66.大地の改変
「砂漠に水道の元栓ねえ。これを(推定)創造主が弄ってた、と」
「まあ、開けてみよう」
パカッと蓋を開ければ戸建の屋外によくある造り、よりかはちゃっちい感じ、メーターもそれっぽいのしか付いていない。そして…砂に埋もれていたはずなのになぜか砂が中にも入り込んでいない不思議設計だ。
「ではいざ開栓、と」夜都がキュッと元栓を回し、暫くの間なにか変化がないかじーっとしていた。
「うーん、何も起こらないわねえ。壊れちゃったのかしら」
結局二人は日除けのタープを張ってタイムリミットまでその場で過ごすことになった。
「因みに、ここから東北東に5キロほど行くと西の砂漠の町だな、意外と近かったというわけ」
「じゃあ、明日の時間が合えば一緒に町まで戻る、合わなかったりログインできなかったら別々に帰りましょう。何とか歩いて帰れるわけだし」
「明日にはいい変化が起きてるといいな」
「そうね。それを見たくて無理してでもログインしちゃいそう」
「ハハハ! 分かる!」
その日はそのまま時間切れで解散していった。
…………………………
翌日、夜都は日中は精力的に仕事をこなし再び夜にログイン。昨晩ログアウトした地点に降りたつと、地面の変化に気がついた。完全な砂地だったのに砂の下が固く感じられるのだ。地面を掘っていくとほどなくして少ししっとりした“土“が出てきた。この土なら植物も育ちそうだ。
レタスにメッセージを残しつつ、召喚獣を呼び出して飛び乗る。
遠目でもわかっていたがやや窪地のところに水溜まりができていた。近づいてみると、水の中に小さな生き物がいるようだ。この辺りは地表も土に変化しているし緑地への復活も早そうだ。
その周辺を散策していたら、レタスがログインの連絡をしてきた。ログイン地点まで戻り、レタスをピックアップしてもう一度水溜まり地点まで戻る。
「1日でこの変化はすごいわね。みて、水が少し冷たいわ」
「そういえば、空気も乾燥が和らいで気温も下がってるな」
「薬草はどう?採取できそう?」
「まだ地中深くに埋もれてるからもう少し経ったらまた来るよ」
その後、一旦ホームに戻ろうということになり、ラクスからゲートを使って帰ってきた。レタスは本当に無理してログインしてきたらしく、自分のホームに戻ってすぐログアウトするそうだ。
夜都も自分のホームに戻ってきた。砂漠エリアから来たので目の前の田園風景に少し感動を覚える。
(あの砂漠も豊かな緑の大地に戻ればいいな……)
テラスで寛ぎながら、夢でみた創造主のことを思い出す。彼は、もう水田を、稲を、見たくなくてあの大地から水を抜いてしまったのだ。
(あの時の感情が流れてきて苦しいな……本当に視界に入るのが苦痛で消し去りたかったようだ。いまから何年前の出来事なんだろ)
創造主の気持ちに寄り添おうとすると、共感しすぎてしまうようで自分も辛くなる。気がついたら体調不良アラートが鳴り、カウチに寝そべったままログアウトする。
現実世界に戻ってきてからもなんだか気分が優れず、すぐに就寝した。
…………………………
その週の土曜日の昼前、大和は一週間ぶりに会った夜都の顔色の悪さに驚いた。
「今度は何があった?昨日はログインしなかったよね?」
「ああ…会ったら話そうかと思って」
そのタイミングで玄関のチャイムが鳴った。
それは午前便指定の宅急便で、先週雨の中選んで購入した何点かの植物と植え替え用のプランター類。顔色の冴えない夜都のために、昼食後に大和が植え替えを手伝うと申し出てくれた。
「ポーションは何か飲んでる?」
「ああ、混乱の状態異常回復が効くんだけど、夢の事を思い出すとまた滅入ってきて…夢は追体験みたいなのだけど、感情をわりとダイレクトに受けるみたいでさ」
「それは、創造主の?」
「そう。なんか辛い、もう水田を見たくなくて。これ何?」
「その能力、そこまで引きずられるんだ…それは……」
暫く考え込んでいた大和が何かに思い至ったようで話し出す。
「それは、辛い気持ちの他に何かない?日本に、家に、帰りたい、とか」
「!!ホームシックか、そっか…そうか……」
「どういう事情か、そして今どうしているかわからないけど、ずっと地球に帰れなくて苦しんでたのかな。箱庭から出れない、歳をとらず、永遠にこのままかも、って思ったら俺も辛くて堪らなくなる」
「そっか…、創造主の望みは地球への帰還と、有限の命、なのかな」
「でも、日比谷がそれに引きずられてはだめだ。創造主の行動は知りたいけど、上手くコントロールしないと!」
理由がはっきりわかってすっきりした表情になった夜都を見て、大和は内心、安心しつつも、別のことで不安になった。新しい職業のこともあり、もしかしたら夜都は“創造主の資格“があるのではないか、と。




