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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第2章 チート解放編

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インターミッション

「ちょっと力を借りたいんだが、今ヒマか?」


 そんなふうに声をかけてきたのは狩人風の男。

 少し詳しく説明するなら、防具は骨の鎧と獣の皮で出来たマントで、武器は金色の矢と黒い()だ。凝った見た目をしているし、(デザイン)装備なのだろう。

 思い当たる知り合いはいないのだが、男は明らかにこちらを向いている。


「……どちら様でしょうか?」

 俺の問いに、狩人は仰々しく手を広げた。

「俺はオルバー。ある獲物を仕留めるために仲間を探してるさすらいの狩人だ」

「はぁ」

 掴みどころのない雰囲気は、糸目関西人とは別ベクトルで胡散臭さがハンパない。

「悪いが他を当たってくれますか?」

「……その心は」

「これからお昼なので」

 関わりたくないからだとは言わなかった。

 嘘ではないし。

「なら、食事が終わってからでも構わないが?」

「午後からもやるかは、わからないので」

 これは嘘だった。

「なるほど」

 とはいえ、相手に見破る手段はない。

「なら、またの機会に誘うとしよう」

「…………」

 出来れば関わりたくないが、妙なのに目をつけられてしまったようだ。


 ◇


 昼食後は大きなトラブルもなく、ゲームに1日をつぎ込める休日は終わりを告げた。

 平日の昼間は学校だ。スマホゲームとは違い、VRゲームは本体を持ってくることが出来ないため、休み時間に進めることは出来ない。

 代わりに南條(ルーク)獅堂(リオン)黒木(ロキ)と情報交換はしたが、目新しい情報はなかった。

 放課後は寄り道せずにすぐに家に帰るが、まずは学校の宿題だ。それが終わったら翌日の準備をして、プライベートな時間はそれからだ。

 が、のんびりとしている暇はなかった。


【おとめ座に挑むから来い】


 準備をしている間に届いていたレフトからのメッセージ。

 たった1行で俺のやることは決まった。

 とはいえ、装備やレベルは変わっていないので、ヴァルキュリアには勝てるはずもなく。

 敗北後は、時間の許す限り探索とレベリングだ。

 レフトがいる間にベータテストの話も聞いた。それだけで経験の差が埋まるとは思ってないが、面白い話もあったので聞いて良かったと思う。


 別行動になってからは、色々なクエストを受けた。

 武器や魔法は控えめに、メインはアイテムをゲット出来るクエストだ。ポーションなどの店で買えるアイテムであってもVRY(ブライ)の節約にはなるし、いらなければ売って金稼ぎにもなる。

 それから、夜の欠片を求めてのナイトメイジ狩りだ。【夜の武器】を持っているプレイヤーが常に出入りしているため、ターゲットの取り合いになる場面もあったが、ニコラのような悪質なプレイヤーとは出会うことはなかった。


 そんなふうにゲームに没頭していると、すぐに晩ご飯の時間だ。家族団欒で食卓を囲み、小一時間ほどテレビを見てから、各自の部屋に戻る。

 自慢じゃないが、俺の就寝時間は早い。

 普通の高校生ならまだまだ起きていそうな時間に寝る。だからといって早く起きるわけではない。むしろ起きる時間の限界に挑戦する勢いで寝過ごし、親に叩き起されて学校に向かう。

 ゲームをするのは短い時間だけ。


 そして、週末が訪れる。


 ゲーム開始から1週間前が経った週末。三連休ではない普通の休日だ。けれど、思う存分にゲームが出来ることに変わりはない。

 こんな日ばかりは早起きして、朝ご飯を軽く済ませ、ゲームにログインした。

 まずは【お知らせ】の確認だ。3日目の闘技場(コロシアム)のように役立つ情報があるかもしれないので、これは欠かさずにチェックしている。


 めぼしい情報はないので、次は【掲示板】へ。

 道中でメッセージアプリを確認したが、レフトからの連絡はない。

 毎日毎日、ログインしたタイミングを見計らったかのようにメッセージが送られてきていたが、今日の早起きは読めなかったか。あるいは、夜中までやっていて今は寝ているのか。

「クエストの種類も増えたなぁ」

 掲示板のクエストは、初日こそ全てがNPC発信だったが、今は約半数がプレイヤーによるものだ。まだ受けたことはなかったが、そろそろやってみるのも面白いだろうか。


 ちなみに、個人的ナンバー1クエストは【宝石商人リカルドの護衛】だ。

 内容は王国領域(マルクト)から基礎領域(イェソド)へ移動するNPCの宝石商人をモンスターに倒されないように護衛するだけで、面白みがあるわけではない。

 クリア後にアクセサリーショップが解放されたが、それも微々たるもの。

 このクエストがナンバーワンたる所以は、クリア報酬【経験守護のタリスマン・小】だ。

 効果は【デスペナルティーで減少する経験値を3/4にする】というもので、誰かさんのせいで毎日ヴァルキュリアに殺される俺にとっては必要不可欠な装備品となっている。

 そんなことを思い出しながら指を動かしていると、ひとつのクエストで指が止まった。


(よる)欠片(かけら)()()ります。1つにつき、100000VRY(ブライ)


 0が5つ。10万VRY(ブライ)だ。

 モンスターを倒しても数十VRY(ブライ)しかもらえず、数百VRY(ブライ)で装備品が整えられる序盤に、アイテム1つに10万VRY(ブライ)

