予選結果
リオンとの戦いは何とか勝利で終わった。
おたけび対策として、勢い任せにカウンタースキルのフットスタンプを取ってしまったが、後悔はない。他に取りたいものがあるわけでもないし、フットスタンプを使わなければ負けていたのは俺だったかもしれないのだ。
次に覚えられる技は……【アズカウンター】か。
直前に相手から受けたダメージと同じ数値だけ相手にダメージを与える技らしい。倍返しならぬ等倍返しと言ったところか。
防御力に関係なく数値でダメージを与えられるのはいいかもしれないが、直前の攻撃だけというがネックだな。
リオンの戦いでもそうだったが、戦士が一撃で大ダメージを喰らう場面なんてそうそう……
「いや、あるな」
物理防御力の高い戦士の弱点は、魔法防御力の低さだ。つまり魔法使い、それもカウンターを決められるような接近戦を仕掛けてくる相手に対して、この技は真価を発揮する。
「ふっ……はは」
思わず笑いがこぼれた。
だってそうだろう。まさに、レフトと戦うためにある技だ。心なしか、取ってくれと光って見える。
……いや、それは嘘だ。光っているのは取得したスキルだけで、未習得のアズカウンターは光ってない。
「何ニヤついてるんだよ、気持ち悪い」
「に、ニヤついてなんかねぇよ」
表情を取り繕い、声のした方に向き直る。
黒い魔法使いーーレフトがいた。まあ、声でわかってたけど。というか、控え室に戻ってきていた。
……いつ転送されたのだろう。
「ニヤニヤしてたよなぁ?」
レフトが視線を送った先には、バナジウムの姿があった。というか、ニヤニヤしてるのは今のお前だ。
「……私には判別しかねます」
バナジウムは淡々と返してきた。が、ここは乗るしかない。
「ほら、バナジウムもそう言ってるんだし、お前の見間違いだろ」
「……見間違いはお前だよ」
何故か、レフトは深くため息をついた。
「少しは学習しろ」
そう言って、レフトが頭の上を指差す。そこにあるのはプレイヤーであることを示す青い三角形のカーソルだ。
「あ、やば……」
バナジウムが慌てて両手を頭の上で合わせた。
自分のカーソルを隠そうとしたのだろうが、カーソルがあるのはもう少し上だ。そして、その色はNPCであることを示す白ではなく、青。
というか、隠す前に心の声が漏れてるし。
「……ロキか」
俺の呟きに、偽ジウムがニヤリと笑う。
「何のことでしょうか。……って、誤魔化すのは無理そうですね。そう、実は私はバナジウムではなイッたぁ!」
「名乗りはいらん」
ポーズを決めて名乗ろうとするロキの頭を、レフトが杖で殴った。あまりの容赦のなさに、何もされてない俺が痛みを感じたまである。
「で、何で隠れてたんだ?」
ロキは頭を押えてしゃがみ込んでいるが、レフトの追及は終わらない。
「負けたのか?」
縮こまる影がビクッと震えた。
……わかりやすい奴だ。
「まあ、気に病むな」
優しい笑顔でレフトが慰めた。
今日は雨でも降るんじゃなかろうか。どうせ家にこもってゲームしてるだけだからいいけど。
「お前が負ける可能性は高いと思ってたからな」
やっぱり、降らないな。
その台詞は負けて落ち込んでる奴に笑顔で言う言葉じゃない。傷口に塩を塗っていくレフトの態度は、通常運転だ。
「……秘策があったの」
ロキが静かに言い返す。
「言ってたな。秘策があるから必ず勝つって」
「そう、必ず勝てるはずだった」
「でも負けただろ?」
「それはーー」
一気に立ち上がり、ロキは鬼気迫る表情でレフトに詰め寄った。そのまま掴みかからんばかりの威勢だが、
「ーー相手が悪かったの!」
出てきたのは、ただの言い訳だった。
まあ、対人戦なのだから、負けたのは相手が悪かったのだろう。だが、考えた作戦が上手くいかないのはよくあることだし、それは読みが甘かっただけだ。
自業自得だな。と、俺が1人納得していると、ロキがこっちを指差してきた。
「ライトが当たってても、負けてたんだから!」
「巻き込むな! てか、そんなのやってみなきゃわからないだろ!」
「わかるもん!」
完全に素の口調で、バナジウムの姿をした、ロキが叫ぶ。
「あたしはライトのチートを使ったんだから!」
「は……?」
意味がわからなかった。
「なるほど」
だが、レフトはわかったらしい。理解してないのは俺だけかーーって、この展開なんかつい最近もやったような気が。
「それがお前の言ってた秘策。他人のチートを真似るチートって訳か」
「そうよ」
ロキに肯定され、レフトはドヤ顔を浮かべた。ついでに、これみよがしなのがちょっとムカつく。
「チートの名前は模倣犯。触れた相手のチートを模倣するの」
言いながら、ロキはレフトの肩に触れた。おそらく実演してみたなのだろうが、見た目の変化がないから全くわからない。
「……ドッペルのチート版か」
というか、ロキはいつまでバナジウムの姿でいるつもりだ。
「ストックは出来ないけど、まあそんな感じ」
