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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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0012




 Side:黒金くろかね



 眼の力をくれた神様は横に置いておくとして、肉を買った僕達は一旦家へと帰る。

 今はまだ早いし、昨日は食べなかったけど、食べられる人は昼餉を食べるらしい。

 昔の稀人まれびとが、出来れば一日三食に分けて食べるのが望ましいって言ったんだそうだ。


 その当時の人は「そんなに食べる物は無い!」って怒ったそうだけど、一日三回に〝分けて〟食べるのが良いみたい。

 昔の人は朝と夕の二食だったらしいんだけど、その二回とも大量に食べていて、それが体に良くないんだってさ。


 だから朝と夕の少しずつを昼に持ってくるようになったんだそうだ。

 とはいえ昼餉は大抵の場合、飯屋に行って食べるみたい。

 何でも火を焚く為の薪が勿体ないからだって。


 とはいえその木も別の稀人まれびとが、植林というのの仕方を教えたらしい。

 何でもかんでも稀人まれびとが関わってるんだなぁ……。


 「仕方あるまい。稀人まれびとは多くの知識や様々な事柄を知る者が多いのだ。

 中には黒金くろかねのように子供も居たそうだが、役に立たぬ者は誰も居なかったという。

 つまり何かしらの知恵か力を持つ者が来ているのだ」


 「僕は思い出せないから、サッパリ分からないけどね」


 「それはそれで良いだろう。

 そもそも黒金くろかねのように霊兵が強い者など聞いた事が無いのだからな。

 その時点で今までの稀人まれびとの中でも強い方だ。

 いや、もしかしたら一、二を争うのかもしれぬ」


 「僕の場合、僕自身は然して強くないのが何とも……。

 あんなヤツに負けたのは納得できないし、次にあんなヤツが居たら必ず勝つよ」


 「うむ。とはいえあの時は逃げながら道丹を殺すか、他の男達を殺すべきであったな。

 それならば、あの時の黒金くろかねでも出来た筈だ。

 やはり様々な経験を積まねばならん。

 賀茂家の御当主様がおっしゃっておられた通りに」


 「賀茂家の御当主がなに?」


 「賀茂家の御当主様はな、下京の見回りに黒金くろかねも連れて行けとおっしゃられた。

 それは黒金くろかねの実戦経験が足りなさ過ぎるからだ。

 あの時も戦いの経験があれば何とか出来た筈だからのう」


 「それは………。うん、それはそうだと思う。

 確かに沢山戦った事があれば、何をしていいかは分かったんだろうね。

 じゃあ、今日これから?」


 「それはまだ無理だ。

 陰陽寮の許しを記した証文が必要でな、それがないと横紙破りとなってしまう」


 「よこがみやぶり?」


 「ああ、何と言うかな……。そう! 勝手な事だ。

 私は下京の左京出張所に登録しておる。

 他にも下京の右京主張所もある。更には上京にもな。

 陰陽寮は昨日行った上辺かみのわたりの西側にある。

 しかし東にも主張所があるのだ」


 「ややこしい……」


 「そこまで面倒ではない。

 京の都の南東が左京出張所。

 南西が右京出張所。

 北東が上辺かみのわたり出張所。

 そして北西に陰陽寮があるという事だ」


 「そう言われると簡単かも。

 下京の出張所は西にもあるけど、西には登録してないから勝手な事は出来ないって訳でしょ?」


 「その通りだ。

 さて、家に置いたら、まずは左京の見回りを始めねばな」


 ガラッ!


 斯明かくめいが家の玄関を開けると、中には何故か人が二人いた。

 どっちも綺麗な女性だけど、一人は昨日も見たつやだ。

 でも、もう一人は誰なんだろう?


 「斯明かくめい殿。いったい何処に行っておられたので?

 こちらに来たら居られませんでしたので、勝手にあがらせていただきましたが……」


 「今日食べる物を買いに出ていただけです。

 それで、その……そちらの方が?」


 「………はじめまして」


 「ああ、はい。初めまして。

 鹿野しかの斯明かくめいと申します」


 「わたしは、安倍あべの葛葉くずはと申します。

 末永くお使い下さいませ」


 何か変な人だね?

 雰囲気がおかしな感じだし、ちょっとておこうかな?