 しかもプレイヤーのクエストだ。

 俺自身集めていてドロップ率は低いのは痛感しているが、(ブライ)を貯める方が大変だろう。課金しているなら話は別だが、それでも大金には違いない。

 もう持ってない(・・・・・)ので関係ないが。

 ピロン、と着信音が響く。

 内容は確認するまでもないと思うが、違ったら困るので一応確認。

 送り主はレフト、内容はーー

【おとめ座を攻略する】

「だよな」

 無視しても催促が来るだろうし、大人しく向かうとしよう。


 毎日のようにヴァルキュリア達に立ち向かっているが、3体に増えた彼女らを倒せてはいない。厳密に言えば1、2体は倒せることがあっても、3体全てを倒せていなかった。

 そのため、初日に俺達を倒してくれたヴァーゴーレム・改(仮)の姿は未だ拝めていない。

 だが、今日はーー


「お、それが夜の斧(ナイトアクス)の強化バージョンか?」


 到着するなり、得げな表情で指摘してくるレフト。

 驚かすために昨日解散してから強化したというのに、一目でバレた。

 そもそも、斧は大きさも形も変わっていない上、背負っているからほとんど見えていないはずだ。

 エスパーかよ。

 とは思うが、バレてしまったのなら仕方ない。

常夜の斧(オールナイトアクス)だ」

 漆黒に染まった柄を掴んで、斧を正面に構えた。夜空を切り抜いたかのような刃には、無数の小さな星の装飾が増えている。

「性能も上がってるから、期待してろ」

 具体的には、【夜時間に物理攻撃力と物理防御力が上がる】という特殊効果が追加され、ある【特殊技(・・・)】が使用可能になっている。

 もう一段階強化があることもわかったし、しばらくはこの斧と付き合っていくことになるだろう。


「あぁ、期待してるよ」

 素直にそう言われると、微妙に気持ち悪い。

「おい、なんか失礼なこと考えてないか?」

「別に考えてねぇよ。そういうお前は、……」

 代わりに何か言い返してやろうかと目を凝らしてみるが、レフトの姿は何も変わっていなかった。

 いかにも魔法使いな帽子とローブは、綺麗な黒。満月が乗った杖に、模様の変化は見られない。月の装飾品は三日月や半月にも変わるので、そちらが変わっている可能性もないとは言えないが。

「何も変わってないな」

「変わったぜ」

 ニヤリと笑い返されてしまった。その返しを待っていましたという、笑顔がむかつく。

「レベルがひとつ上がった」

「知るかよ!」

 そんな目に見えないものを言われても困る。

「新しいスキルも習得した」

「は?」

 新たなスキルを習得出来るのは、5レベル毎だ。最初に会った時こそ俺よりレベルが低かったが、今更10になったというわけでもないだろう。

 そこから導き出される結論はひとつだけ。

「レベル15だと?」

 レフトはメニューからプロフィールを開き、画面を飛ばしてくる。

「ばーか」

 表示されたレベルは、14。

 (13)よりは高いが、スキルを得られるレベルではない。

 そこから導き出される結論は――今度こそ――ひとつだけ。

「クエストで手に入れたってことか?」

「そういうことだ」

 クエストの報酬は、アイテムだけではない。錬金のレシピや裏技のような情報、特定のスキルの入手まで多岐にわたる。

 魔法スキル習得のクエストを受けたのだろう。

 俺も受けることは可能だが、魔法を覚えたところでMPは少ないし、魔法攻撃力が0なので意味はない。攻撃力と書いてあるからあれだが、魔法による回復値にも影響があるらしいので、俺の場合はそれも無意味だ。


「…………」

 レフトからの無言の圧。

「何のスキルなんだよ」

 望んでいたであろう返事をしてやると、レフトはニヤリと笑う。わかった上で問いかけると気分が良かった。

 なんか、勝った感じがする。

「ヴァルキュリアとの戦いで見せてやるよ」

 前言撤回。

 今度からは絶対に指摘しない。

「拗ねんなよ」

「拗ねてねぇーよ。それより、早く行くぞ」

 レフトから目を逸らし、噴水の中央に佇む女神像に視線を向ける。

「嘘つけ。って、置いてくなよ」

 少し遅れて、レフトも女神像のほうを向いた。

 連続で挑む中で気がついたことだが、少しくらいは女神像から目を離しても問題はないらしい。おそらく、最初に女神像を見たということと、女神像のほうを向いたまま動かなかったという事実が大事なのだ。

「なあ、拗ねんなよ」

「拗ねてない」

 ヴァルキュリアの戦いで見せてくれるというなら隠さなくてもいいだろうに、とは思っているが。

 まあ、同じ理由で無理してまで今、聞かなくてもいいんだけどさ。

「悪かったよ」

「拗ねてないから気にすんな」

「ぜってー嘘だろ? なあ、怒んなって」

「怒ってもいない」

「……顔が怖いんですけど?」

「元からだ」

「……そーですか」

 他愛もない会話をしながら、俺達は女神像を見つめ続けた。

 その時間はおよそ2分。レフトによると同時に行く場合は、待ち時間が人数×1分になるらしい。それをどうやって調べたのかはわからないが、聞いても教えてはくれないだろう。

 閑話休題。

 僅かな浮遊感を伴って、世界の色が変わった。


 こんにちは、後書き係の銀です。

 長い長い始まりの3日が終わり、物語はどんどん加速していきます。

 ゲーム開始から1週間も経過すれば、早いプレイヤーは現時点での最高レベルに到達し、攻略サイトには解放されている領域のマップやモンスター、どのようなチートが存在するかの情報も増えてきました。

 ライトとレフトが熱を上げている、おとめ座の都市迷宮も1部の攻略サイトには載っているようです。回数制限やある仕様に苦戦するプレイヤーは多く、クリア報告はありませんが、果たして誰が最初にクリアするのでしょうか。

 これからもアットホーム・オンラインの世界を心行くまでご堪能ください。

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