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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第3章 U18トーナメント編

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ヴァーゴッデス・カスタム

 最初にここに挑んだのは、2日目。その時はようやくヴァルキュリアを倒したと思ったら、バグルヴァーゴッデスが出てきて、何も出来ずにやられることになった。

 チートが解放されてからも毎日ように挑んだが、3体に増えたヴァルキュリアは倒しきれず、ようやく女神と対面したのはつい昨日のことだ。

 そして、今日。

 誰かの依頼と、レフトの気まぐれにより、2人のプレイヤーを加えた4人で、俺達はゴッデスに挑むことになった。

 都合4度。そのうちの3回は全滅した。

 だが、その積み重ねから対策を導き出し、4度目の戦いではその莫大なHPを半減させることに成功した。

 残り半分、と誰もが希望を見出しただろう。

 だが、女神は奥の手を隠していた。いや、違う。その力が発動する段階までのダメージを、俺達が与えられていなかったというだけの話だ。


【ヴァーゴッデス・カスタム】


 姿ともに名前を変えた女神は、優しく笑みを浮かべる。


「動作確認、実行」


 眼前にいたレフトに回し蹴り、滑るように地面を駆け抜けマリウスに膝蹴りを決め、空を泳ぐように滑らかに飛翔して、バニティに踵落としを叩き込む。

 流れるような動きで、女神は空に舞い上がった。


「動作確認、完了」


 止まっていた時間が動き出す。

 レフトは蹴り飛ばされ、マリウスは蹴り上げられ、バニティは蹴り落とされ、俺はその姿を蘇生待ちの人魂へと変えられた。


「こんなの、聞いてないわよ……」

「そりゃ、俺達も、ここまで削れたのは、初めてだからな……」

 バニティの弱々しい抗議に、レフトが途切れ途切れに答える。HPの減少以上に疲労が溜まっているのか、2人とも満身創痍といった様子だ。

 それは仰向けに倒れるマリウスも例外ではない。

「……諦めるのか?」

 消え入るような呟きは、けれどもレフトにしっかりと届いた。杖を武器ではなく本来の用途に使って、レフトは立ち上がる。


「誰が諦めるかよ」


 その顔には、諦めなど微塵も浮かんでいない。

「向こうが近接格闘に切り替えたんなら、まずはライトを蘇生して体勢を立て直すんだ」

「悪いが活性(かっせい)ポーションなら先輩に使ったので最後だ」

「それなら自前のがあるから問題ない」

「自前?」

「あぁ、文字通り、蘇生させられる本人が用意したやつがな」

 そう言って、レフトは虹色の液体が入ったフラスコを振ってみせる。万能薬は使ってなかったのか。


「危険察知。敵対戦力増加の予兆」


 会話を聞き取ってか、ゴッデスがゆっくりと降りてくる。

 その手には、大きかった頃にはなかった杖が握られていた。

 先端に鏡がついた黒い杖。鏡の枠は折り畳まれた翼のようで、黒い柄には星空の模様が刻まれている。一目見ただけで、レアリティが高いとわかる武器だ。


「迅速に対応ーー」


 声を置き去りにして、ゴッデスが翔ける。

 狙いはレフト。杖を勢いよく振り上げてーー

「なっ……」

 放たれたのは、ローキックだった。

 身構えていたレフトも予想外の方向から放たれた攻撃を避けることは叶わず、倒れてしまう。

 その手から万能薬がこぼれた。

 もちろん、落ちたくらいで壊れはしないが、アイテムには耐久度という概念がある。使わなくても、壊れる時は壊れるのだ。

 ーー例えば、機械の装甲に覆われた脚で踏みつけたりすれば。


「不安分子の排除」


「させるかっ」

 倒れたままのレフトが杖を使って、万能薬を転がした。おかげでゴッデスに踏み砕かれはしなかったが、レフトが拾えるわけでもない。


「ーー無駄」


「くぁっ……」

 ゴッデスは憐憫の表情を向けながら、レフトを蹴り飛ばした。細い体のどこにそんな力があるのかはわからないが、ゲームだから細かいことを気にしてはいけないのだろう。

