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犯人確保と小さな棘

 アドルフ叔父さんが僕の言葉を聞いて仰天する。


「なんだって!?」


 再び会場がざわつく。


「アルフ、本当なの?」


「多分、間違いないよ母さん」


「おい小僧。適当言ってるなら容赦しないぞ」


 ヨハネスがまた何か言っているが再び無視を決め込む。


「毒はさっきヨハネス叔父さんがぶつかって落ちた包丁に塗られていました」


「本当なのか!?」


 アドルフ叔父さんが驚愕すると、ヨハネスは鼻で笑う。


「は! 何を馬鹿な。いいことを教えてやろう。あの包丁で両断された肉は、父上と、そして私が食べた。この意味が解るか? 包丁に毒が塗られていたなら私も毒で苦しんでいる筈だ」


「その通りです」


「だろう?」


 あの包丁は一度しか使われていない。


 そして、その一度しか切っていない包丁に毒が塗っていたのなら、お祖父ちゃんが食べた肉と反対側の肉に毒が付着している筈。


 それが解っていて、ヨハネスは余裕の表情を崩さない。


「でも、片面しか毒が塗られていないとしたら?」


「・・・何・・・」


「右側面にしか毒が塗られていないとしたらどうでしょう? 右側面を食べたお祖父様には毒が付着していて、左側面には毒が付着していないから叔父さんは無事だった。つまりはそういうことでしょ?」


 ざわざわと、ヨハネスに注目が集まる。


「出鱈目をいうなよ小僧!」


「あからさまだね。包丁は予め用意していたんだろう。で、だ。後でいいって言ってたお祖父ちゃんに、無理に肉を渡したのは誰だ? その後に、わざとコックにぶつかって毒入りの包丁を床に落としたのは?」


 今度は全員が完全に疑いの目で、ヨハネスを見る。


「ふざけるな! コックが強く包丁を握っていて、落とさなかったらどうなる!?」


「その時は、理由を付けて自分が食べなければいいだけの話」


「・・・」


 遂にヨハネスは黙りこくった。


「ま、待ってくれアルフ」


 この推理にアドルフ叔父さんが待ったをかける。


「もし、コックが包丁を落とさなければ、理由を付けて食べないヨハネス以外の全員が毒入りの肉を口に入れることになるぞ」


「「「あっ!!!!」」」


 やっぱり叔父さんは聡明だね。


「その通り。つまり、この人は全員が死んでもいいと考えていたんだ!」


 ざわ。


 もう周りはヨハネスを犯人だと解っている。


 そしてそれは、本人も解っているだろう。


 彼は小さく、小刻みに笑った。


「その通り。全て私が仕組んだ」


「ああ、ヨハネス。どうしてこんなことを」


「ふっ、決まってますよ母上。父上が死ねば家督を早く継げる」


「馬鹿な。お前は次男。次に家督を継ぐのは俺だ!」


 そうアドルフ叔父さんが言うと、ヨハネスはくつくつと笑う。


「だったら、あんたも殺せばいいだろう!」


「ヨハネス・・・」


 僕はまだ、こいつの普段の人となりを掴めてないけど、顔見知りにとっては豹変といっていいのだろうな。


 さっきも僕には横暴だったけど、他の人には丁寧に対応していたし。


 だけど、これがこいつの真の姿ってわけだ。


「本当に、全員殺しても構わないと思っていたの?」


 母さんが震えた声でそう尋ねると、意外にもヨハネスは首を振る。


「いいえ、あなただけは助けるつもりでいましたよ姉上」


「・・・どうして?」


「あなたを愛しているからだ。一人の女性として!」


 げ、こいついきなりカミングアウトしやがった。

 きめぇ。


「な、何をいっているの? 私達は兄妹」


「そんなもの、愛の前には関係ない!!」


 いや、あるだろ。

 思い切り近親相姦じゃあないか。


 いや、貴族ならありなのか?

 知らんけど。


「もし、全員の肉に毒が付くことになれば、適当なことを言って食べないように促すなり、皿を落とすなりするつもりでいた。全ては愛ゆえに!」


 また出たな愛。


 そんな万能の言葉じゃないからな?


「あなたもあなただ! 私の愛に気がついていながら、あんな下民と駆け落ちして」


 もうツッコミを追いかける脚が疲弊してきた。


 そんなの気がつくわけが無いだろうが!


「だから私は山賊に金を渡した。姉上が戻って来ると思って!」


 ・・・おい、今。


「・・・なんて言った? 今なんて言ったのヨハネス!!!!」


「ふっ、こうなったらバラしますがね。あの男を殺す為に、山賊に依頼をしたのは私ですよ。姉上だけは殺すなと厳命してね。だと言うのに、何があったのか奴らは失敗した。やはり下賤な山賊。どうしようもなく使えない奴らだっ」


「ゆる、さない。あんたを許さない!!」


 母さんが今まで見たことがない形相でヨハネスを睨んでいる。


 多分僕もそうだろう。


「こうなっては、あなたが俺を愛する可能性は限りなくなくなってしまった」


「ふざけんな! 初めからあるわけがないだろうが馬鹿が!!」


 僕が叫ぶと、あちらを凄い形相で睨み返して来る。


「うるさい! 混ざり物の雑種は黙っていろ!」


「てめぇ」


 怒りが頂点に達しようとした時、どうやらあっちの方のぷっつんが早かったみたいだ。


「こうなったら姉上! あなたをここで殺す! 天上では必ず我々は繋がる。きっと!!」


「ヨハネス!?」


 胸に忍ばせていたナイフを取り出すと、ヨハネスは母さんに向かって走り出す。


 やばい!


 迷っている時間はなかった。


 僕はヨハネスの足に雷撃の魔術を撃ち飲んだ!


「ぐぅ!? な、何だとぉ!」


 ダメージを受けて、ヨハネスはゴロゴロと床に転がる。


「取り押さえろ!!」


 アドルフ叔父さんの命令で、警備していたお抱え兵士達がヨハネスを押さえ込んだ。


「ぐおお、離せ、離せぇーー!!」


「はあぁ~~」


 僕は再び大きく息を吐いた。


 濃い。

 なんて濃い一日だ。


「この男を監禁しておけ」


 そうアドルフ叔父さんが言うと、兵士は素早くヨハネスを連れて行った。


「く、くそぉ! 覚えていろよ小僧ぅー!」


 その後で、全員が僕を見た。


 あ、やべ。


「ああ、またあなたに助けられたわ。アルフ。可愛い娘を助けてくれてありがとう」


「本当に凄いな君は。あの一瞬で適切に魔術を使うとは」


「や、やめてよお祖母様、叔父さん」


 それからも僕は会場にいた人達に称賛され、揉みくちゃにされた。


 ただ一人を除いて。


「・・・アルフ。あなた」


 ・・・母さん。


 その後のことはよく覚えていない。


 慌ただしく後処理があったけど、僕には関係の無いことだ。


 そんなことよりも、母さんのことがずっと気になっていた。

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