知り合いの知り合いは知り合い
「あ、ライトじゃないですかぁ」
星狩りの剣の面々から逃げるように距離を取ると、別の知り合いと出会した。
「ライトはこっちにしたんですねぇ」
語尾が間延びした甘ったるい声。
「……フィックスか」
「はぁい。SeLFのフィックスですぅ」
浴衣の少女は、ニヤニヤとした上目遣いで見つめ、顎に指を添えてくる。誘惑するというよりは、大人びた動きをしようとする子供のようだが、油断すると見とれてしまいそうだ。
「SeLFだったんだな」
「そぉですよぉ。前回は言ってませんでしたねぇ」
「今日はガイウス達とは一緒じゃないのか」
「ヒュドラの方に、参加ですからぁ」
「だよな」
事前に公表されていた情報通りだ。
「……終わりですかぁ?」
少し離れ、フィックスは試すような視線を向けてくる。いや、試すようなというは俺の勝手な思い込みか。
ただ、問われたからには聞く必要があるだろう。
「ルーク達とも一緒じゃないのか」
「ヒュドラの方に、参加ですからぁ。いつ、気がつきましたぁ?」
「ルークと話してる時に同じ名前だって気がついた。同姓同名の可能性もあったけど、ロキが俺のチートを知ってーー」
「ありえません」
同一人物とは思えないほどに冷たい声で、フィックスが断定する。
「これは、大切な人からもらった大切な名前ですから。他の人がつけるなんて許しません」
そこまで思い入れがあるとは思っていなかった。名前の話題は地雷だったかもしれない。
「その喋り方をしてたら、気づいたかもしれないんだけどな」
「ん~? 言ってる意味がぁ、よくわかんないですよぉ?」
「はいはい」
茶化すように話題を変えることで、フィックスも普段のーーゲームにおけるーーキャラに戻った。
「そろそろぉ、開幕ですねぇ」
「そうだな」
細かい時間は確認してないが、ここに来てからそれなりに時間が経ったし、いつ始まってもおかしくはない。
「ルーク達は上手くやってるかな」
「さぁ~、どうでしょうねぇ」
その戦いぶりを想像してか、フィックスはクスリと笑みをこぼす。
「獣人と合成獣の戦いは、ある意味宿命ですしぃ。
ロキはぁ、バンド仲間がペガサス欲しいっ! ってなったから、向こうでぇ。
参加公表してたメンバー的に、レフトがあっちに行きたがるのも性だよねぇ」
「確かになぁ……ん?」
こいつ、最後になんて言った?
「どーかしましたぁ?」
「いま、お前、レフトって」
「言いましたよぉ?」
「お前に会った時は俺だけだったよな」
ルーク達と会った時には一緒だったが、それを彼が伝えていたとしても、このタイミングで出てくるのは不自然だ。百歩譲って話題に出たとしても、今の発言はありえない。
「そうですねぇ……え、普通にフレンドだけど?」
「……隠してるわけじゃなかったのか」
そういえば、ロキとも知り合いだったな。現実での関係を考えれば、フィックスとも知り合いでもおかしくないのか。
というか、ルークと話してた時の気苦労を返してくれ。
「そんな事はないと思いますよぉ。ルークとかぁ、リオンには話してないだろうしぃ」
「あ、そう……か」
なら無駄じゃなかったのか。
「まぁあ、積極的に話さなきゃ良いだけですよぉ。結局」
「そうだな」
思わぬ繋がりが発覚したが、ゲームにおいては何の支障もないのだ。リアルの知り合いとゲームで知り合いでも、それを知らなくたって、分けて考えられるのだから。
「……なんだよ?」
「にゃは。爆弾投下しようか悩んでただけですよぉ?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、フィックスは物騒なことを言い出した。って、この場合は比喩か。
レフトとフレンドだったことよりも衝撃の発言だと?
「何を言おうか悩んでるんだ?」
「あはぁ、気になりますぅ?」
「正直に言えば」
「へぇ。ならぁ、デート、してくれたら教えてあげますよぉ?」
少し頬を赤らめながら、フィックスが詰め寄ってくる。
「そんなことでいいなら、むしろ喜んでやるぞ?」
「……へ、へぇ。いいですよぉ、上等です。言っちゃいますよぉ? 実はーー」
「ーー紳士淑女のゲーマー諸君! ようこそ集まってくれました!」
その声を合成音声がかき消した。
「またかよ!?」
前回もルークと話してる時に始まったぞ。いや、話が始まるのは決まってたから、その直前に話してる俺が悪いのかもしれないけどさぁ。
「あ、始まっちゃいましたかぁ。じゃぁ、仕事に行ってきますねぇ」
人混みを潜り抜け、フィックスは声の元へと走り去る。話は聞きそびれてしまったが、これはこれで良かったのかもしれない。
そう考えておくことにした。
「ついに! クリフォの主、猛毒龍ヒュドラを下し、新たな領域を解放する日がやって参りました!」
人混みの向こうからでもよく響く、中性的な合成音声。そんな特徴的な声を持つプレイヤーは1人しか居ない。
覆面ブロガーのイオーーもとい、SeLFのエターナルだ。
「我らがリーダーは向こう故、ここはこのエターナルが暫定リーダーということで……まあ、形ばかりですが。異論反論その他諸々はヒュドラを倒してから受け付けます!」
開き直ったエターナルの態度に、群衆から笑みがこぼれる。
「てか、なんでエターナルがこっちにいるんだよ」
キマイラに関わってるんじゃなかったのか。
「それはもちろん……面白いから! 自分が報酬用意したやつに参加してゲットするよりも、未知の報酬を求めるのはゲーマーなら当たり前!」
俺の呟きが聞こえたかのように、エターナルから訂正が入った。向こうからも姿は見えないはずだが、声は聞こえたのだろうか。
あるいは、前の方でも同じ反応があったのかもしれない。
「では! ごちゃごちゃと話しててもあれなので、行きますよ! フィックス!」
「はぁい!」
エターナルに呼ばれ、フィックスが答える。
疑ってたわけじゃないが、本当にSeLFのメンバーなんだな。それも、結構な重役のようで。
「今日のためだぁけぇに、習得した魔法。行っきますよぉ!」
フィックスの掛け声に合わせて、地面に魔法陣が浮かび上がった。とても巨大な、それこそ、レーシュの丘全体を包み込むくらいの大きさがありそう魔法陣だ。
「テレポーテーション!」
「イーッツ、ショーターイム!」
魔法陣が輝き、世界がホワイトアウトした。
こんにちは、銀です。
ついに領域解放戦が始まります。
ライトだけではなく、皆の活躍と奮闘を心行くまでご堪能ください。




