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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第3章 U18トーナメント編

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乙女座の女神

 マリウスのチートを使った、バグルヴァーゴッデスの攻略法を見つけるための死なない戦い(DUEL)

 4回戦となる今回も、スタートはゴッデスの足元からだ。

 ならばやることは変わらない。斧を振り上げ、上段に構える。

「マリウス! 早く始めなさい!」

「やってますよ! でも!」

 バニティの怒声に、マリウスが叫び返す。


「ーー断罪(だんざい)(つぶて)


 その会話の意味を理解するよりも、ゴッデスが動き出すほうが早かった。その手から放たれた球体は何にも防がれることなく、敵を裁くための雨を降らせる。

 俺は持ち上げたままの斧を横回転させ、アームシールドを発動させた。

 それで攻撃は防げるが、何も解決にはならない。


「マリウス!」

「出来ないんですよ!」

 マリウスが叫ぶ。

 チートによって対戦(DUEL)を強制執行することが、出来ない。と。


 つまり、これはもう本番(・・)だ。


「レフト! どうする!」

「お前はとりあえず、兜割りを叩き込んだら離れろ!」

「了解!」

「僕らは!」

「お前らも一旦離れて、体勢を立て直せ!」

 敵を挟んでの作戦会議で、方針は決まった。俺はその言葉に従い、ゴッデスの脚に赤く染った斧を振り下ろす。

 今回は躱されなかった。

 使用後の硬直が解けるなり、俺はゴッデスに背を向けて、走る。ゴールは、壁際に陣取っているレフトだ。

「マリウス! 怨念兵団(ズローバ・コールプス)だ!」

 レフトが俺の向こう側へと声をかける

「なんでまた!」

「いいから早く!」

「だから理由を!」

「とにかくやって!」

「あぁ、もう! わかったよ! やればいいんだろ!」

 吐き捨てるようにマリウスが叫んだ。

 自分のチートが発動しないことへの苛立ち、自分を倒したレフトの意味がわからない指示に従わなきゃいけないことへの不満。込められているのは、そんな感情だろうか。


未練(みれん)(のこ)した亡者達(もうじゃたち)よ。(すく)いを(もと)めて()()がれ」


 そういえば、燃費が悪いとか、見た目がどうので使いたくないとも言ってたな。


怨念兵団(ズローバ・コールプス)

「ーー滅亡の光」


 ゴッデスが閃光を放った。

 その一撃で、召喚されたばかりの怨念兵団(ズローバ・コールプス)達は消し飛んだことだろう。無防備に背中を晒していた俺も相当なダメージを受けて……

「どうなってる?」

 HPの損傷は約4割。

 十分な距離を取ったわけでも、防御したわけでもないが、ダメージは過去最低だ。もちろん、チートが発動したわけではない。


「やっぱりな」

 レフトがニヤリと笑う。

 何がやっぱりなのかはわからないが、ダメージの減少にはマリウスの技が関係しているのか。

「何がやっぱりなんだよ! ロジカルウィッチ!」

 マリウスにも聞こえたのか、怒気を孕んだ質問が飛んでくる。


「滅亡の光にはヒット数が存在してるんだ! つまり、当たる対象が多いほど1人当たりのダメージは少なくなる! だから、ゾンビで頭数を増やせばプレイヤーのダメージは限りなく低くなるってことだ!」


 堂々と大声で種明かしをするレフト。聞いたところでわかるかと言われればわからないが、細かい理屈はこの際どうでもいい。

「なら! 僕は離れて、これだけ、やってればいいんだな!」

「そうだな! それでいい!」

 距離が離れているせいで、作戦会議も大声だ。俺にも聞こえているし、ゴッデスにも聞こえていることだろう。まあ、こちらの作戦を知ってもあの女神の動きは変わらないんだろうけど。