 危険な人だと困るから。


 ―――――――――――――――


 安倍 葛葉 女 三百四十一歳


 体力・四十一

 霊力・百四十四

 術技・九十一

 知恵・八十二

 知識・九十四

 運勢・普


 安倍晴明が晩年に匿った妖狐。今だ妖狐としてはそれなりではあるが、妖怪である為、人間よりは遥かに強い。安部姓を名乗っているが、あくまでも養女のような者。一目で斯明に惚れたようであり、子を孕む気は満々のようだ。斯明も妙な定めに生まれたものよ


 ―――――――――――――――


 「ねえ、斯明かくめい。子を孕むってなに?」


 「「「!!!」」」


 「ど、どどどどどどういうこと!? 何を見たの!?

 黒金くろかね! 何を見たのか言いなさい!!」


 「えっと、この人は妖狐っていう妖怪みたい。で、三百四十一歳なんだって」


 「「えぇーーーーーーーーーっ!?!??!」」


 「流石は稀人まれびと。一筋縄ではいきませんか……」


 「よ、妖怪って貴女!!」


 「勘違いしないように。

 私は他の妖怪に殺されかかった時に、安倍あべの晴明はるあきかくまってもらったのよ。

 それ以降、安倍家に力を貸しているだけ。

 安部姓を名乗っているけど、妖怪としての名は<葛の葉>というの」


 「もしや、善妖の方なのですかな?」


 「人間に仇なさない妖怪を善妖というのであればそうね。

 人の子は見ていて面白いから、見て楽しんでいるだけよ。

 そもそも私ほどの力があれば好きに生きていけるもの、戦う理由も意味も無いわ」


 「では何故斯明かくめい殿の嫁になど来たのですか!

 好きに生きていけば宜しいでしょう!!」


 「あら、本来は私じゃないのよ?

 私は話を聞いて安倍家からの側室のフリをし、稀人まれびとを見にきただけだもの。

 そしたらまあ、イイ男じゃない。

 人間にしては霊力も高いし、これなら孕んであげてもいいって思ったのよ」


 「えーっと、側室の話とは関わりの無い方で、黒金くろかねを見に来られただけだと」


 「そうだったんだけど、気が変わったってこと。

 今から安倍家に戻って、代わりに私が側室だと言ってくる。

 人間の正室がする事って色々あるんでしょ?

 私そういう面倒臭いの嫌いだからお願いね。

 じゃあ、わたしはこれで」


 そう言って葛葉くずはという女性は家を出て行った。

 僕も斯明かくめいつやも呆気にとられてる。

 妖怪? 善妖? というのは勝手なんだなって思った。


 とりあえず葛葉くずはという妖怪? 人? が帰ったので、斯明かくめいつやから陰陽術を学ぶらしい。

 とはいえ、それは帰ってきてからだそうだ。


 「まずは斯明かくめい殿の本当の実力を見てからです。

 とはいえ今まで戦ってきているので、そこまで何も知らないとは思っていませんが」


 「分かりました。

 と、許しの書かれた証文を受け取っていませんので、右京には行けませんが……」


 「それは私が持ってきました、こちらでです。

 これがあれば右京の妖怪を退治しても問題ありません。

 それでは行きましょう」


 「食べ物の袋はここの見え難い所に置いておくね」


 「すまん、黒金くろかね。ありがとう。

 あの葛葉くずはという方の所為で、色々と驚き過ぎたのか、頭が上手く動かん」


 「分かります。

 黒金くろかね、あの者は本当に妖怪なの?」


 「そうだよ。今まで見た中で一番霊力が高かった。

 斯明かくめいが七十八で一番多かったのに、あの葛葉くずはって妖怪は百四十四もあったから」


 「「ひゃくよんじゅうよん!?」」


 それから聞かれるまま二人に答え、その能力の高さと説明にガックリと肩を落とした。


 「一番低い体力ですら四十一か……。

 しかも他は八十から九十。尋常ではないな」


 「妙な定め……。

 確かに芦屋あしや道満どうまんの子孫だったり、側室を入れる事になったり、変な妖怪狐に好かれたり。

 何故こんな事に……」


 つやの項垂れ方が凄いけど、今は声を掛けない方が良い気がする。

 でもなー………僕、早く妖怪退治に行きたいんだよね。

 困ったな?


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