力ある者
「1分だけ時間をくれないか?」
その問いに力は「イイわよ」と快諾。
シャドウは返事をしなかったが、攻撃してくる様子もなかったのでスルー。
使用中の松明と予備の松明を左右の岩壁に突き立てる。石壁に木製の松明が刺さるのかは賭けだったが、案外簡単に出来た。
心なしか炎も強くなったような気がするし、松明の使い道として想定されているのかもしれない。
力とシャドウにも持っている松明を突き立ててもらい、洞窟内に光の間が完成した。
「照明係に相応しい死に場所が出来たね」
腕を組んでシャドウが笑うが、そちらは無視して、力へ視線を向ける。両手が空いた巨人へと。
「これで、チートは発揮出来るか?」
「えぇ、存分に」
俺は改めて、召喚士の少年へと向き直った。
「なあ、シャドウ」
「なんだい?」
攻撃されないと思っているのか、杖を構える気すらない。
「これだけ明るくなったら、影は必要ないと思わないか」
「それで上手いことを言ったつもりかい」
シャドウが眉を顰める。
いや、照明係よりはマシだろ。俺の名前は別にLIGHTじゃない。
「命乞いのつもりなら、聞く気はないよ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
言い終えると同時に、俺は全力で距離を詰めた。
「へ?」
驚愕に目を見開いたシャドウの頬を、思い切り殴り飛ばす。回転しながら崩れ落ちるシャドウ。そのHPも勢いよく減っていることだろう。
「なんでーー」
疑問を言い切ることなく、人魂へと変わった。
「最初に言っただろ」
俺は静かに、口の端を吊り上げる。
「人違いだ、って」
U18トーナメントで彼らと戦ったのは、ロキだ。
俺が直接相対するのは初めてであり、当然、初見殺しは発動した。
「ということは、ワタクシ相手にもチートは発動するのかしら?」
「そういうことだな」
闘技場の非戦闘エリアで話しただけの力も同じだ。チートは発動し続けている。
「フフ。嬉しいワ」
初見殺しのことはシャドウから聞いているだろうに、力は嬉々として笑みを浮かべた。
「ワタクシも本気でお相手しましょう」
力の前に、刃渡り1メートル以上あるノコギリのような巨大な剣が出現する。元から持っていた大剣を左手に持ち替え、それを右手に装備した。
「あらゆる武器と防具を制限に関係なく装備出来る力ですワ。両手剣だって、ホラこの通り」
巨大な双剣を軽々と振り回してみせる。
巨大だとは思ったが両手剣だったのか。両手が塞がる代わりに高い攻撃力を誇る武器なのに、それを片手で使える、と。
それに、防具も含むということは、魔法使いなどが重装備に制限がかかる職業だったとしても、鎧を装備出来るようになるのか。
「俺のチートは知ってるだろ。先攻は譲るよ」
「では、お言葉に甘えさせていただきますワ」
両手の剣を赤く輝かせながら、力が迫る。
両手剣のスキル技だろうか。
防御は間に合うが、ここはあえてそのまま受ける。
左手の大剣が振り下ろされ、僅かなダメージと共に、防御力低下のデバフが表示された。
「これは……!」
続けてノコギリ巨剣が振り下ろされ、HPが目に見える程度には減少する。
「フフ。どうかしら?」
「正直、舐めてたよ」
力の名前に違わぬ攻撃力だ。
職業や武器が強いのか。装備条件だけじゃなく、攻撃力にもチートが乗っているのか。
「それでも、勝つのは俺だ」
一息に距離を詰めて、斧を振り下ろす。
「やってみせなさい、ボーヤ」
力は大剣を掲げて受け止めた。
素早く動けることはバレているので、防がれることに驚きはない。
走ってきた勢いのまま、蹴りを入れる。
が、今度はノコギリ剣で防がれた。ピキっと、不快な金属音が鳴る。
チートで攻撃力のカンストした蹴りを、巨剣の腹で受けたせいだろう。
武器を破壊されない為に、力は巨剣を避けるしかない。ーーはずなのに。
「……マジかよ」
力は一切、動かなかった。
壊れる前に足を引いて、距離をとる。
「フフ。壊さないなんて優しいのネ」
双剣を構え直しながら、力は微笑む。
「……次は壊す」
「ボーヤには難しいんじゃないかしら?」
「言ってろ」
次は容赦しない。
斧を肩に担ぎ、腰を落とす。
「あら、次はワタクシが攻める番でしょう?」
「ターン制バトルじゃないし、もう関係ないだろ!」
斧が赤く輝いた。
「トマホーク!」
投擲。と、同時に地面を蹴った。