「ーー断罪の礫」


 その攻撃は既に見切っている。

 脚を止めて、身を屈め、真上に向かって【アームシールド】だ。完璧ではないが、これが被弾数を1番抑えられる。

(ふさ)げ、()(かべ)。ファイアウォール」

 レフトは真っ赤な壁を斜めに出して、防いでいた。あれもファイアボールも火属性だから凍結は無効で、魔法である滅亡の光ではほとんどダメージが入らない。

 何気に、レフトはゴッデスに相性がいいんだな。

 よく考えれば、3回の対戦(DUEL)でも最後まで残っているのはレフトだ。それでも、最後には負けてるが。


「勝ち目はあるのか?」

 声を張らなくていい距離まで来てから、そう尋ねると、レフトは自信に満ちた笑みを浮かべた。

「良くて1割だな」

「それでよくその顔出来たな!?」

「気持ちで負けてたら、勝てるもんも勝てなくなるだろ?」

「いや、まあ」

 そう言われると、否定はしづらい。ので、ここは話題を変えることにしよう。

「で、俺の動きは?」

「お前はここでトマ砲台だ」

「……トマ砲台ってなんだよ。いや、わかるけど」

 トマホーク砲台だろう。つまり、死なないようにしながら遠距離攻撃でダメージを与えとけってことだ。ゴッデスはあの場から動いていないし、


「ーー滅亡の光」


 ゴッデスが放った光は、足元のアンデッド達を消し去るのにエネルギーを使い切り、ここまでは届かない。

 ダメージ効率は悪くとも、被ダメージを抑えられる遠距離で戦えということだ。理にかなった堅実な戦法であり、否定は出来ない。

「……わかった。で、お前はーー」

「私は、遠距離攻撃出来ないのだけど、どうするべきかしら?」

 空からバニーガールが降りてきた。ーー今度は、安全に。

「お前はヒットアンドウェイが向いてるだろ。無理してスキルを使う必要は無い」

「わかったわ」

 バニティはマリウスのように反発することなく、静かに頷いた。そして、目を細めて蠱惑的な笑みを俺に向けると、

「顔が赤いわよ?」

「なっ……」

 余計な一言を残して、跳び去って行った。

 きっと赤くはなっていなかっただろう。だが、その言葉に戸惑ってしまったのは悪手だった。


「ほー。お前がバニーガール好きだとは知らなかったな」

 レフトは、俺がバニーガール姿に見惚れたと解釈したらしい。

「いや、そうじゃなくてな」

「なら、大好きか?」

「そういう問題じゃない」

「なんなら、俺がしてやろうか? 他のやつのバニーガール姿じゃ満足出来なくしてやるぜ?」

「……やめてくれ」

 ヴァーチャルでもリアルでも、1度でも見せられたら、忘れられなくなりそうだから。


「てか、お前はどうするんだよ。遠距離火炎砲台か」

「そんなわけないだろ」

 レフトは杖を構えて、狩る側の笑みを浮かべる。

「俺の担当は接近戦だ」

 驚きはない。魔法使い(MAGE)だろうと、前線に殴り込みを仕掛けるのは、むしろレフトらしいと言えるだろう。

「死ぬなよ」

 俺は死地に飛び込まんとする戦友に、とっておきを差し出した。


「これは?」

万能薬(ばんのうやく)だ。HPもMPも完全に回復してくれるから、お前が持ってた方がいいだろうと思ってな」

 異常状態の回復や蘇生は役に立たないが、MPを気にせずに戦えるのは大きいはずだ。自前の回復アイテムは持っているだろうが、増えて困るものでもない。

「なるほど。で、こんな高性能なポーションをどこで手に入れたんだよ?」

「さあな。それよりも、使ったら勝てよ?」

「はっ。使うまでもなく勝ってやるよ」

 強気に宣言して、レフトが飛び出した。


「ーー断罪の礫」


 呟きと共に放たれる攻撃はキッチリと防ぎ、斧を肩に担ぐ。狙いは無難に胴体か。ダメージが多くなるように、身体を斬り裂きながら方向転換する軌道をイメージして、投擲。

 レフトの頭上を抜け、女神の脚に群がる亡者を飛び越えてーー女神の身体をすり抜ける。そのままゴッデスのHPを1ドットも減らすことなく、斧は戻ってきた。

「ったく、少しは活躍させろよな」

 流れるように斧を担ぎ、再び投げる。


 それから……何分経っただろうか。


 ボス特有の膨大なHPに透過能力が加わって、ゴッデスの耐久はまさに鉄壁だ。レフトとバニティの猛攻に、俺の微力を添えた攻撃で、ようやく1本目のバーを削り切れるかといったところ。

 こちらはマリウスのMP切れから一気にダメージがかさんで、消耗戦を呈しているというのに。


「ーー滅亡の光」


 何度目ともしれない閃光。レフトは防御体勢をとって真正面から受け止め、バニティは爆発的な跳躍で威力の下がる距離まで走り抜ける。

 最初から端にいる俺は、せめてもの抵抗に斧をぶん投げた。

 トマホークの一撃は光をものともせずに突き進み、ゴッデスの身体に突き刺さる。そして、止まることなく縦に斬り裂き、最初のHPバーを削りきった。

 ガラスが割れるようなエフェクトを伴って、HPバーが緑1色に染まる。


「ーー(とき)の、咆哮(ほうこう)!」


 腕をしならせ、女神が咆哮。

 その瞬間、戻ってこようとする斧の動きがピタリと止まった。いや、それだけじゃない。俺自身も、時が止まってしまったかのように動けなかった。

 時の咆哮って、時を止める咆哮かよ。


「ーー神聖(しんせい)(ほむら)


 女神の差し向けた指から、輝く焔が放たれた。

 今までの攻撃とは異なる単体狙いの火炎弾。それは真っ直ぐに飛んできてーー俺に直撃した。

 魔法だろうか。だが、対レフト用に火属性の軽耐性を備えている俺の受けたダメージはーーHP満タンからでも軽く全損するくらいだった。

 人魂にこそ変わらないが、止められてて動けないし、無理ゲーだ、これ。


「ーー報復完了」


 女神が微かに微笑んだ。

 報復ってことは、今の技は最後の一撃を決めたプレイヤーを殺すための一撃か。それだけで殺られたのは気に入らないが、レフトかバニティが狙われるよりはマシだったかもしれない。

 知ってたら、マリウスに譲ったんだけどな。


「ーーこれより、最適化を実行する」


 女神は全身から光を放ち、機械装甲をパージ。中から出てきたのはーー艷めく金の繭だった。あれは中身の部分に髪の毛が巻きついているのか。


「ーー解析(アナライズ)


 繭が静かに喋り出す。


「ーー敵主力・火属性魔法・耐性付与・防火・対魔法・損傷部位・脚部58%・胴体41%・他1%・脚部強化・破壊効率・近距離86%・遠距離14%・近距離戦闘が有効と判断。最適化を実行します」


 難解な言葉の羅列を終えた繭が、ゆっくりと膨らんでいく。きつく巻いていた髪の毛をふわりと解くように。

 現れたのは、ヴァルキュリアだった。

 いや、バグルヴァーゴッデスなんだけど、見た目はほとんどヴァルキュリアだ。身体に張り付くようなドレスも、大きく広がり風に揺れるスカートも、猛禽類(もうきんるい)を連想させる白き翼ーーは3対あるけれど。


 機械の肢体に天使の衣装を纏った女神が、そこにいた。

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