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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第4章 領域解放編

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死霊術師

 レヴィ(恋人)がレフトに、戦車(アーケイン)が教皇に向かっていくのを横目に確認し、塔は眼前の青年ーー月へと鉈を向けた。


「じゃあ、ボクらも始めようか。正直、数合わせみたいなものだから、フリでもいいんだけど」

「いやぁ、そういってくれると助かりますわ」

 月が軽薄そうな笑みを浮かべる。

「自分もやるメリットないと思っとったんすわ」

「気が合うね」

 同意が得られ、塔は鉈を下ろした。

 けれど、月は短剣を構えたまま。

「なんもせんのは、さすがにマズイやろ?」

「……そうかな。向こうは自分達の世界に入ってそうだけど」

「やとしても、棒立ちはアカンて」

 月としては何もしないという選択肢はないらしい。

 塔は初耳だったが、教皇の話が本当だとすれば、アルカナ系チート持ち同士は不用意に戦うべきではなさそうだが。

「……じゃあ、一撃だけ入れようか」

「よっしゃ、交渉成立や!」

 にっこり笑って月は手を差し出す。


「そういうのはいいから。早く済ませちゃおう」

 塔は手ではなく、鉈を突き出してゆっくりと近づいた。

 月も短剣を構えて、ゆっくりと距離を詰める。

 あと1歩でぶつかるところで止まると、2人は同時に武器を振り上げた。ローブの袖がめくれて、月の華奢な腕が露になる。


「……腕1本くらいもらってもいい?」

「アカンに決まっとるやろ」

 ポロリとこぼれた本音に、月が頬を引き攣らせた。

「冗談だよ」

 男の腕は筋肉質で逞しいことこそが重要だと思っていたが、つい、女のように華奢な腕も悪くないと思ってしまっただけなのだ。

 他意はない。

「それじゃあ、痛くないように一撃で行きますよ!」

「いや、それ腕取る時のノリやないかい!」

 言葉とは裏腹に、鉈は胴体をなぞるように薄く切り付けるだけに終わった。

「反応が面白くて、ついね」

 小さく舌を出して、塔は腕を広げる。

「さあ、次はキミの番だよ」


「悪ノリこわいわ。ーーポイズンダガー」

 意趣返しとばかりに、スキル技を発動させた月。

 かすり傷のような斬撃のダメージは微々たるものだが、HPバーの上に表示された紫色の髑髏マークは、毒状態になったことを端的に表していた。

「最悪だぁ」

「すまんすまん。ほれ、解毒ポーション」

「……ありがと」

 差し出されたポーションを受け取り、ストレージへ入れる。

「ん? 何しとるん?」

「その態度はちょっと、ボクのこと舐めすぎじゃないかな? 君のチートの効果くらい知ってるよ」

 鉈を構え直した塔に対し、月も短刀を構えながら距離を取った。

「異常状態の固定化、だよね? ボクはホントに戦うつもりなかったんだけどな」

「オレかて戦う気はあらへんよ」

 治癒不可能の毒にHPがじわじわと削られていく。


「そこで、提案や」

 月は短刀をぺちぺちと弄びながら、不敵に笑う。

「あんさんの(それ)、夜の武器やろ。なら、夜の欠片持っとるやろうし、それくれたら引いたるわ」

「最初からそれが狙いってわけ」

「本来はシャドウから貰う手筈やったけど、どーなるかわからんやん? だから作戦変更して、貰えそうなとこからもらっとこっちゅうわけっすわ」

 いかにも今考えたような言い分だが、暗い洞窟の中で武器の判別が出来るのだろうか。カマをかけられた可能性もあるが、どちらにせよ性格の悪さが伺える。


「渡す気はないって言ったら」

「あんさんが、毒で死ぬだけやな。そうしたいんなら、好きにしたらええ」

 渡したからって助かる保証はないだろうに。

「じゃあ、そうするよ」

 小さく笑って、塔はチートを発動させた。

 毒によるHPの減少が止まる。

「何をしたんや?」

 月には、塔のHPが見えてるらしい。

 毒で罠に嵌めるなら必須のスキルだろう。けれど、

「キミはホントに他人のチートを知らないんだね」


「ボクのチート(THE TOWER)は、世界の性質の反転。危険なダンジョンの中だろうと、安全空間(コスモスペース)に早変わりってわけさ」


 チートを2つ名に使っているのだから、それくらいは調べておくべきだろう。と、塔は笑う。

「なるほど。それで毒が効かへんのか」

「そういうこと」

 毒状態で持続ダメージが入るのは混沌の世界(カオスワールド)危険地帯(カオスエリア)にいる時だけ。

 治せなくても、ダメージが入らなければ、倒れることはない。

「けど、そんなことしたら、あんさんの方もオレを倒せんやろ?」

「うん。ボクは(・・・)、ね」

 塔は笑顔で向ける。月、ではなく、その近くに立ったままの相棒(・・)に。


 ーー死体人形【リカ】起動。操作方法はマニュアル。


 その瞬間、塔の視界がブレて、切り替わる。

 斜め前には短刀を構える月の後ろ姿。塔の言葉にレフトやアーケインの参戦を警戒しているらしく、後ろはがら空きだ。

「こっちだよ!」

 身体を切り替えた塔は静かに鉈を構えて、斬りかかった。

「なっ……! ポイズンダガー」

 動揺は一瞬。すぐに反撃が飛んでくる。

 だが、避ける必要はない。

 スキル技は胴で受けつつ、鉈を振り下ろす。

 短刀では鉈を受けきれないらしく、月もまた、防御を捨てて攻撃に専念していた。

 が、その手が不意に止まる。


「……やってられんわ」

 (リカ)にHPバーがないことに気がついたのだろう。

 当然、毒状態になったところで何の意味もない。

死霊(NECRO)術師(MANCER)なんて聞いてへんで」

「言ってないからね」

 塔は笑みを浮かべる。

「勝ち目がないってわかったら、消えてくれるかな」

「見逃してくれるんかいな」

「ボクは寛容だからね。不意打ちの件は水に流してあげるよ。どうしてもって言うなら、その華奢な腕をーー」

「わかったわかった。ここは引かせてもらうわ」

 月がゆっくりと後退る。

 塔としては早く離れて欲しいのだが、態度には出さない。

 視界から月が消える。

 だが、遅かった。


「もっと見たかったな」


 塔のHPが毒によって(・・・・・)全損、人魂へ変わる。

 (THE TOWER)は強力だが、発動するためのエネルギーをストックしておく必要があるチートだ。

 そして、そのストックは前日のレフト達との戦闘とU18トーナメントでほとんど使い尽くしていた。

 月の毒を防げたのは一瞬だけ。

 リカに意識を向けさせることで気づかせなかったが、勝利には1歩届かなかった。


(もっと見たかったな)


 心の中で呟き、塔の人魂は消滅した。

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