 邪魔者を排除して、ゴッデスは改めて目的を果たさんと振り返る。だが、万能薬はすでに地面に転がってはいなかった。


「残念ながら、無駄じゃない。これを拾ったのは僕だ」

 万能薬を見せびらかし、マリウスが笑う。

 それを見て、明らかにゴッデスの顔に不快の色が浮かんだ。小さくなってからは随分と表情が豊かな女神である。


「迅速に対応ーー」


 動き出そうとした女神の背中に火球が炸裂した。誰か、なんて考えるまでもない。

「マリウス! ライトを!」

 杖だけを向け、レフトが叫ぶ。

 それを受けて動き出したマリウスを、機械の脚が捉えた。ダメージどころか怯みさえせずに、攻撃してきたレフトではなく、万能薬を持ったマリウスを狙う。

 表情のバリエーションだけでなく、行動のパターンも変わっているらしい。

「残念だが、想定内だ」

 マリウスは蹴られざまに鞭を振るって、ゴッデスの動きを止めた。だが、万能薬を持っているのもあの男だ。


「理解不能」


 蛇のような鞭に縛られたゴッデスが首を傾げる。

「わかってくれる必要はない。僕を理解してくれる人がひとりいればいいだけだ」

 そう言って、マリウスは俺を見た。ーーいや、違う。

「全く言ってくれるわね」

 俺の後ろで手を伸ばす、彼女を見たのだ。

「でも、承ったわ」

 バニティが呟くと、何も無かった手に、虹色の液体が入ったポーションが現れた。それは一瞬前までマリウスが持っていた万能薬だ。


「目標転送確認。撃破対象変更。ーー透過」


 ゴッデスが向きを変え、鞭をすり抜けて、躍動する。それよりも、バニティが虹色の液体を俺の体に注ぐほうが早かった。

 四肢の感覚が戻ってくる。

 ーーそして、抑えきれないほどのエネルギーが身体の芯から溢れだしてきた。死ぬ前よりも遥かに高まった万能感は、万能薬の効能ではない。


「助かったよ、バニティ。それから、マリウスも」


 真っ直ぐに向かってくる女神の目には強い敵意が宿っている。人魂の姿で散々見ていたが、こうしてこの姿で(・・・・)相対するのは初めて(・・・)だ。


「安心して見てろ、レフト。あとは俺が片付ける」


 常夜の斧(オールナイトアクス)を星空に掲げ、俺は高らかに宣言した。


「ーー神聖(しんせい)(ほむら)


 指先から放たれるのは、さっき俺を一撃で仕留めた火炎の弾。だが、小さくなった彼女の細い指から放たれるのそれを受けるのは、初めてだ。

「効かないな」

 まともに食らった俺だが、ダメージは1。


「危機察知。退避」


 ゴッデスは急停止し、翼を大きく広げて、後ろに飛び退いた。とても素早い動きだが、俺よりは遅い。

 全力疾走で追いつき、追い越し、斧を振り下ろす。


「ーー透過」


 大雑把な振り下ろしは、透かされてしまった。

「ま、そうくるよな」

 だが、すり抜けられるのは予想の範囲内だ。

 俺は斧を振り戻す。向きを変えていないから、攻撃される側としては斧というよりは金槌か。それが影響したわけではないだろうが、ゴッデスは避けられなかった。

 鈍い一撃が、女神を打ち上げる。

 HPは急速に減少し、赤を超えて、ゼロになった。


「機能……停止ーー」


 ゴッデスの体は小さな光の粒に分解され、星空に溶けて消える。

 当たるまで何度だって振り続けるつもりだったが、案外早く勝負は決した。


 戦闘終了を告げるリザルト画面が表示される。

 経験値は0だ。あれだけみんなで頑張ったというのに、0だ。せめて、チートを持つ俺以外の分として4分の3でもくれたらいいのではないだろうか。

 ドロップアイテムは大量だが、その価値は経験値とイコールではない。

 ガイウス達とキングレオ・ナヘマーを倒した時は経験値が得られたし、トドメを俺が刺したのがいけなかったのか。


「お、終わったの……?」

 呆気ない決着を信じられないのか、バニティが呟いた。

「終わりだな」

 バグルマイアトーラスと戦った時のように空間が切り替わったりはしないが、地面に転送の魔法陣みたいな模様が浮かび上がってるし、間違いない。

「……何をやったんだ。黒斧(くろおの)

