30.共感覚
「呪文ね、今使っても意味ないじゃん」
「ふ~ん。使えそうな状況ならokだと」
「う、うん……そだね……」
そんな会話が続くなか、目的のウェアウルフが三匹現れた。
「お、出た出た。がんば、れ……?」
ヤマは先ほど覚えた雷魔法をすぐに唱え、三匹まとめて葬った。
「…今、何て唱えた?」
「今のは、落雷。さっき見せた"雷撃"の魔法ね。討伐証明部位を切り取るんだよね」
「あ、ああ……。うわっ、真っ黒焦げだな……」
「まあ大丈夫でしょ。右耳を切り取って、クエスト達成!よし帰ろう。帰り道は少し森に入っていけば採集できるんじゃない?」
「はいはい、薬草感知のヤツね。わかったよ。笑うなよ。お前が考えたんだからな!」
いい加減諦めた夜都は、目を閉じてから深呼吸をして集中力を高める。そして、目を開けてから軽く手を広げて呪文を唱えた。
『薬用植物嗅覚感知』
唱えたとたん、身体からふわっと半透明の薄いバリアが広がっていくような感覚がする。
(まるでこの辺り一帯を自分のテリトリーにしたみたいだ)
この能力は熟練度があがり、少しの間なら歩きながら範囲も動かして使用できるようになった。夜都はそのまま繁みの中を歩いていく。
「―――見つけた。ついてきて」
少し方向を変えてさらに歩いていった先には、薄い紫色の小さな花があった。
「ジン草、これはうちの畑には根付かなかったヤツだ。根のところがHPポーションの効果をやや高めてくれる。一応、土ごと持って帰ろう」
「ヨル、詠唱スペルを短くしたね」
「いやだって、長くて覚えられないし。植物とか限定する部分は、どうせ今後も植物しか感知できないからなくてもいいかな、と。っつーか、何あれ!? 豊穣の女神より下賜するとか御使いとか……あれいる?」
「日本語バージョンもあったでしょ?そちらもオススメだったのに」
「……いや、考えてくれたのはありがたかったけどさ。それにしても、現実にも"共感覚"なんて言葉があるんだね。意味を調べたらびっくりしたよ。俺と似てるなって」
「ああ、匂いを人と違うように感知しているところがね。ヨルのはちょっと複雑だけど。まあ、元々そういった下地があったのかもね。それで特殊能力が開花した、と」
「そうなのかな。あ、話が変わるけど」
夜都がそこまで言ったとき、近くでガサガサっと何かが動く音がした。二人がすぐ音のほうを向くと―――
「ヨル!!」
「え!?夕依!」
そこには、シルバーの鎧を身につけた夕依がいた。
「なんでこんなところに?一人で?」
「そう、レタスさんから聞いてこっちに来てね、知り合いのプレイヤーがたまたま、ヨルが南門のほうに向かっていくのを見たって教えてくれて……ごめんなさい、迷惑だったかな?」
「いや会えて嬉しいけど、よくここがわかったな。街道から逸れてるだろ?」
「さっき雷が落ちたような大きな音がしたからこの辺で何かあったのかと注意して歩いてたら偶然見つかって」
「そっか、無事会えてよかった。ユイ、彼は新規プレイヤーのヤマ。 ヤマ、ユイは生産職の護衛としてよく一緒に遊んでるんだ。最近会えてなかったけど」
「初めまして、ヤマさん。正騎士のユイです。私とも仲良くしてくださいね」
ユイがニコッと笑顔でそう言うと、ヤマもにこやかに返した。
「こんにちは。ヤマ、でいいよ。俺もユイって呼ばせてね」
「たぶん私のほうが年下ですが、ヤマ、って呼ばせてもらっていいですか?」
「うん、敬語もいらないよ」
二人の挨拶を見て、夜都は複雑な気持ちになった。所謂リア友とネットの友達。こうやって繋がったとき、ネットでの自分が現実と違ってたら、大和はどう感じるだろう。
(ま、大和も、自分のことを時々"俺"じゃなく"私"って言うし、状況に合わせて多少変えてるんだろうし)
きっとみんな一度は通る道だ、と気を取り直した。
始まりの町へ戻る道中、夜都は夕依に、なんで自分を探していたのかを尋ねた。
「えっと、ね。こないだ久しぶりにチャットで話せたけど結局ヨルはダイブしなかったでしょ?他のみんなとは会えて一緒に遊んだりしたけど、ヨルとも久しぶりに会いたくて……」
「!!」
夜都は顔が赤くなるような衝撃を受けた。
(そうだ、夕依はいつも気持ちの伝え方がストレートなんだよな。他意はない、他意はない……勘違いするな俺……)
「嬉しいな。今日は町に戻ったらもうログアウトする時間になっちゃうけど今度遊ぼうな。よかったらヤマも一緒に。ヤマ、いいよな?」
「ああ。そうだ、ユイ、フレンド申請していい?」
「もちろん!じゃあみんなでどこか出掛けましょう!臨時パーティーとかどうかな?」
「そうだね。まだチュートリアル受けたぐらいだから、少しゲームに慣れたら連絡するね」
二人が仲良くなれそうでよかった、と夜都は安心して、三人で出かける予定を考えていたが、大和はにこやかに話しながらも、観察するようにユイから目を離さないでいた。




