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てきとーに登録してんじゃねぇよ!【22】


 黒猫とともにやってきた毛むくじゃらな小さな生き物を手の上にのせ、ゼルギアは俺にその生き物を手渡した。


「お前これちょっと持ってろ」


 も、持つって、生き物だろこれ!


「ペットと思え、ペットと」


 言われてみれば、その生き物は子猫ほどの大きさで、それでいて生温かい。毛の中に足があるようで、俺の手の上を二本足で懸命に踏ん張っているのがわかる。


 ゼルギアは俺をつれて酒場の二階へと案内した。

 その後ろを黒猫もついてくる。


 二階は貸し切りの議論場となっていた。

 大きな机とたくさんの椅子が並べられており、奥の壁には黒板とチョークがあった。おそらくここで討伐の作戦会議が行われてから出発するのだろう。


「よくわかったな。その通りだ。ここは討伐前に作戦会議をする場所だ」


 フロアは狭くもないが広くもない感じだった。ちょうど一階のスペースを半分にした広さか。だから二階から一階のフロアを優に見渡せた。


 ゼルギアは近くにある椅子に腰掛けた。


「お前も座れ。どこでもいい。モップを机に置くことを忘れるな」


 モップ?


「お前が今その手に持っている毛むくじゃらの生き物の名前だ」


 へぇ。


「ンで、ついでに紹介しとくと、お前の後ろにいる黒猫の名はデシデシだ」


 俺は振り向く。

 後ろにいた黒猫が俺を見上げて愛想ない顔で挨拶してくる。


「でしでしデシ。このギルドの受付全般及び上層部への報告をやっているデシ」


 上層部への報告?


 ゼルギアが答える。

「ここの運営資金は討伐賞金の他にも貴族どもの出資金と国の税金の一部でまかなわれている。何をして何に使ったかを議会で報告しないと貴族どもが金を渋って回してくれねぇんだ」


 いまいちよくわかんねぇ。


「ま、わかりやすく言えば『何をするでも金がいる』ってことだ」


 ふーん。


「理解してねぇだろ?」


 半分は理解した。


「まぁいい。座れ」


 俺は毛むくじゃらの生き物を机の上に置き、ゼルギアの向かいの椅子に腰掛けた。

 黒猫が俺の隣に腰掛けてくる。


 ゼルギアは言った。


「お前がここで飯を食って仕事する以上、運営に不透明な金を発生させるわけにはいかん。貴族も浮浪者に金をバラまくほど心広くない。『何に使ったかわかりません』の報告を一番嫌う奴らだ。

 ──と、いうわけでだ。お前という無駄飯食いが一人増えたということを上層部、つまり金を出す貴族どもに報告してやらねばならん。俺が言いたいこと、わかるな?」


 黒猫が横から口を挟む。


「団長は優しすぎデシ。そこまで詳しく説明してやる必要ないデシ。住民登録しろだけでいいデシ。目の前に紙とペンを与えてやれば、こいつ書くデシ」


「デシデシ。お前ほんと心無い猫だよな。わけわからずに登録させられることがどれほど不安なことかわかってないだろ?」


「人間の心なんてわからないデシ。人間嫌いデシ。知らなくていいデシ」


 黒猫は手持ちの紙と羽ペンを俺に突きつけてくる。


「さぁ書くデシ」


 俺はわけわからずそれを受け取り、紙面を見た。

 なんだよ、真っ白じゃねぇか。何書けっていうんだ?

 すると紙面に次々と変なインク文字が浮き出てくる。

 俺は驚きに目を見張った。


 ゼルギアが俺の様子を見て「あ」と何かを思い出す。

「そういやエルフは字が読めないし書けないんだったっけか」


 え?


 黒猫が首を傾げる。

「どういうことデシか?」


「デシデシ。こいつはな、見た目は人間だがジャングルでエルフとともに生きてきた奴なんだ。その登録は俺が代わりに書こう」


 だから! 俺は原始人間じゃねぇって言ってんだろ!


「じゃぁ書いてみろ」


 ゼルギアに言われ、俺は再び紙面に目を移す。

 ……。

 えーっと、これはどこのエジプト文字だろう。


 半眼でゼルギアが俺を見る。

「読めないなら読めないと素直に言え」


 すみませんでした。

 俺は謝罪とともに紙面と羽ペンをゼルギアに手渡す。


 ゼルギアは受け取り、紙面を机上に置くと羽ペンを走らせた。


「お前の名前はKだったな」


 黒猫の耳がぴくりと反応する。


「イセカージンと名前が似てるデシ。変わった名前デシ」


 なぁ。その異世界人って奴らの名前を教えてくれよ。


 ゼルギアが答える。

「【F】、【B】、【9】。それがこのギルドにいる三人のイセカージンの名前だ。興味があるなら自分で捜してみるといい」


 俺が捜すのか?


「いつ姿を現すかわからん奴らだからな。俺もそこまで暇じゃない」

「ボクも暇じゃないデシ。早く書くデシ」

「はいはい、わかったよ」


 ゼルギアはつらつらと書いていく。


「出身はジャングルでよかったよな?」


 違ぇーよ。


「性別は男。年齢は少年。特徴なしの平凡。採用理由はこのギルドに獣使いがいなかったから。人間では珍しく野生のスライムを飼い慣らしていたため。特殊能力は人妻マダム・キラー」


 ちょっと待て! なんだその最後の俺の特殊能力!


「そうだっただろお前。去り際に人妻エルフとキスして『一生忘れない』とか言われて、それお前、俺の方が忘れられねぇよ」


 どんな誤解だよ! リラさんはそんな意味で俺に言ったんじゃない!


 ぼそりと黒猫。

「だから人間は嫌いデシ」


 お前が嫌っている理由はそれなのか!?


 毛むくじゃらの生き物が急にうずくまって泣き出す。

 

 ってか、お前は何があったんだ!?


「登録は以上だ。こんなもんでいいだろ。デシデシ、これを上層部に提出しとけ」

「はいデシ、団長」


 お前らテキトー過ぎだろ! 最初の説明はいったいなんだったんだよ!



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