「それで何で必勝を確信してたかはしらんが、ライトでも勝てないと言い張る理由はわかった。レベル的にステータスも同じになれるしな」
「……本当に知らないのね」
どうやら、レフトは納得したらしい。
ただ、俺としては納得しきれない部分がある。
「俺のチートを使ったって言ったよな?」
「言ったけど?」
「発動したのか?」
「そ。その上で返り討ちにされたけど」
素っ気ない返事だったが、その答えは十分に衝撃的過ぎた。だってそうだろう。
俺のチートは初見殺しだ。
それは名前がというだけはなく、性能としても初見殺しだ。初見の相手なら必ず発動するし、発動すればまず負けはない。そんなチートのはずだ。
それが発動したのに負けただと。
「……ありえない」
「でしょ? だから、相手が悪かったの」
ぽんぽんと、ロキが肩を叩いてくる。
って、これだとなんか俺が負けたみたいになってないか。俺は勝ったぞ。そう、チートを使わずに勝ったんだ。
「まあ、ドンマイ」
お返しにロキの肩に手を置いてやる。
「なあーー」
その上に別の手が置かれた。ついでに俺の肩にも手が置かれた。つまり、俺とロキの肩に別の人ーーレフトが手を置いた。
ニッコリと色のない瞳の笑みを添えて。
「俺、お前のチート知らないんだけど? ロキには話したわけ? 長く一緒にいる俺を差し置いて?」
「いや、それは誤解でーー」
「全ての試合が終了致しました」
ふいに、本物のバナジウムが現れた。
カーソルが白いから、NPCに間違いない。こう言っては少し違和感があるが、バナジウム本人だ。
「……タイミングがいんだか悪いんだか」
言い争いをしてる場合ではないと判断したのか、レフトが離れる。
「後できっちり聞かせてもらうからな」
しっかりと釘を刺されたが。
俺はロキと頷き合って、立ち上がった。レフトを挟んでバナジウムと向き合うこの並びは、開幕前のそれと同じだ。
そうして全員が揃うのを確認して、バナジウムが一礼する。
「結果を発表させて頂きます」
それに合わせて、対戦表のようなものが表示された。百聞は一見にしかずということだろうか。
チーム名 魔 チ 獣 星 勝ち点
魔法教会 \ × × × 0
チームL 〇 \ 〇 × 2
獣人連合(仮) 〇 × \ × 1
星狩りの剣 〇 〇 〇 \ 3
「よって、本戦進出は【星狩りの剣】となります。また、2位からの参加となる4チームは、全ての戦闘が終了してからの決定となりますので、しばらくお持ちください」
淡々と結果を伝え、バナジウムが一礼する。
「……まあ、全勝されたら無理か」
レフトは静かに拳を握り締めていた。
「……ごめん」
唯一勝てなかったロキが肩を落として項垂れる。自分のせいではないと言い張っていたさっきとは別人のようだが、それも仕方のない話だろう。
ロキが勝っていれば、全勝していたのは俺達だったのだから。
「でも、まだ希望は残ってるだろ?」
「希望……?」
「2位から選ばれる4チームは、試合時間が短いところが選ばれるんだ。少なくとも今、終わってないチームよりは短いんだからーー」
「それは違うな」
ロキを励まそうと言葉を尽くしていると、レフトに遮られた。言葉的にも、物理的にも。
「どういうこと?」
反対側からロキが尋ねると、レフトは待ってましたとばかりに不敵に笑い、バナジウムの前に躍り出た。
「例えば、3人が全員5分で試合を決めたAチームと、2人が2分、1人が10分かかったBチームがあったとする。その場合、Aチームは、Bチームの結果待ちになるが、合計時間で比べると勝つのはBチームだろ?」
レフトの説明に合わせて図解が出たりはしない。
「だが、Aチームの誰か1人でも3分で終わらせていれば、勝つのはAチームだ。つまり、終わった時間ってのは結果とは直接リンクしない」
「ごもっとも」
「そ、そうね」
それでも、理解は出来る範囲の話だが。
「ま、俺らの試合はもう終わってるんだし、落ち込んだって結果は変わらねぇってことだ。どっかり構えて待ってようぜ?」
言うだけ言って、レフトはベンチに座った。
言い方は素直じゃないが、レフトなりにロキを励ますつもりだったらしい。いや、だとしても俺の言葉の否定から入らなくて良くない?
まあ、ロキが元気になったならいいか。
それにしても、初見殺しで倒せない敵ねぇ。
「なあ、ロキ」
「何?」
「お前が負けた対戦相手について出来れば詳しく知りたいんだが」
「詳しくって言われても……あたしだって何が何だかわからないんだから……」
「その前に。俺にもチートのこと教えてくれよ?」
割り込んできたレフトの目は、笑っていなかった。これは下手に反発するとろくな事にならないパターンだ。
「わかってる。俺のチートはーー」
それから、俺達3人は互いのチートについて情報交換を行った。三者三葉、チートと呼ぶにふさわしい性能だ。
そしてーー
「チームLの皆様。本戦進出が決まりました」
新たな戦いの幕が開いた。




