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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第3章 U18トーナメント編

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本戦開幕

「引き続き、本戦についての説明を行います」


 バナジウムが恭しく頭を下げた。


「本戦は予選を突破された16チームによるトーナメント形式で行われます。事前の告知通り、優勝チームには闘技場(コロシアム)の1部を【拠点化】する権利が与えられます」


 バナジウムの言葉に合わせ、彼女の背後にテキストが表示された。この辺の仕組みは変わらないらしい。


「本戦においても、試合の勝敗を決する方法は予選と同様です。しかし、本戦では4つの試合形式が存在します。

 1。予選と同じように3人が1VS1の試合を行い合計得点にて勝者を決める方法。この際、対戦相手はランダムで決定される場合と両チームの話し合いにて決定する場合があります。

 2。代表プレイヤー2名による2VS2で勝者を決める方法。代表となるプレイヤーは自由に決められる場合と決められない場合があります。

 3。代表プレイヤー1名による1VS1で勝者を決める方法。代表となるプレイヤーは自由に決められる場合と決められない場合があります。

 4。プレイヤー3名全員による対戦で勝者を決める方法。強制的に全員参加となります」


 まくし立てるように説明し、バナジウムは頭を下げた。やっぱり、これは後ろの文章必要だわ。


「組み合わせは、このようになっております」


 バナジウムが、案内役らしく右手を上げた。そこに、8チーム(・・・・)分の名前が書かれたトーナメント表が浮かび上がる。


        ┌────────┴

    ┌───┴───┐

  ┌─┴─┐   ┌─┴─┐

 ┌┴┐ ┌┴┐ ┌┴┐ ┌┴┐

 チ 神 黒 セ 逸 フ 紅 S ➡

 | 龍 影 レ 鬼 ロ 紫 e

 ム の   ス 火 | チ L

 L 嘆   テ 星 ラ | F

   き   ィ   ル 厶 3

       ア


「1回戦の全8試合は同時に行われます。

 その後は対戦相手が決まり次第、5分のクーリングタイムを経て、次の試合が始まる形となります。なお、八百長を防ぐために、対戦カードはランダムに組ませて頂いております。

 質問がなければ話を進めようと思いますが、よろしいでしょうか?」


 バナジウムの質問に合わせて、【はい】と【もう一度(いちど)()く】と【質問(しつもん)する】のボタンが空中に現れる。

 と、同時にレフトが【はい】のボタンを押した。まるでボタンの出現位置を予見していたかのような素早い動きに、俺は全く反応出来なかった。


「かしこまりました」


 バナジウムが恭しく頭を下げる。

「レフト……」

「お前が質問し始めると長いんだ。予選と同じだから大丈夫だろ?」

「いやーー」


「1回戦の対戦形式が決定致しました」


 その予選の時も質問を途中で遮られたんだが? という俺の意見はバナジウムに遮られてしまった。


「対戦方法は【1VS1×3試合】形式。組み合わせは、両チームの合意での決定となります。

 質問がなければ話を進めようと思いますが、よろしいでしょうか?」


 再度、質問の確認を求めるボタンが現れーー。まあ、ここは大人しく引き下がるとしよう。俺達の勝ちは決まっているようなものだし。

 相手には悪いが、対戦形式である以上、俺の勝ちはほぼ確実だ。俺は(the )(FIRST)殺し( CONTACT)で、ロキは模倣犯(COPYCAT)で同じく初見殺し状態。

