39.依頼主
失恋した夜都は、翌日から吹っ切れたように仕事に専念した。こういう時にやることがあると助かる、と思いつつ、ある意味いつも以上に充実した日々を過ごした。
3日ほど経った日、大和からクエストの依頼品の受渡日が決まった、と連絡を受けた。その週の金曜の夜22時頃と急だが、依頼主がなんと始まりの町の町長だったそうで、大和もなんとか予定を合わせて立ち会いたいとのこと、仕事を持ち込んで夜都の家に金曜の夜から泊まりにくることになった。
大和はレイナにも連絡して、ログイン時間を合わせてくると返事を貰った。
「お前、大丈夫か?あげたジンジャーティ飲んだ?」
夜都は、相変わらず疲れた顔をした大和に心配になった。
「ああ、実は少し残して冷凍してみたんだけど、効果が落ちちゃったみたいだね」
「そうなるかも。ゲームの中でも、ポーション類は徐々に効果が落ちていくんだ。そのために専用の瓶があってさ。薬師は瓶の生成もできるんだけど、それに入れると効果が全く落ちなくなる」
「それはいいね。でも錬金はまた特殊能力でしょ?」
「そう、設計図と素材、そして『錬金』って呪文で作れる。設計図と素材はともかく、特殊能力だとこっちじゃむりだな……」
「まあ、2、3日は効果があって助かったよ」
「じゃあちょっと今作るからまって、ジンジャーティ。それから夕飯と風呂、22時に間に合わせよう」
二人は約束の時間までに手早く用事をすませる。3時間フルに使うかわからないが、準備しておくにこしたことはない。
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「やあ、私がこの町の町長 クラウス・ヴァルターだ」
町長は滑らかに話し始めた。先日と同じギルド長室で、夜都達3人とギルド長が町長と対面した。
「君たちが立ち会ってこの中身を知りたい、と聞いてうれしく思うよ。これは名工を多く輩出したシルワ村で代々受け継がれていた魔道武器鍛治師のための道具だ」
そのことばにレイナが目を輝かせる。町長が小箱に手を翳すと箱自体がやや光り出してゆっくり蓋が開いていった。大和は、密かに箱のほうではなくクラウスを注意深く見ていた。
「綺麗!鋳造用のハンマーだわ!」
思わずレイナが感嘆の声をあげた。中には全く経年劣化を感じさせない、持ち手に装飾を施したハンマーだった。
「このハンマーを正しく使いこなせるようになると、魔道武器が作れるようになる。ただ、使用し続けると耐久度が落ち壊れてしまうため注意が必要だ。また、このハンマーも魔道武器として取り扱われているため、更にハンマーも作り出せ、魔道武器鍛治師を産み出せる。このように継承されなければいけないのだが―――おそらくこれが最後の一本だ」
「はい!!クラウス町長!私にこのハンマー、継承させてもらえませんか?」
「レイナと言ったか、必ず他の鍛治師にも継承できる自信はあるか?」
「はい!私はずっとなりたいと思ってました!ぜひ成し遂げてみせます!!」
(あれ……なんか違和感?大和もちょっと不思議な顔をしている。いや、王道RPGぽい展開だし問題なさそうだけど)
結果、このハンマーの件はレイナのクエスト扱いになった。達成条件は、魔道武器鍛治師への転職と更なるハンマーの製造と継承、報酬としてこのハンマーの所有権、期限は2週間。
「クラウス町長、最後に質問があります」
予定していたとおり、大和が聞きたかったことを尋ねる。
「話はギルド長から聞いているよ、ヤマ。シルワ村が廃れた理由、だったね?」
「はい」
(うん、いつもどおりの大和だ。AIにも分け隔てなく接している)
「あの村は今でこそ森林に囲まれて自然豊かな環境にあるが、昔、あの辺り一帯は砂漠化したんだ」
「「え!」」と、夜都とレイナは思わず声をあげた。だが、大和の様子は変わらない。
「ヤマ……君は知っていたようだね。あの村より更に西南西に行くと森が切れて砂漠が広がっている。砂漠に飲まれた時、あらかたの物は運び出し、鍛治師のハンマーも他のエリアに住む鍛治師に引き継がれていったのだが、それが途絶えてしまってね。だが最近になって、あと一つが残されていることが判明した。その箱に書かれた"エマ"の手記を子孫が見つけたのだ」
「で、では……本当はそのエマさんの子孫にこれをお渡ししないといけないのでしょうか?」
恐る恐るレイナが尋ねる。
「いや、残念なことに子孫は鍛治師の血を引き継がなかった。この依頼は私が出していて、情報をくれた対価はこの箱だけだ。その魔道武器は君が持っていきなさい」
「は、はい!ありがとうございます!」
「ヤマ はもういいかね? クラウス 町長は大変忙しい方でな」
ギルド長にそう言われ、話はそこまでとなった。レイナは早速試してみたいようで、自分の工房にゲートで飛んでいった。夜都と大和も、同じ東の町アルマにある夜都のホームへと向かった。
…………………
「馬車で行けば途中一回ログアウトしてから着くかな」
「じゃあ、今度こそのんびり進んで行こうね」
二人は、前回よりも小さな二人乗りの馬車を借りて東へと向かっていった。




