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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第2章 チート解放編

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再戦・ヴァルキュリア

 戦士像の破壊は2対8と大差をつけて負けてしまったが、他のプレイヤーに絡まれたりするようなアクシデントはなく、機械天使(ヴァルキュリア)の待つ星空にたどり着いた。

 闇夜に浮かぶ3体の天使の1体がゆっくりと舞い降りてくる。


「殲滅――セヨ」

 無機質な宣言と共に天使が動き出した。最初の攻撃は両手の光球から放たれる威嚇射撃だ。下手に動かなければ当たらない。

禍重乎地(かじゅうこち)ーー」

 レフトが何か呟いた。

「かじゅう? ……なんだって?」

「気にするな。それよりも手筈通りに頼むぞ」

「あぁ、わかってるよ」

 レフトよりも前に出て、斧を振り上げる。

 その意図を汲んでか、何も考えてないのか、天使は真っ直ぐに突っ込んできた。カウンターで一撃を叩き込むことは容易だ。

 ただし、少しでもダメージを与えると、他の2体が動き出す。そうなってしまえば、レフトの作戦は破綻するらしい。

 天使の輝く拳が腹部に刺さった。

「行くぜ!」

 俺は声を出して、ゆっくりと斧を振り下ろす。

 天使のは余裕を持って後ろに回避。

 床を蹴って踏み出すと同時に、斧を水平に薙ぎ払う。

 天使は大きく翼を振って、上に逃げた。

 ここまでは完全に予定通り。

「そのまま上に上げろ!」

「了解!」

 レフトの秘策を炸裂させるための下準備は整った。あとは、いかに時間を稼げるかだ。

 天使は攻撃をするために、高く舞い上がる。

 現実ならば、あの高さへ斧の攻撃は届かない。現実ならばだが。

「撃ち落としてやるよ!」

 斧を肩に担いで、スキル技を発動させる。

 斧の唯一の遠距離攻撃は、上空にいる敵だろうと、射程圏内だ。斧が赤く輝いたのを確認して、放り投げる。

 夜色の斧は、空気抵抗や重力を無視して、真っ直ぐに天使へ向かって飛んでいく。

 その一撃を躱すために、天使は上へ飛び上がる。

「まだだ!」

 トマホークは2度飛来する。上方向に回転しながら戻ってくる軌道をイメージすれば、斧は空中で向きを変え、天使に襲いかかる。

 天使はさらに飛び上がることで、これを避けた。

 そして、攻撃の準備として舞い上がりーー

()ちろ、グラビティ」


 落ちた。


 落下ダメージでHPが2割ほど削れているから、降りてきたのではない。本人も意図しない形で落とされたのだ。

 レフトの魔法によって。

「そいつはほっといて、他の2体も落とすぞ!」

 落下ダメージとはいえ、HPが減ったため、2体の天使がゆっくりと動き出していた。

「なんで、先に落とさないんだよ!」

「動いてないあいつらはターゲット出来なかったんだ!」

「そうかよ!」

 それなら仕方がない。

 とはいえ、同時に動く相手に今と同じように立ち回れるのか。答えは不可能だ。破綻すると言っていたのも、そういうことだろう。

 ならーー

「勝手にやらせてもらうぞ!」

 斧を振り上げる。

 だが発動させるのは【兜割(かぶとわ)り】ではない。


正子の闇(ミッドナイトダーク)


