺が緩む。

「あぁ、素直な少女っていいな。セプトが俺の娘だったらなぁ」

「……変態ロリコン」

 ポロリと漏れた本音に、ククルが毒を吐いた。


「いや、今のはそういう意味じゃなくてな」

「何をどう言おうと、その顔でその発言はアウトです」

「いや、顔は関係ないだろ!」

 蛇人が放つ言葉の毒に精神的ダメージを受けながらも、オルバーは必死に抵抗する。その心にトドメを刺したのは、


「……キモいです」

 詠唱すらない魔法少女のひと言だった。

「キモ……」

「おっと、危ない」

 フラリと倒れ込むオルバーを、騎士が支える。

「……ガラード。俺の味方はーー」

「ボーッとしてないで働けよ。オルバー。汚名返上のためにもな」

「ーーどこにもいないらしい」

 ガックリと肩を落とし、オルバーは真っ赤に輝く矢を番えた。火傷の追加効果付きのその矢はゲームにおける火矢だ。

火傷矢(バーンアロー)!」

 限界まで弦を引き絞り、ヒュドラ目掛けて矢を放つ。届くかどうかは二の次で、戦う意思を見せる為だけの一撃。


「シャァ!」

 その矢は、窪みから這いずり出てきた何かに突き刺さった。漆黒の鱗に覆われ、丸みを帯びた太くて長い何か。

 まるでヒュドラの首のようなそれは、巨大な大蛇だった。

 固有名は【フレア・サーペント】ーー炎の蛇だ。

「安直な名前だな……」

 全身が燃えていたりはしないが、額に生えた結晶の中では炎が静かに揺らめいている。

「名前の安直さには同感だが、気は抜くなよ」

「わかってる」

 ガラードに窘められ、オルバーは弓を構え直した。


「来ますよ。しっかりとセプトだけは守ってください。ガラード」

「回復はしますから、守ってくださいね。ガラード」

「承った」

「俺は無視かよ!?」

「黙って敵を倒してください。あなたは」

 女性陣の扱いに思わずオルバーが声を張り上げるが、扱いはなお冷たくなるばかりだ。

 本気で汚名返上の必要性を感じ、オルバーは居住まいを正した。


 ◇


 ーー時は少し遡る。

 協調性が皆無というわけではない。というのが、全員が一丸となって結束しているということかと言えば、そうではないのだ。


「ぶっ殺してやるよ……」

 ククルの宣言どころかエターナルの号令すら待たずに、周りのプレイヤーを押し退けて、悪魔が飛び出した。

 名前に違わない強欲さを隠しもせず、独断専行常習犯の彼の行為を咎める人は誰もいない。

「…………」

 その後ろに続くのは剣奴の少年。

 勇敢さを意味する名前を持ちながら、悪魔に敗れ奴隷(スレイブ)となった剣闘士(GRADIATOR)だ。

 悪魔の身勝手に口出しする人がいないのは、彼の二の舞になることを恐れているというのもあるだろう。


「はぁ……」

 そんな悪魔とチームを組まされた大男は、ひっそりとため息を零した。

 名前はブリガンテ。大盾持ちの重装甲戦士(SOLDIER)だ。

 彼のチームメイトは走り去った悪魔と剣奴、それから集合時間になっても姿を現さなかった小妖精と魔法使い。

 そしてーー

「お前はいなくなるなよ。ラグナ」

 ブリガンテは唯一残ったメンバーに視線を移した。

 彼の持つ大盾を構えれば、姿がすっぽりと隠れてしまいそうな小柄な少女だ。

 悪魔の()手駒にして、チートを持たない銃使い(GUNNER)

 現奴隷が処遇を巡って悪魔と対立した原因でもある。

 結果的に彼のおかげで開放された訳だが、感謝や負い目を感じている様子は見られない。

 ついでにブリガンテの言葉に対する反応もない。


「聞こえーー」

「うるさい」

「……く」

 上目遣いで睨まれ、ブリガンテが怯んだ。

「4人もいなくなったんだし、私は私のペースでやるからほっといてよ」

「そうはいかないだろ。チームなんだから」

「だから何? 半数以上消えたのに、私にだけ強要するの?」

「そ、それは」

「自分の身くらいは守れるから、ほっといて」

 話す気はないと、少女はそっぽを向いた。

 ククルの合図を待たずに飛び出さないだけ、悪魔よりはマシかもしれない。

 だが彼女まで勝手に動くとなれば、残されたブリガンテは誰も守らない盾役(タンク)となってしまうわけで。

「はぁ……」

 これから始まる戦いを前に、大男は深いため息を零した。


 ◇


 集合場所に姿を現さなかったブリガンテのチームメイト2人だが、彼らは決して領域解放戦を放棄したわけではない。

 ククルの宣誓を煩わしく思い、チームで行動する必然性を感じなかっただけだ。

 結果として2人はククル達より少し遠くに配置されながらも、前線に加わることが出来た。

 それでいながらセプトによる支援はしっかりと受け取り、魔法使いの少年が笑う。

「やっぱり多数派ってのはいいね。力が漲ってくるよ」

「バフは関係ないけどね?」

「気分の問題だよ、姉さん。人数でもステータスでも増えると気分が高揚するんだ」

「足手纏いが増えても疲れるだけでしょ?」

 楽しそうな少年の呟きに、姉と呼ばれた小妖精(ELF)は甘いため息を漏らした。露出度の高い衣装と相まって艶めかしい仕草だが、少年は僅かも照れることなく見つめ返す。


「数は力、だよ」

「量より質、とも言うでしょ?」


 2人の意見は対極に位置し、決して交わることはない。けれど、2人にとってこれはじゃれ合いだ。

 しばらく視線を交わした後に、どちらともなく破顔し、笑い合う。

「さ。真面目にやるわよ? シャドウ」

「わかってるよ。ネラ姉さん」


「「狙うは星具(MVP)!!」」


 ククルを蔑ろにしたり、ギルド名よりもコンビ名を名乗ったり、所属ギルドを軽視する2人だが、意味もなく所属しているわけではない。

 決意を新たに黒影(ふたり)が武器を構える。

 その近くを、猛スピードで駆け抜けていくプレイヤーが1人。

 男はいかにも戦士な防具を身につけ、素早さの下がる斧を持ちながらも、他の追随を許さない。

「……あれって?」

「レフトの騎士、ライトだね」

「あぁ、あの時の彼ね……?」

 最前線から更に突出した男の前に、巨大な蛇が立ち塞がった。ヒュドラの取り巻きだ。

 それを、ライトはすれ違いざまに一撃で粉砕する。

「嫌になるね、あれ」

 チートを知っているので驚きはないが、乾いた笑いしか出てこない。

 つられてネラも苦笑いを浮かべる。

「数も質も関係ないわね?」


 一騎当千の快進撃を続けるライトの背中を見ながら、2人は改めて武器を構えた。

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