 マリウスがやる気の無さそうな視線を向けてくる。と、気になったのは最後の4文字だ。

「黒斧って俺のことか?」

「そうだ。軽戦士(けいせんし)のほうがよかったか?」

 軽い(ライト)戦士ってか。俺の名前は別にLIGHT(かるい)じゃないんだが。

「いや、どうでもいいけど」

「なら、黒斧。何をやったんだ」

 プレイヤーネームで呼ぶ気はないらしい。それから、質問の答えをはぐらかさせてくれる気もなさそうだ。


「……俺のチートだよ」

「それを最初から使えば、苦戦することもなかったんじゃないのか?」

「それは出来なかった」

 バグルヴァーゴッデスと戦うのは初めてではなかったから。

「まあ、強いチートにはそれ相応の弱点もあるってことだ。詳細までお前らに教える気はないけどな?」

「それで納得出来ると思ってるのか?」

「納得してもらう必要はないからな」

「なに?」

「あくまでここを出るための同盟だろ? 目的が果たされた以上、仲良くする理由はない」

 自分でも思ったより強い言葉になってしまったが、吐いた唾は飲み込めない。マリウスは何も言い返してはこないが、目つきが少し鋭くなったような気がする。


「正論言われて怒らないの」

 その頬をバニティがつねった。

「はにふんえすあ、へんぱい」

「彼の言ってることは事実でしょ。私みたいに見たままとか、じゃない限りは言わないのが普通よ」

「ふぁい。ふいあへん」

「全く世話の焼ける後輩なんだから」

 また夫婦漫才かと思って眺めていると、バニティがふいにこちらを向いた。


「それから、あなたも。PK(プレイヤーキラー)が嫌いなのは勝手だけど、言葉から敵意が漏れすぎよ」

「それはーー」

 違う。とは言いきれなかった。

 少なくとも俺は、PKが正しい行為だとは思っていない。フィクションであるようなPK=死ではないし、デスペナだってモンスターに殺されるより低いくらいだが、俺にとって肯定は出来ない行為だ。

「……以後気をつけるよ」

「よろしい」

 俺の返事を聞いて、バニティは満足げに笑う。

 実年齢はわからないが、絵面としては弟達の喧嘩を止める姉のようだった。……バニーガール姿で駆け回る姉とか嫌だな。


「ったく。おいしいとこだけ持っていきやがって」

 会話が一段落つくのを待っていたかのようなタイミングで、レフトが現れた。

 そう思うなら少しは悔しい顔を浮かべろよ。楽しそうな顔しやがって。てか、その感想はいつも俺がお前に思ってることだ。

 と、不満は全部飲み込んで、笑顔を浮かべる。

「前半は全く活躍出来なかったからな。これでようやく面目躍如ってーー」

「それより、早く帰りましょ?」

 せっかく決めようとしたのに、バニティに遮られてしまった。

「あぁ、そうするか」

 レフトも同意を示す。マリウスが追従するのは決まっているので、俺が反対したところで意味はないだろう。


 逃げるように動き出したバニティに続き、 俺達は魔法陣へと移動した。


 こんにちは、銀です。

 ついに女神の本気が炸裂ーーしたのですが、ライトのチートの前には形無しでしたね。

 ちなみに、二斧流とかいう戦法をしたせいで出番がなくなってしまいましたが、同じ星の守り神である【バグルフレアトーラス】も変身を残していました。

 いつか日の目を見る日は来るのでしょうか。

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