 初戦の相手である神龍(しんりゅう)(なげ)きには知り合いがいるが、ここで知り合いを引く可能性の方は低い。

 他のチームにもいたりするかもしれないが、ここで出会う確率は低いだろう。

 予選でのロキの対戦相手のように何らかの対抗手段ーーチートだろうかーーを持っている可能性もあるが、それを言い出したらキリがない。

 レフトはチート関係なく、簡単に負けはしないだろう。


「では、転送を開始します」


 床に魔法陣のような幾何学模様が現れ、全身が輝き始める。前の2度の転送と同じ演出だ。あるいは、これも魔法だったりするのだろうか。

 戦士の俺には関係ない事だが。


「では、ご武運を」


 ◇


 転送されたのは、円形闘技場のど真ん中だった。

 予選は1人だったが、今回はレフトとロキーー元の姿に戻ってるーーが隣にいる。

 向かいには【神龍の嘆き】のプレイヤーが3人。青いカーソルの上には、普段は表示されないプレイヤーネームが書かれていた。

 苔のような深緑の毛を持つ狼獣人ーーヴォルフ。

 顔半分を仮面で隠した白い服の女性ーーベール。

 そして、無気力そうな顔をした青年ーー


「マリウス……」


「まさかの再会だね、ダークメイジ」

「あぁ、こんなとこで会うなんてな」

「君にレベルを下げられたおかげで、出場の条件を満たしたんだよ」

「仕掛けてきたのはお前だろ? 俺は返り討ちにしてやっただけだ」

「余計なことも手伝わされたけどね」

「死に戻りするよりマシだったろ?」

 予想外の対面にレフトとマリウスが火花を散らす。俺も知り合いなのだが、視界に入ってないのだろうか。


「知り合いか? マリウス」

 狼男ーーヴォルフが見た目通りのドスのきいた声で尋ねる。

「例の依頼にあった魔法使いだよ」

「へぇ。コイツがねぇ」

 獲物を前にした獣のように、ヴォルフが獰猛な笑みを浮かべた。おおよその顔の作りはルークと変わらないのに、その笑みはルークの数倍は邪悪に見える。

 まあ、敵として対面してることや声の影響もあるだろうが。


「おい、マリウス」

「まだ何か」

 無気力、というよりは面倒くさそうにマリウスが答える。こちらはこちらでバニティがいないせいか、朝の数倍は気力が感じられない。

「依頼は失敗。つまり、てめぇはコイツに負けた」

「そうだね」

「なら、コイツは俺様がやる。勝ったら、今日から俺様が四罪天(よんざいてん)だ」

 ヴォルフは四罪天じゃないのか。

「てめぇは負けたんだから文句はねぇだろ?」

「君相手には全勝してるけどね」

「んだとテメェ?」

 ヴォルフがマリウスに掴みかかる。レフトやグリードとの会話でもそうだが、自然に相手を煽る奴だな。

「まぁ、好きにしたらいいんじゃないか。僕は先輩の近くにさえいられればそれでいいんだ。四罪天の座に執着はないからね」

「チッ、イラつく野郎だ」

「チート的には好都合じゃないか」

「るっせぇよ、クソ」

 ヴォルフは乱暴にマリウスを放すと、レフトを睨みつけた。敵意に満ちた視線を受け、レフトは楽しそうに笑う。


「ってワケだ。文句はねぇよな?」

「受けてやるよ。マリウスよりも弱そうだしな?」

「チッ、どいつもこいつもイラつくぜ」

 2人の同意を得て、頭上に浮かぶ名前が白い線で結ばれた。組み合わせを分かりやすくするための工夫だろうか。


「さて、なら僕は……」

 マリウスと目が合った。

「そっちのトリックスターにしようか」

 そして、スルーされた。

 先輩の仇がとか言ってくるかと思ったが、勝てないと思われたのだろうか。こちらとしても、チートが発動しないから好都合だが。

「トリックスターってのは、俺のことかな?」

 視線を受けて、ロキが不敵に笑う。

「トリックスターのロキ。ジャンキー・ジュエルのリーダー。種族としては雑魚の、ドッペルゲンガー」

「……詳しいな。もしかして、俺のファンか?」

「いや、君には興味ない」

「それは残念。なら、俺のファンになってから出直してもらえるかな?」

「残念だが、僕は強制執行のアンドロマリウスだ」

 マリウスの宣言に合わせて、マリウスとロキの名前が青い線で結ばれた。色が違うのは見やすさの問題だろう。

 それにしても、(THE HIE)(ROPHANT)の強制執行は対戦(DUEL)以外でも使えるのか。

「拒否権は与えない」

「ふっ、面白い。受けて立とう」

 まあ、そんなことしなくてもロキに担当してもらうつもりだったが。


 ともかく。

 ヴォルフの挑戦をレフトが受け、マリウスがロキを指名。必然的に俺の相手は、ベールだ。

 白い帽子に、白いドレスに、白い手袋と白い靴の白統一。唯一肌が露出している顔さえも、左半分は白い仮面で覆われている。

「では、残り物同士、仲良くいたしましょう?」

「あぁ、お手柔らかに頼む」

 俺とベールの名前が赤い線で結ばれた。色に深い意味はないのだろうが、なんとなく気まずい。

 主に面白がってそうなロキやレフトの方を見るのが怖い。


「組み合わせが決定致しましたので、これより試合を開始します」


 どこからともなくバナジウムの声が響き、マリウスとヴォルフの姿が透けていく。見えないが、レフトとロキの姿も透けていってるのだろう。

 俺の気にすることじゃないんだが、2度も転送するのは演出的に効率が悪いとの判断か。


 4人の姿が完全に消えたところで、俺は常夜の斧(オールナイトアクス)を構えた。

 ベールは静かに細剣を構える。流れ星に持ち手を付けたような金色に光る剣だ。店売りではなさそうだし、星だけに星具(せいぐ)だったりするのか。

 まあ、どっちでも関係ないが。


「レディファーストだ。先攻は譲ってやるぜ?」

 レフト風にキザったらしく言ってみたが、あまり俺には合ってなかったような気がする。いや、そもそもレフトはこんなセリフ言わないな。

 ベールはクスリと笑うと、剣を下ろした。

「ありがとうございます。では、お話でもいたしませんか?」

「話?」

「えぇ、閑話休題(かんわきゅうだい)です。ベータ時代の話に興味はありませんか?」

 首を傾げるベールに他意は感じられない。油断をさせておいて不意打ちを仕掛けてくるならそれはそれで構わないし、ここは乗ってみるとしよう。

 ただ、閑話休題は終わる時に使う言葉だと思う。

「面白そうだな。聞かせてもらえるか」

「えぇ、ではお話しましょう」


「ベータテストの時に存在した。人外道場について」

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