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銀幕への招待状

遅くなり、申し訳ございませんでした。



ポタリ・・・



ポタリ・・・



水滴が落ちる音が暗い部屋に響く

さっきまでなんとも思っていなかった部屋の空気がやけに冷たく感じた


『・・・どうして・・・』


自分の声がひどく弱々しく感じる

私の視線を目の前の彼はしっかりと捉えた


女性が夢みるような端整な顔

私をソファに押し付ける体はたくましく、どこかスパイシーな香りがする


『どうして?今更そんなこと聞くのかい?』


私の頬を彼の手がなでる

その手は氷のように冷たかった


『僕と君はいずれこうなる運命だったんだ』


低く甘い声がいつもより近く聞こえて

私の体が小さく震えた


なぜか抵抗一つできない私の体を彼の大きな手が足からゆっくり撫でていく

その手が私の首に到達した時には、私は上手く呼吸ができなくなっていた



そんな私をしばらくの間じっと見ていた彼の顔がゆっくり近づいてくる

彼の吐息を首に感じた


『・・・ごめん・・・愛してるんだ・・・。』


懺悔するように苦しげに囁かれた言葉を耳元で聞いた




そして―――




*   *   *




「ぎゃあああああああああ!!」



・・・冒頭から大変失礼いたしました。

安原みらいでございます。

主任のお宅にお邪魔し・・・いや、させられて?早十数時間。私は可愛気のかけらもない絶叫をあげておりました。


もちろん、ちゃんと理由はあります。

いくら日頃から落ち着きがないと言われている私でも、突然叫び声をあげたりしませんとも。




ことの発端は、おいしいドーナツにお腹を満たされ、幸せな気持ちで主任に淹れて頂いたコーヒーを飲みながらまったりしていた時の主任の一言でした。



「ねぇ、みらい。一緒に映画見てくれない?」



相変わらず爽やかな微笑みを浮かべながら、主任は言いました。


「僕、映画見るの好きなんだけど一人じゃ寂しいから、みらいが一緒に見てくれたら嬉しいんだけどな・・・」


そんなことを控えめに、でも期待するような目をしながら言われたら断れませんよっ!

主任なら他にいくらでも相手がいそうなのに。


「私でいいんですか?」


「みらいと一緒がいい」


本当に嬉しそうに主任が言うので、少しだけ顔が熱くなったのはここだけのお話です。




「それで、どんな映画を見るんですか?」


「そうだねぇ・・・みらいは苦手なジャンルとかある?」


その質問に私は大きな声で答えた。



「ホラー以外でっっ!!」



私の勢いに驚いたのか、主任がキョトンとした。


「ホラー苦手なの?」


「おばけ屋敷に入る前から泣くぐらい苦手です!」


そして、電信柱にしがみつき「絶対入らないんだからぁぁぁ」と泣き叫んだ本気で破り去りたい若き日の青春の一ページ・・・

若かったな・・・私・・・

そして、今でも同じことしないとは言い切れないあたり、あんまり成長してないな・・・私

そんなことを考えていた私は全く気づかなかった。


「そう・・・」


とつぶやいた主任の顔の怪しい微笑みに。



結果的にミステリーの映画を見ることになりました。

大きなソファにちょこんと座ればDVDをセットし終わった主任がすぐ隣に座って、これまた大きなテレビを二人で静かに見つめる。そういえば、ゆっくり映画なんて見るの久しぶりだなぁと思いつつ少しわくわくしながら見始めた。


―――まではよかった。


始まって30分ぐらいたった時、画面の向こうで男性が女性をソファに押し倒すまでは


うえぇぇぇ!?いきなり大人のシーン突入!?ど、どうしよう上司とラブシーン見るとか家族で見るよりいたたまれないよっ!!


主任の反応を見る勇気もなく早く終われぇぇぇと心の中で叫びながら画面を見ていると


『・・・ごめん・・・愛してるんだ・・・。』


と囁いた男性が次の瞬間




グロいモンスターなっちゃった☆




えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ!!



…と叫んだところでテレビが待ってくれるはずもなく・・・



元イケメン現モンスターが


女性の首を―――





で冒頭の絶叫に至るのです・・・




・・・主任の嘘つきぃぃぃぃぃ!!!(涙目)




読んで頂きありがとうございました。

主任は最初、恋愛ものでも見て、甘い雰囲気になればいいな、あと大人のシーンを見てどう反応するのか見たい(ニヤリ)とか思ってたんですが、彼女が苦手だと聞いて迷うことなくホラーを選びました。はい、主任はそういう男性です(笑)


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