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名前は、まだない  作者: 青山春野
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 内容自体はさして完全と抱いていた一般のそれとは大差なく、多少(?)豪華ではあるものの絢爛などでは決してなかった。慎ましく、厳かに行われたのみだった……本当は厳かの言葉の意味をちゃんとは知らないのだけれども、とにかく物静かに執り行われた事が伝わってくれればそれで良い。

 確かに隣(焼香の時は後ろ)にいる彼女はいつもからは想像ができないぐらいに、やけに落ち着き払っていた。涙も一筋どころか一滴すらなく、まるでそういった感情をさっきの移動の際に絞り切ったようだった。哀しみも憂いもなく、まるで……――――。

「ユウちゃん?」

「――どうかしたか?」

「はいコレ」

 そう言って手渡されたのは缶コーヒーだった。それも無糖。

 疑問符しか浮かばなかったが取り敢えず鼻先に温かいアルミ特有の硬質さを突き付けられたので受け取る事にし――て思い出した。

 そうだった。今はあの黒塗りの如何にもな高級車でここに移動したのだっけか。流石に屋敷といえども火葬のための施設や設備はなく、そういったもののある――しかし彼女達使用人が信用できると言われる場所へと来たのだった。自分も敷地に『専用』の焼却炉があるのはなんだか嫌なので、それで正解だと思う。正直空恐ろしくて堪らない。

 ――――で、今はそれすらも終わりを迎え。後は遺骨の埋葬……になる戸頃なのだが、「柳刃家の方の埋葬はここの方が行って下さいますのでそちらに委託致しましょう」とアリサさんが耳打ちしてくれた。

 一方、

 「……私はこれは埋めないでおこうかな」

 と紗希は紗希で、そんな事を言っていた。決意していた。

 何も言う事もできず、なにより何も言う権利自体が元よりない自分は「そう(です)か」としか言えなかった。いや、本当は言えたはずで……詰まる所、自分はこの期に及んでもただの臆病者なのだろう。

 そして現実逃避がてら休憩にでも、と思って会場のホールから出た通路にある自動販売機に向かおう――として、彼女に着いてこられたのだっけか。

 ガコンッ、と自販機特有のあの缶が吐き出されて取り口にぶつかった音が遠巻きに聞こえた。彼女も何か買って来たのだろう、両手で服の袖を挟みながら掴んだ缶を持って歩いてくる足音も横から聞こえてくる。案の定やって来た彼女は、自分が腰掛けたベンチに座ると隣で缶を開けた。

「冷めちゃうから早く飲んじゃおうよ」

 そう言って両手で可愛らしく飲む姿は、見るからに年頃の女子高生だった。とはいえ自分達はまだ高校に入学して1ヶ月と経ってはいないのだけれども。そんなどうでもいい事を能書きながら自分もプルタブを押し上げて完全に開いた状態で口を付けた……一口含んでから自分が猫舌である事を思い出し、それから慌てそうになった口内を鎮める事に意識を割いた。

「…………、」

 落ち着いてから。つい周囲をキョロキョロと見回す……が、辺りには誰もいない。どうやら図らずしてこの場には自分と彼女の2人しかいないらしかった。そう考えつつ見回していると、隣に座る彼女と本日何度目かの視線の交錯があった。

「?」

 その顔を眺めて、思った。

 …………たまたまだが、丁度良いのかもしれない。

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