 新たに習得した【特殊技】だ。

【特殊技】

 それは、武器を道具として使うことで発揮される技の総称だ。一部の武器に実装されており、攻撃からサポートまで多岐に渡る効果を発揮する。

 常世の斧(オールナイトアクス)の場合は、サポート。厳密には、武器自身のサポートというべきか。

【一定時間、使用者のいるフィールドを夜にする】

 簡単に言えば、現実がどんな時間だったとしても、斧の特殊効果を発動させることが出来る技だ。MPの消費はないので、不発というアクシデントも起きない。

 風景に変化がないのは、すでに夜空だからだろう。


「殲滅――セヨ」

 天使が駆ける。

 その動きは速いが、直線的だ。回避も、上に飛ぶか真後ろに下がる、真横にスライドするの3択しかなく、カウンターで放つ一撃は(かわ)せない。

 それが1週間挑み続けて見つけた、一番確実な倒し方だ。

 天使の拳が腹部に突き刺さる。ダメージはさっきよりも少ない。

「お返しだ!」

 スキル技特有の輝きを放つ斧を振り下ろす。

 天使のHPは3割近く削れた。

 昨日よりも、目に見えてダメージ量が多い。

 レベルは上がっていないから、武器と特殊技の効果による違いだ。これなら、あと3発もあれば落とせる。

 俺は技の反動が終わると同時に、逃げる天使に向かって、斧を振り上げた。が、天使には当たらない。

 それは想定内。

 流れるような動きで斧を肩に担ぎ、力を込める。

 今度は本気で――

「撃ち落としてやるよ!」

 空に浮かぶ天使に向かって、斧を投げつける。

 これを天使は上に飛んで(かわ)すだろう。その上昇率は常に一定だ。つまり、避けた天使が止まる場所はおおよその見当がつく。

 天使が動き出すと同時に、止まるであろう位置を斧が戻ってくる軌道をイメージする。

 避けられた斧はすでに方向転換を始め、

「行っけぇ!」

 空中で停止した天使の肩を掠めた。少し目測を誤ったらしい。直撃しなかった為、天使のHPは半分を維持していた。

 天使は上に舞い上がった。

 次の攻撃は――


「なぐっ!」


 横腹を殴られた。

 そこにいたのは、最初に地面に落ちた天使だ。ダメージは与えていないが、ヘイトは溜まっていたらしい。

 俺は戻ってきた斧を掴んですぐに振り下ろした。

 飛べない。というよりは、翼を使えなくなったということなのだろう。天使はバックステップで距離をとるが、そこに飛翔時ほどの速さはない。

 俺は斧を水平に構えて追いかけた。

 斧を引き、【大木斬(たいぼくざん)】を発動させる。スキル技にはアシストが働くため、当たりやすいのだ。引っ張られるような感覚に逆らわずに進み、薙ぎ払う。

 飛べない天使に、(かわ)す術はない。

 眼前の天使のHPは残り3割。あと一息だ。

 だが、空に浮かぶ天使も、攻撃の準備を終えただろう。

 闘争か逃走か。

 考えるまでもない。

 刃を反転させ、振り切った斧を振り戻す。

 天使も逃げずに、光る拳で渾身のストレートを放ってくる。

 そんな2人に、光の雨が降り注いだ。

 ガタガタガタと小刻みにHPが削られる。

 フレンドリーファイアは無効なのか、目の前の天使のHPは減っていない。が、斧の一撃は天使の残りわずかのHPを削りきった。

 天使は104という経験値の表示を残して、四散する。レフトと均等割りされるので実際に増えるのは52だけだが。


 とはいえ、勝利の余韻に浸る暇はない。

 光の雨のせいで見づらいが、天使がいるおおよその位置は検討がついている。細かなズレくらいはシステムアシストでどうにかなるだろう。

 赤く輝く夜色の斧を、ぶん投げる。

 光の雨が目くらましになったのか、攻撃を途中で止めることは出来ないのか。ともかく、真っ直ぐに飛んで行った斧は、天使の体を貫いた。

 天使のHPバーが緑から黄色に変わる。

「回復しろ!」

 レフトの声だ。

 自分のHPバーを見てみると、黄色どころか赤だった。まずい、1割切ってる。

 攻撃を終えた天使がゆっくりと降りてくる間に、ポーション数本を実態化させて一気に飲み干した。

 俺のHPは全快し、天使のHPは約4割。1体は倒したし、残る1体はレフトがどうにかしてくれるだろう。

 勝機が見えた。


「来いよ。ヴァルキュリア」

 手のひらを上に向けて、手招き。挑発の意図が含まれていることに気がついたかはわからないが、天使は床を蹴って空を駆ける。

 何度繰り返しても変わらない攻撃パターン。

 確実に相打ちとする為、俺は斧を振り上げた。

 天使は光る拳を突き出して――光線を放つ。

「嘘だろっ、」

 想定外の攻撃に急いで回避行動を取るが、間に合わない。

 見た目の割に物理判定なのがせめてもの救いだ。かすって食らったダメージは1割強。目の前に迫る拳を躱せなかったとしても、問題はない。

 ダメージと衝撃を受け止め、斧を薙ぎ払う。

 が、浅かった。

 与えられたダメージは2割。

 残ったHPも2割。

 だが、追撃を加えるには無理のある体勢だ。

 まあ、俺のHPは8割ほど残ってるし、万が一攻撃されても勝ち負けには関係ない。

 関係あるのは、トドメを刺すのが誰になるかだ。

「悪いな、もらうぞ」

「ほんと、美味しいとこもってくな」

 天使の背後に回り込んだレフトが、赤く燃える半月の杖を振り下ろす。

 俺に狙いをつけていた天使に避ける暇はなく、兜割りで物理防御力を下げられた状態で耐えるだけのHPは残っていなかった。

 天使はポリゴンの欠片となって四散。

 104という経験値の表示が消えると、入れ替わるように【LEVEL UP】の文字が浮かんだ。

 なんともまあ、都合のいいタイミングでのレベルアップである。

 おかげでボス戦を前に、HPが全快した。

 それに負けても――レベルダウンは起こらないので――デスペナは微々たるものになる。


「レフト、体力は満タンにしとけよ」

 ついでに、いつも言われるセリフを言い返しておいた。

「ゲージ見てから言えよ、バカ」

「なに?」

 とりあえず、言われるがままに自分のHPバーの下にあるパーティーメンバーのHPバーを確認。そこにあるのは、上と同じ緑一色のバーだった。

「今のレベルが上がったみたいだ。ラッキーだったな」

「なっ」

 こいつもか。

 って、ちょっと待て。

 こいつのレベルは上がったばかりのはずだ。昨日から今日の間にレベルが上がり、さらにここでもうひとつ上げるなど、可能なのか。

「なあ」

「なんだよ」

 ニヤニヤとした顔を見て、確信した。

「嘘だろ」

「嘘だ」

 こいつは。

「もうすぐ上がるけどな。今、レベルが上がったのはお前だけだ」

「…………」

 ほんとに人のことをよく見てる。

 そして、一時的に追いついたが、すぐに差をつけられそうなことも判明した。

「そろそろ来るぞ」

 レフトの顔から笑みが消えた。

 杖を構えたレフトに倣って、俺も斧を構える。

 敵が現れるのは、上だ。


「――断罪(だんざい)(つぶて)


