35.過去の遺物
やっと地図の方角が明らかになったところで、夜都が最初に立てた目印に向かった。
そこまでいけば、近くにある"鍛治屋"が見つかるはずだ。
鍛治屋があったと思われる場所には、中心地と異なりほとんど目印となるものがなかった。その周辺一帯に木片と藁が散らばっていて、それらはほとんど土に還った状態だった。しかし鍛治師ゆえか、レイナが武器類や金属片が混ざって埋もれているのを発見した。
なおクエスト受注書によると、件の遺物以外は持ち帰ることに問題がないそうで、鍛治師のレイナは参考にいくつかもっていこうと選びはじめた。もっとも、腐食して使えないものが多かったが。
そして、そのすぐ側にレイナの予想通り井戸の跡があった。どうやら鍛治師は水を大量に使うため井戸を併設していることが多いのだとか。
この廃村の井戸は、四角い口径の木枠で作られた井戸で、地上部分は崩れて風化していた上、土と雑草で覆われていたが、少し掘ると井戸の内部の木枠が見えてきた。
「相当前に廃れた村だったんだな。井戸が土砂で完全に埋もれている。ヤマ、これ、お前の魔法で掘れないか?」
「うーん、攻撃魔法だから目的の遺物を壊してしまうかもしれない」
「あら、力仕事なら私に任せてよ!」
レタスが手袋をはめて土を掘り返し始めた。夜都も職業柄畑仕事をやっているから、と一緒に土をどけていく。すごい速さで井戸の中の土砂が取り除かれ穴が深くなっていく。大和は、取り出した土山に優しく風を当てて中に土砂以外のものがないかを探す。
ふと夜都は疑問に思った。
「……これって、本当はかなり時間をかけてやるクエストだったのか?」
「かもね、でも元々俺のチュートリアルクエストの一つだったし、一人でゆっくり進めることもできる内容なのかな」
「そういや、しばらくモンスターをみてないな」
「そういえばそうだね。ってことは……」
「「今気がついたの?!」」
レタスとレイナの声が揃った。二人は意外そうな顔をしていた。
「初心者のヤマちゃんはともかく、ヨルくんが気がつかないとは。ここはセーフティゾーンよ。まだ村としての機能が残っているのよ」
「なるほど、だから受付はヤマにこれを薦めたんだ」
「そうね、安全だから時間をかけてゆっくり探してね、という意図かもね、――っと、やったわ!何か掴んだわ」
レタスが手に掴んだものを慎重に持ち上げ、地面にそっと置いた。中から両手のひらサイズの宝箱のようなものが出てきた。その箱は驚いたことに、土で汚れてはいたが劣化していなかった。
「なんか高級そうな箱が出てきたな。ヤマ、これが探し物であってるか?」
「クエスト受注書には、"20センチ四方の小箱、箱の底裏にエマへのメッセージが書かれている" だそうだよ」
「わたしがそーっとひっくり返してみるわよ」と手袋をはめたレタスが気を付けながら返していくと、"愛する娘 エマ 鍛治師からの転職のお祝いに" とメッセージがあった。
「うっわ~、このメッセージ気になる。鍛治師からの転職、ってわたしのためにあるようなものじゃない!?」
転職先に迷ってたレイナがそう言うと、大和が苦笑いして応えた。
「すごいタイミングだよね。まるで、レイナがこのクエストに参加したからこれになった、みたいな。ギルドに提出するとき、レイナに見せられないか交渉してみよう」
「わたし!クエスト達成の報奨いらないからぜひ見てみたい~っっ」
いつもと違い珍しく必死な様子のレイナに、全員で話し合って、なんとかならないかみんなで協力しよう、といういう事になった。
無事、ミッションを達成した後、まだ1時間ほどログアウトまで残っていたため、レイナは鍛治屋の発掘の続き、夜都とレタスは目印の薬草畑の採取をすることにした。
「あ、レタス、採取は全部取りきらず、残した株にこれをかけておいてくれない?」
「ok、ヨルくん。これ何? 水?」
「この水はうちの畑でまいてる水だよ。マリリンが造った水遣り人形が生成したんだけど、何となく生育がいいみたいなんだ」
「何それ、すごい。あれって試作品とかいってたわよね。私には造ってくれなかったのよ。ちょっとマリリンに買えないか聞いてみる!」
「いやさ、生育に違いを感じ始めたのは最近だから勘違いかもしれないけど、あのギミック便利だし可愛いからオススメだよ」
夜都は、ホームを出発する前、成長が早いことに気がつき、お試しで水を汲んできたのである。思いつきだが、ここの薬草畑で実験してみたくなったのだ。
……………………………
すべての作業をすませ、いざ町へ戻ろうと馬車に向かおうとしたとき、大和が思いがけないことを言い出した。
「あのさ、ここってゲートはないのかな?」
「そういえばその可能性はある!」
「でもヨルくん、ここのセーフティエリア内でゲートの光はみかけなかったわよ」
「レタスちゃん、わたし荷物が多いからゲート使いたい~」と、鍛治屋での重い金属製の発掘品を持ち帰るレイナが呻いた。
「光はみかけなかったけど確認したいことがあって―――ヨル、さっき跡地の中心にいたとき何かに気がつかなかった?」
「いや……あそこだけ建物の骨組みがわりと残ってるなあと。何、ゲートがあるかもしれないのか?」
「ゲートは2メートルの高さの光で囲まれた円柱だよね?地下にも設置できる?」
「!! 可能だと思う!」
大和の言葉に、夜都はあることに気がついた。あの場所は床材も残っていたのだ。つまり、地面はまだ確認していなかった。
みんなで中心地へ向い床材を確認すると、地下におりる階段が見つかり、そこには食糧庫のようなスペースがあった。
「やったー!ここからすぐ町に帰れる!!」
「それだけじゃないわよ、レイナ。いつでもここに来ることもできるのよ♪」
「ゲートが自由に使えれば、ここは以前みたいに人が集まって集落ができるかもしれないな」
「そうだな、ヤマ。俺はここでも薬草畑を育てていきたいな。レタス、共同で畑を管理しないか?」
「いいねえ、ヨルくん♪」
その日は、予想以上に良い成果がでて、みんな上機嫌で町へ戻っていったのであった。




