0238
Side:神守黒金
僕はこの日、吉法師達と共に海に来ている。
いつもなら海の幸を獲りに来るだけなんだけど、吉法師が海に行きたいというので連れて来たんだ。
危ないので影兵と水兵を出しているからか、吉法師と三四郎は水兵に乗って海で遊んでいる。
僕は海の幸を獲っており、平手は紙を持って鉛筆で色々と書いている。
ま、書いていると言っても和歌であって絵じゃないけどね。
それでも海を見ながら詠みたいらしい。
風雅典雅と言えなくもないけど、僕は興味ないしどうでもいい。
吉法師と三四郎は仲良く遊んでいるので、僕は集めるだけ海の幸を集めている。
今日は特に貝類を多めに獲ってるんだけど、これは那古野城では汁物を気に入った人が多いからだ。
昆布を使うと良い出汁が出るんだけど、昆布は高価すぎる。
椎茸という手もあるけど、栽培されているとはいえ椎茸も高いんだ。
そんな中、割と安値で手軽に美味しい出汁がとれるのが貝類になる。
内陸じゃ無理だけど、僕が居る限りにおいては何とでもなるからね。
なので多めに獲って帰って、大鍋で汁物にするんだ。
これだと城の全員分が作れるからか、割と城でも好評な物となる。
とはいえ貝類も獲り過ぎると良くないので、そこまで大量には獲れない。
その場合にどうするかと言えば魚だ。
魚もアラで良い出汁が出るので、汁物に重宝している。
身の方は焼き物で出したり、汁物にそのまま入れて煮込んで出されたりする。
こちらもやはり人気の食材だ。
美味しい物ってやっぱりいいよね。
そのうえ僕が居るから温かい物が食べられるしさ。
その御蔭もあって、僕に対する近づきがたいという感じは無くなったよ。
少し前まであったんだよね、一応は従三位だからさ。
その官位だけでどうこうって人が城内にも居たんだよ。
面倒臭いなって思ってたんだけど、最近はそれも無くなっている。
やっぱり自然なのが一番だね。
それはともかく僕が獲る分は十分に獲れたので、後は持って帰るだけなんだけど………。
まだ吉法師と三四郎は楽しそうに遊んでるね。
とはいえ、そろそろ帰らないと駄目だ。
途中で川に寄って、綺麗に塩を洗い流さないといけないし。
「吉法師! 三四郎! そろそろ帰るよーーー!!」
「「えーーーーっ!」」
「帰りに川で塩を洗い流さないといけないからね。
早めに帰らないといけないんだよ。
それに食材を城の料理人に見せないといけないしね。
それにいつでも来れるんだから、また来ればいいよ」
「「はーーい………」」
思っている以上に楽しかったのか、海に入るのが初めだからはしゃいでたのか。
どっちかは分からないけど、帰りで多分だけど寝るね。
とはいえ体を洗うのは影兵に任せればいいから、寝てても綺麗にする事は出来る。
なので海から上がった二人を黒馬に乗せて、さっさと那古野城へと戻る僕達。
当然、途中の川で二人を綺麗にし、それが終わったら那古野城まで真っ直ぐだ。
特に何かがある訳でもなく、あっさりと帰り着いた。
ここ最近僕は、尾張の下四郡の中でも弾正忠家に従っている家の領地を巡回している。
何をしているかと言えば、賊狩りだ。
中には自分の領地に入ってくるなと言う者がいるけど、そういうヤツの所には行っていない。
バカの相手なんてしたくないしね。
そういうヤツの所に賊が逃げ込んだ事もあったけど、当然ながら僕は無視している。
ワザとそいつの領地に追い立てたなんて事も無い。
そんな事を言って来たけど、だったら証を立てろと言って追い返した。
当たり前だけどさ。
那古野城に帰ってきた僕は、台所に居る黒箱に魚を含めた多くの物を入れていく。
それでも詰め込める量に限度があるので、ある程度減るまでは海に行ったり山に行ったりはしない。
食べるのが先なのは当たり前だから。
そんな事を考えていると、弾正から呼び出しがあった。
僕に相談する事なんて無いはずなんだけど、何かあったかな?