 声は聞こえたが、姿は見えない。

 見えるのは、球体が弾け、花火のように降り注ぐ光の粒だ。

 俺達はその射程から逃れるために、走り出した。

 前回は為す術もなくやられた技だが、知っていれば対処は可能だ。

 余裕をもって、とはいかなかったが、離脱には成功した。花火は誰もいなくても降り注ぎ、消える。

 その中心に、ボスが現れた。

 ゴーレムといえばゴーレムかもしれない。ただし、素材は土ではなく機械。体型はがっしりではなくすらっとだ。何故か顔だけは人のそれだが、全身に絡みつくような金髪のおかげか、違和感は少ない。

 ただ、異様に大きかった。

 少し浮いているせいもあるのだろうが、目線の高さが遥かに違う。身長は俺達の2、3倍ーー5メートルくらいはあるのではないだろうか。

「殲滅モード」

 3対6枚の純白の翼が飛び出した。

 その姿は、天使、と表現するのが相応しいだろう。大天使と呼んでも過言はないかもしれない。物理的にも大きいし。


【バグルヴァーゴッデス】


 表示された固有名は、天使でも大天使でもなく、女神(ゴッデス)だった。乙女かと言われるとそうとも言いきれないが、ゴーレムよりはよっぽど乙女だ。

 ベータテスト版とは少し変わってるらしい。

 だが、それがどうした。

「やるぞ、レフト!」

「わかってるよ!」

 俺は斧を担ぎ、レフトは満月の乗った杖を掲げる。ヴァルキュリアと同じようにバグルヴァーゴッデスも落とす気か。

 女神を落とすとか罰当たりっぽいけど、気にしない。

 天罰を食らうのはレフトだ。

 俺はスキル技独特の赤い輝きを帯びた斧を投げつける。ターゲットが大きいと狙いをつけなくてもいいから楽だな。

 斧は真っ直ぐに飛んで行き、女神の体をすり抜けた(・・・・・)

「は?」

 貫いたのではない。

 HPが減っていないことからもそれがうかがえる。

 ちなみに、HPバーの色は青だ。HPバーは通常は緑色であり、半分を切ると黄色、1割を切ると赤となる。それを越える2本目のHPバーこそが、あの青いバー。敵限定の表示で、1本目がなくなると行動パターンが変わったりするのが定石だ。

 そんなことを考えてると、斧が女神の体を迂回しながら戻ってきて、手にすっぽりと収まった。意識せずともしっかりとキャッチ出来るとは、システム様々だ。

 女神がゆっくりと、細い機械的な5本の指を開いた。

「――滅亡(めつぼう)(ひかり)

 掌に埋め込められた球体から、眩い光が放たれる。

 名前からしてただの目くらましではないだろう。

「なっ」

 HPが一気に8割近く削られた。

 光自体に当たり判定があるのか。しかも、レフトのHPはあまり減っていないから魔法攻撃だ。これでは防ぎようも、耐えようもない。

 光が弱まっていく中で、女神は手を挙げた。そこから、小さな光の球が放たれる。

 最初のあの技だ。

「――断罪の礫」

 空中で爆散した球体から、小さな光の粒が降り注ぐ。

 これは、かわせない。

 いくら物理判定の技だとしても、2割のHPで耐えきれるとは思えないし、耐えたところでーー

「無理ゲーだ、これ」

 俺は抵抗することなく、ゴッデスに裁かれた。


 戻ってきたのは、この世界で1番見慣れている噴水の前。少し待っていると、レフトも現れた。

「いやー、強かったな。あの女神」

 強敵相手に惨敗した直後だというのに、その顔は明るい。

「2人じゃ勝てない強さだろ」

「まあ、今のままじゃ厳しいだろうな」

 レフトにしては珍しく弱気な答えだった。だが、その顔から笑みは失われていない。

「というわけでーー」

 嫌な予感がする。


「ーー魔法使いのクエストに協力してくれないか?」


 こんにちは、銀です。

 今回はおとめ座の女神【バグルヴァーゴッデス】について解説します。

 ライトのトマホークをすり抜け、圧倒的な攻撃力で2人を倒した女神様ですが、名前からわかる通り、彼女はバグを持っています。

 プレイヤーのチートと対をなすモンスターのバグ。

 ただし、モンスターなら誰でも彼でも持っているというわけではなく、1部の特別なモンスターだけが持っているものとなります。

 その謎はいずれ明かされることでしょう。

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