トマホークはあくまで誘導で、そちらに気を取られた瞬間に懐に入り込む。その勢いで突き出した拳は大剣に防がれた。
が、これ自体が陽動。
「トマホークは、2度飛来する」
後方に飛んでいった斧は、持ち主目掛けて戻ってくる。
力の正面にいる俺の元へ。
ーー。
ーーーー。
ーーーーーー。
「コレをお待ちかしら?」
力の声に顔を上げると、その左手に常夜の斧が握られていた。拳を防いだ大剣は、いつの間にか地面に突き立てられている。
「なんで……?」
「言ったでしょ。ワタクシのチート【力】は、制限に関係なく装備出来るって」
その言葉と共に、スキル技特有の輝きを帯びたノコギリ剣が叩きつけられた。
「例え、スキル技が発動中の斧でも、装備出来てしまうのヨ」
「……それはつまり。高速回転する斧の柄を、空中で掴んだってことか?」
「そういうことヨ」
常夜の斧が振り下ろされる。
せめて武器交換と思い大剣を掴むが、引き抜けない。
「これも両手剣……くっ」
斧の一撃により、さらにHPが削られた。
カウンターを入れようにも、刺さったままの大剣が邪魔だし、ノコギリ剣や下手をすれば常夜の斧で受けられる可能性がある。
ここは距離をーー
「なっ!」
取るよりも早く、ノコギリ剣の刺突が炸裂した。
体勢が崩れ、倒れてしまう。
「……強いな」
「そうヨ。ワタクシは強いノ」
力はそっと胸に手を当てる。仕草と体格のチグハグさはネタっぽいが、強さは本物だ。
技術面では終始圧倒されていた。防御力がカンストしていなかったら、負けていただろう。
「でも、勝つのは俺だ」
立ち上がり、銅の剣とフェザーソードを構える。
「あら、アナタも双剣使いだったノ?」
「武器に拘りがないだけだ」
仲間を見つけて楽しそうに声を弾ませたところ悪いが、双剣として構えたのは初めてだ。
「フフ。アナタは剣闘士になれそうネ」
力は斧を地面に突き刺し、大剣を構え直した。
「どちらが真に、双剣使いに相応しいのかを決めましょう?」
「剣の質が違い過ぎるだろ」
片や初期装備と細剣、片や両刃とノコギリ刃の両手剣だ。体格でも技量でもこちらが圧倒的に不利。
ゆっくりと足を上げながら、間合いを測る。
ーー遠過ぎては、届かない。
「こいよ。今度は反撃するけどな?」
「フフ。望むところですワ!」
両手の剣を光らせて、力が地面を踏み締める。
その瞬間。俺は上げていた足を勢いよく下ろした。
地面が揺れ、触れたものをスタンさせる衝撃波が発生。踏み出そうとしていた力は躱せない。
そして、この技【フットスタンプ】には、ダメージ判定も存在する。
「フフ、油断したワ」
普段なら極小ダメージでも、チート状態の俺が使えば即死技だ。スタンによって動きを止めた力が、その姿を人魂へと変える。
「強かったよ。本当に」
人魂が小さく揺れた。
だが、これ以上は話すこともない。
2本の剣をストレージに戻して、常夜の斧を装備し直す。それから、戦利品としてシャドウと力の分の松明も回収。
「さて、レフトでも探しますか」
シャドウの口ぶりからして何か仕掛けているのだろう。ログイン状態は続いているし、多少の罠で負けはしないだろうが、放置して怒られるのも面倒だ。
人魂が消えたのを確認し、洞窟の奥へと向かう。
と、奥に松明の火が見えた。
慌てているのか、火は激しく上下に揺れている。
やがて、そのシルエットが確認出来るようになったが、フードとローブで全身が隠れていて、素性は確認出来ない。
まあ、シャドウの仲間である可能性が高いが。
「げっ」
向こうからもこちらが見えたのだろう。
だが、第一声がそんな不快なものでも見つけたような声なのはやめてほしい。
「お前もシャドウの仲ーー」
「な、なして、あんさんがここにおるん!?」
聞き覚えのある関西弁。よく見れば、右手には夜色をした短刀が握られていた。
そして、俺を知っている人物。
「ーーニコラか」
コフの庭園の騒動依頼の再会だった。
どうも、銅っす。
手が離せない案件があったんで、ご無沙汰っすが、気を取り直して行くっす。
今回は【力】について。
一部の武器には、装備制限、というものがあるっす。
例えば、彼らもやっていた両手武器。
あとは、十二宮星具もそうっすね。金牛宮だったらプレアデスの撃破数だったり、処女宮だったら■■か■■■■の■■が■■であったり、とか。
それを無視して装備出来るのが、このチートの強さっす。