そう思いながらも、呼びに来た小姓についていく。
ちなみに小姓って護衛と同時に男色の相手でもあるらしい。
弾正は男色を好んでいないので護衛なだけなんだけど、他の武家の中には小姓とそういう関係の連中が居るらしい。
何でそんな事をするのか知らないけど、僕からしたら自分に関わらないならどうでもいいってところかな。
っと、考え事してたらついたよ。
「殿、神守卿をお連れしました」
「入れ」
「失礼します」
ガラッ
戸を開けて中に入ると、弾正が痩せた男と一緒に難しそうな顔をしていた。
誰だろう? 初めて見るな。
それともう一人、外側に目つきの悪いヤツもいる。
「おお、黒金来てくれたか。
そなたが戻ってきておると聞いたのでな、少々聞いてもらわねばならぬ事が出来たのだ。
っと、ここに居るのは弾正忠家の最古参である林家の当主じゃ。名を林新五郎という。
あっちは弟の美作守じゃな。今年元服したばかりの若者だ」
「林新五郎秀貞と申しまする」
「林美作守通具と申します」
「どうも。僕は神守君従三位右衛門権佐検非違使黒金だよ。
よろしく」
弟の方が睨んできているけど、これは僕みたいな見た目の子供が官位や官職を持っているのが気に入らないって事だろうね。
こいつの美作守っていうのも、弾正が言う武家官位だろうし。
「それで、僕を呼んだ理由は?
なにか聞かせたい事があるみたいだけど」
「そうなのだ。
実はな………守護である斯波左兵衛佐様からの文が来た。
そこにはワシとそなたを清州の城に招きたいと書いてあったのだが………
その文を持ってきたのは正式な斯波家家臣の方であったが、その後に菜売りが来たのだよ」
「菜売りがねぇ………それで?」
その菜売りって十中八九でただの菜売りじゃないよね?
又太郎の下にも、おかしなのがよく来てたから知ってるよ。
茶売りとか陶器売りとかね。
部屋に入ったら全く関係のない政の話とかしてたけど。
「まあ、その感じだと分かっておるようじゃが、左兵衛佐様からの言伝を持ってきた者じゃ。
その者が申すには、ワシとそなたを左兵衛佐様の名で呼び、清州の城か町で殺してしまおうという腹らしい。
それでどうしたものかと思うてな」
「どうするも何も行くしかないんじゃないの?」
「敵の手に乗るとか阿呆か」
外側に居たヤツが口を開いたけど、コイツなんで勝手に口を開いてるんだろうね?
バカ過ぎて興味もないけど、一応きちんと言っておくか。
「頭が悪いから言っておいてやるけど、次に舐めて来たら殺す。
それだけは忘れないようにね」
「ハッ! 随分と上の官位を口走るガキだが、そんな見え見えの嘘はこのオレ「<古兵・勇壮猛夫>」があば」
僕は古兵を呼び出し即座に首を刎ねた。
当たり前だ。武士は舐められたら負けな以上、舐めて来た相手は殺す。
「で、お前が当主で兄のようだけど、お前はどうする?」
「真に申し訳ございません。
弟がまさかここまで愚かとは思いませぬでした。
平に御容赦を!」
「まあ、兄の方は普通っぽいからいいけど、武士は舐められたら負けだと誰か教えなかったの?」
「申し訳ございませぬ。
弟の守役は大きな事を申す者で、それに感化されたのか弟は父が諫めても碌に聞かず……」
「先代も諫めてはおったのか。
今日来た当初から、おかしな態度のヤツだとは思っておったがな。
まさか先代の言う事も碌に聞かんとは、それは殺されても文句は言えまい。
それに、これで新五郎の当主に誰も文句は言うまいよ。
っと、すまぬな」
「いや、僕がやった事だからね、片付けぐらいはするよ」
僕は影兵を呼び出して綺麗に片付け、ついでに影兵の中に死体を入れたままにした。
冷たくしてれば腐りにくいしね。
そう兄の方に話すと、目が点になって固まったみたい。
またもやコレか……
「先程の弟とは違って、新五郎は真面目だからな。
だからこそ新五郎が林家の当主の方が良いのだが、戦で名を上げたい者が弟の方を推していたのであろう。
家臣が弟に多くつけば新五郎とて動けぬからな」
「バカの所為で武士の家がそういう風になる事もあるのか。
面倒臭いねー」
「そう。面倒臭いのだ」
兄の新五郎が何とも言えない顔をしているって事は、小さい武士の家でもそういう事はあるんだろう。
本当に大変だ。




