【10】シンプルだけど効果的な方法
窓のある側、ちょうど御園君が倒れている方に、柳君の死体を移動させた。
運搬を担ったのは、頭数が減ってしまった男子陣、平之季君と、丹藤君だ。
丹藤君は、声を出さずに泣いていた。柳君の親友だと言っていたから、ショックも大きいだろう。
雪見ちゃんと、マホちゃんも泣いている。
不覚にも、私も泣きそうになった。泣いたってしょうがない。憐憫に浸るより、頭を働かせた方がいい。
だけど、やっぱり柳君は可哀そうだった。
『オッケー! 処刑完了~! じゃあ、早速、次はみんなの投票だよ~』
しんみりした雰囲気をぶち壊すように、投票パートに強制シフトさせられる。
ピエロの指示にしたがって目を閉じながら、私は考えた。
リホちゃんは『暴君』だろうか?
あるいは、皆に『暴君』と認定されるだろうか?
さっきの平之季君の命令よりも、酷い。
もし、臣下の柳君が命令に従ったら平之季君が殺されてしまうし、命令に従わなかったら、やっぱり柳君が処刑されてしまう。
つまり、どっちに転んでも、人が死ぬ。
しかも、最初の命令は「この部屋の男子全員を殺すこと」だった。悪意────いや、害意に満ちている。
これでリホちゃんが『暴君』ではないと擁護するのは、無理な話じゃないか?
私は、眼を閉じながら、挙手した。
袖が擦れる音、だろうか。他の人も挙手した気配を感じた。
『はい、手はそのまま~、皆、眼を開けて~』
眼を開く。
何人かが手を挙げている。もしかして、全員一致? と思ったら、マホちゃんだけが手を挙げていなかった。
────おおっ! そう来たか。
不謹慎ながら、私は興奮するような気持の昂ぶりを感じてしまった。
『ということで、今回の王様は暴君ではありませんでした~』
どうやら、リホちゃんとマホちゃんはコンビを組んだらしい。
おそらく、リホちゃんとマホちゃんで「私達は、最後の二人になるまで協力し合おう」と戦線を組んだのだ。ちょっと前にしていた内緒話がそれだろう。
単に仲良しの二人組でマホちゃんが挙手しなかった、という事も考えられるが、それだったら、リホちゃんの強気の命令の理由がない。
酷い命令をする王様は、次の投票で『暴君』とされる可能性が高まる。
だから、2人で協力してかばい合うと言うのは、シンプルだけど効果的な方法だ。
もちろん誰でも思いつく単純な作戦だけど、この忙しない攻防の中でその対応をした、というスピード感は十分に評価に値する。
「嫌だな。もう少し、平和的に行こうよ」
と、平之季君が言った。
「は? どの口提げて言ってるの? 最初に人を殺したのは、あんたでしょ」
リホちゃんのあからさまに攻撃的な口調に周囲が凍る。
「だから、俺は、様子見のために汚れ役をかって出ただけだって。リホちゃん、マホちゃんは、これからもその姿勢で行くわけ? それって、覚悟の上なんだ?」
「何がよ」
「だから、リホちゃんとマホちゃんが組んで、どっちかが王様になるたびに、自分たち以外の誰かを、一人ずつ殺していくって作戦なのかな、って」
そうだ。
その作戦にするとゲームの勝敗は限りなく二人に有利だ。
もちろん、最後の二人になった後は、運を天に任せてどちらかが死ぬわけだが。
「だとすると、俺達だって黙って順番に殺されて行くわけにいかないから、当然、反撃するわけじゃん」
平之季君は相変わらず飄々としている。あるいは、この状況を楽しんでいるのではないかとすら、思わされる。
リホちゃんは、言葉を返さなかった。
たぶん、返せなかったんだ。
────図星、ってことなんだよね。まさかとは思うけど、反撃にあう場合の対処を考慮していなかった……のかな。
ベネフィットとリスクは表裏一体だ。バランスを考えないと、破綻する。
「リホ……」
マホちゃんがリホちゃんの服の裾を掴む。
「そんなつもり、ないよ。それに、そんなことしたら、またやり返されるだけよ」
リホちゃんは、平之季君に反論したが、無理矢理出したみたいな言葉で、あまり深い意味があるとは思えなかった。
────次のパートで、リホちゃんマホちゃん以外が王様になったら、リホちゃんかマホちゃんを標的にするのが自然な流れだけど……。
今、ヘイトの対象になっているのは、リホちゃんマホちゃん、そして一見敵対しているように見える、平之季君くらいだ。
私と雪見ちゃん、丹藤君はほぼ同じレベルで危険要素がない。
ただ、私はK大学の生徒でもなく、この場ではほぼ部外者だ。
友達と呼べるような味方がいないのは、大きなハンディキャップになっている。
誰でもいいから誰か殺そう、となれば、やはり知人ではなく、コミュニティ外の人間を選ぶだろう。
例えば、雪見ちゃんが誰かを殺そうとして選ぶなら、有害無害に関係なく、リホ、マホちゃんよりも、私を指定する可能性は高い。
ただ、人間の内面というのは複雑で、ましてや今日、初対面の相手の心の内は推測も難しい。
「ほら、くじ引き、始まってるよ。俺から引くよ」
さっきまで一番手だった柳君がいなくなったので、平之季君がタッチパッドを持ち上げた。
「これって、タイムアウトするまで誰も引かなかったら、どうなると思う?」
「さぁ。試しに、やってみる? その場合は、全員が命令違反になるんだよね。流石に全員処刑でゲームオーバーってことはないだろうから。ランダムで誰か一人処刑されるかもよ」
「全員処刑もいいかもな。さっさと終わらせられる」
だいぶ投げやりに、丹藤君が答えた。
男子2人が続けてくじを引き、その後、リホちゃんとマホちゃんが引いた。




