事件です
しばらくして、話も終わったのか母さんが戻ってきた。
ありがたい。
子供は僕しかいないし、ハッキリ言って暇だ。
お祖父ちゃん達はチラチラこっちを見てるんだけど、やっぱり侯爵となると忙しいのかな。
他の貴族の相手で忙しそうだ。
僕としても初めて会ったお祖父ちゃんお祖母ちゃんと、どう会話していいか分からないし、無理に話しかけてくれなくてもいい。
「さあ、メインディッシュです」
そんな声が聞こえ、コックの一人が大きな牛肉を会場の中央に置き、はじっこから包丁で切り始めた。
「おおぉ」と、会場から感嘆の声が漏れる。
凄いね、あの肉、きっと滅茶苦茶旨いぞ。
僕はよだれが垂れそうな口を抑え、自分の番が回って来るのを待つ。
一切れ切ったところで、ヨハネスがその肉をフォークで取った。
「さ、父上」
「ん? わしは最後の方でいいぞ。この歳になるとあまり肉はな・・・」
「ですが、侯爵である父上が最初に皿を取らないと、皆食べにくいでしょう。一応皿に取るだけでも」
「・・・うむ。そうだな」
そう言って、ヨハネスはお祖父ちゃんに肉の乗った皿を渡す。
その拍子にコックが持っている腕にぶつかり、包丁が床に落ちてしまった。
「おい、気を付けろ」
「し、失礼しました・・・」
今確実にヨハネスからぶつかっただろう。
お祖父ちゃんにはおべっかを使うくせに、下の者には横柄な奴だ。
まあ、嫌な奴は気にしないでおこう。
新しいナイフが用意され、僕達は美味しい肉に舌鼓を打った。
料理もあらかた食べてしまった。
いやー、美味しい。
凄く旨いけども、ずっと一人で食べ続けるってのも、それはそれで悲しいし、そろそろ帰りたい。
母さんが僕の方に来て、素直にほっとした。
「疲れた?」
「というか暇」
「まあ、そうよね。わたしも肩凝ったー」
「そろそろ帰れない?」
「そうね。正直わたしも帰りたいんだけど、お父様の顔を立てておくわ。アルフは会場の外で待っていてくれてもいいけど」
「んー、そうしようかな」
僕も肩が凝った。
そうして、僕が会場から出ようとしたその時、
「ぐああああああああああああ!」
「きゃーーーーーーーー!!」
そんな、苦しみもがく男の声と、女性の悲鳴が会場に響いた。
会場の全員がその悲鳴の方へと駆け付けて、目を見開いた。
アルベルト侯爵だ。
僕のお祖父ちゃんが、苦しそうに喉を掻きむしっており、口からは泡を吹いている。
「あなたーーーー!!」
「お父様!!」
お祖母ちゃんと母さんが悲鳴を上げた。
これは、毒か!
不味いぞ。
速攻で手当てしないとこれは死ぬ。
僕は近づいてすぐに解毒の魔術をかけた。
すると、幾分かお祖父ちゃんの顔色がよくなる。
くそ、前世の記憶が完全に戻っていれば、こんな毒完全に治せるのに!
皆、動転しているのか、誰も僕の魔術には気が付いていない。
よかった。
目立ちたくはない。
「毒だよ。すぐに吐かせて胃を洗浄して! 今ならまだ助かる!」
毒。
僕の言葉に、会場には更なる緊張が走る。
「医者はいないのか。すぐに手当てしないと死ぬぞ!!」
今は茫然としている暇なんてないんだよ!
大声を出して活を入れてやる。
大人たちはハッとして、ようやく動き始めた。
吐き薬や水を持ってきて、胃を洗浄。
流石、上流階級のパーティーだけあって、魔術師もいるみたいで、すぐに解毒の魔術もかけられた。
これで一安心だ。
本当に危機一髪だった。
へなへなと、僕はその場にへたり込んだ。
「アルフ。ああ、アルフ」
「ん?」
お祖母ちゃんと母さんが僕に抱き付いてきた。
凄い力だ。
ちょっと痛い。
「ありがとう。本当にありがとう! あなたがすぐに対応しなければお祖父ちゃんは死んでいたわ」
「うん。凄い、凄いよアルフ!」
「い、痛いよ二人とも。僕は大声を出しただけだって」
まあ、解毒の魔術を使ったけども。
「本当に、よかったよ」
「へへへ」と、力なく笑う。
本当に力が入らないや。
「全員動かないでいただきたい!」
アドルフ叔父さんが大声を張り上げた。
「これは毒だ。つまりはこの会場に父上に毒を盛った人間がいるということだ」
ざわり。
会場がさっきとは別のざわつきを生じさせた。
一体誰が?
全員が周りを見渡す。
この中に毒殺を目論んだ犯人がいる。
ヨハネスは堂々と口を開く。
「兄上、探すまでもないでしょう。犯人は厨房にいた誰かですよ」
妥当だな。
毒は料理の中に入っていたのだろう。
「最後に父上が食べた料理は何ですか?」
ヨハネスはお祖母ちゃんに問いただすと、お祖母ちゃんは床の皿を指した。
「さっき切った牛肉よ」
ざわり。
「そ、それはこの会場にいた全員が食べたんじゃないのか!?」
「じゃ、じゃあ我々にも毒が!?」
会場はパニック寸前だ。
「落ち着いていただきたい」
そう言ったのはアドルフ叔父さんだ。
「父は胃が弱くなっており、肉は最初に配られましたが、食べたのはさっきです。この毒は恐らく即効性。つまりは、皆さんの肉にも毒が入っていれば既に父のような症状が出ている筈です」
その通り。
よく見てるね叔父さん。
「じゃ、じゃあ。別の料理なのか?」
「侯爵だけが食べた料理、あるいは飲み物はあるか?」
「わ、判らん」
再び会場がざわつく中、僕は床に這いつくばり、何か手掛かりになるものがないかを探していた。
「アルフ。せっかくの礼服が汚れてしまうわ」
「うん。でも母さん。服は洗えばいいけど、ここで証拠を見つけないと手掛かりは永遠に失われるかもしれない」
僕はさっきヨハネスがぶつかったせいで落ちた包丁の傷跡に目がいった。
そこにはよく見れば、毒々しい色の何かが付着している。
気化すると色が出るタイプの毒か。
割と深く刺さったんだな。
何かもっと分からないだろうかと、じっと観察すると、あることに気が付いた。
「毒が付いているのは右側面だけだ」
左側面には色が付いていない。
待て、このトリックも僕の知識にある。
僕は振り返り、お祖父ちゃんが落とした皿を見た。
「それに触らないで!」
正に片付けようとしている皿を、僕は大声で止めた。
「アルフ、どうしたの?」
「よかった。肉は半分しか口に入れてないな」
母さんの質問に答える間も惜しく、僕はその肉を拾った。
「おい、貴様何をしている!?」
ヨハネスが僕を咎めるが、無視。
「アルフ。君は何がしたいんだい」
アドルフ叔父さんが優しく問いかける。
そこで初めて僕は解説を始めた。
「毒の盛り方が分かりました」




