箒乗り
「遅刻ですよ。ミスターアルベルト」
「すいません。遅れました」
僕は多少息が上がった状態でなんとかクラスに合流した。
この人が杖乗りの先生、レスティーナ先生か。厳しそうな人だ。
「早くあなたも仲間に加わりなさい。・・・待ちなさい。それは何です?」
怪訝な顔をして見つめる先には僕がさっき持ってきた一本の箒。
「箒です」
「ですよね? それをわざわざ取りに行ったのですか? なんのために?」
「あ、僕杖じゃなくてこの箒に乗ります」
「は?」
レスティーナ先生が口をポカンと開けた。
自分にも厳しそうな先生の見せる素の表情であろう。
僕が何を言ったのか、一瞬理解できなかったらしい。
そして、それはクラスメイトも同じようであった。
「アルフ。お前何言ってんだ? 箒に乗るって言ったのか?」
「マジかよ。何考えてんだ?」
「お前さ。人と違うことやるのがカッコいいとか思ってねぇ?」
「ぶはは、ウケる。箒とか。なんだよそれ何百年前の魔術師だよそれ」
思い思いに感想を言い合い、全体的に僕をけなしている。
見た限り僕を肯定してくれる人間はいなさそうだ。
見れば、メリアもリゼもさもありなんといった様子で僕を見ている。
まあ、別に構わない。
誰に何を言われようと気にしない。
僕は僕の意地を通すだけだ。
「静かに。静かにしなさい!」
レスティーナ先生が声を張り上げて場は静寂を取り戻す。
だが、先生は目元をぐりぐりと手を当てて、大きくため息をつく。
「ミスターアルベルト。本気ですか? そのなんのへんてつもない箒で空を飛ぼうというのですか? それ、ただの掃除用の箒でしょう?」
「はい。そうです」
僕が真面目に返すと呆れとわずかな不快感を滲ませながら、レスティーナ先生は首を横に振った。
「許可できません。今は杖で空を飛ぶ時代です。箒なんて・・・時代錯誤な」
むぅ。
この人もか。
「そんなことはありません。箒でだって空は飛べます」
「無理です。一度も魔力を通したことのないただの箒で空が飛べるはずがありません」
ほう。
飛べるはずがないと言うか。
「じゃあ、試してみますか?」
僕は不敵に笑うと挑戦的な表情を作ってレスティーナ先生に問う。
「なんですって?」
「もし、この箒で飛べたら、箒でこの授業を受けていいと認めてください。飛べるのならば何の支障もない筈です」
生意気な一年生に挑戦状を叩きつけられて、レスティーナ先生は顔を険しくするが、それ以上の反対はしなかった。
「出来るものならやってみなさい」
「ありがとうございます!」
僕は嬉しくて微笑み、箒に魔力を込めた。
うーむ。
当たり前だがなんのへんてつもないただの箒だ。
杖の様に魔力を通すための措置が一切されていない。
確かにこれは大変だぞっと。
「あいつ、本当にやる気か?」
「無理だろ」
「当たり前だ。ただの箒だぞ」
「・・・だが、あのアルフなら」
ざわざわと周りが好き勝手に言っている。
気にせずに魔力を通す作業を続け、この間の剣魔術を思い出した。
あれは杖に魔力を流し込んだっけ。
今回は杖がただ箒になっただけ。
まあ、難易度は跳ね上がるけど、やってやれないことはない。
さあ、ゆっくりと、じっくりと、箒に魔力を込めろ!
ぶぉん、と。
箒に淡い光が灯る。
僕が手を離すと箒は宙に浮いた。
「う、浮かせやがった!」
「い、いや。まだだ。まだ浮いただけだ」
よし。
僕は箒に跨る。
そして、勢いをつけて地を蹴った。
魔力を推進力に代えて、さあ、飛べ!
ふわりと。
僕の身体が浮いた。
飛んだ。
飛んでるぞ!
「と、飛びやがった!」
「うっそだろ!?」
「な、なんで? ただの箒でしょ!!」
はっはっは。
昔は皆箒で空を飛んでいたのさ。
まあ、その箒はちゃんと空を飛ぶ用に魔力を通しやすくしてある特別製の箒で、こんな掃除用の箒ではなかったけどね。
僕はグラウンドの周りをくるくる回ってみせる。
うん。慣れてきた。
僕は勢いの乗って宙返り。
きりもみ回転を披露。
場を沸かせた。
「うおー、なんだあれ! あんなの杖だって出来ねーぞ」
「あ、あれ、箒が実は特別だったとかじゃないよね?」
まだまだ。
僕は地面に向かって急降下。
あわや激突親寸前まだ行く。
何人かが事故を予測して目を背けた。
が、地面すれすれで急上昇。
そのまま上空へと上がる。
「す、すげえ」
「かっこいい」
先程まで僕をあざけっていた人達も、これを見ては何も言えなくなってしまった様子で、中には声援を送ってくれる人もいた。
僕はゆっくりと地上に降りながら手を振ってそれに応える。
「どーも。やーやー、どーもどーも」
僕は地上に降り立つとレスティーナ先生に向き合う。
「合格ですか?」
先生は目を白黒させていたが、結果は結果だ。
諦めた様子でため息を一つ。
僕って、やっぱりため息つかれることが多い・・・。
「いいでしょう・・・」
やった!
僕はこうして箒で杖乗りの授業を受けることが出来るようになった。




