魔術師なら箒に乗れ
「月々二百万ルピン・・・」
昨日の夜の話をリゼにすると、唖然とした顔でリゼは呟いた。
「凄いね。例のポーションがそんな大きな話になるとは思わなかったよ」
「僕も思わなかった。本当にびっくりだね」
僕は昨日からホクホク顔だ。
今日も肉の晩餐をしよう。
切るのだ。
厚く、肉を切ってむしゃぶりつくのだ。
ああ、考えるだけでよだれが・・・。
「昨日からアルフは我を忘れているわ」
やれやれとメリアは首を振る。
「ま、伝説の魔術師様にかかったら、この程度の発明はわけないのかもしれないけどね」
「そんな言い方は止めてよリゼ。これでも構想には苦労したんだよ」
僕は口をへの字に曲げた。
昔の僕であったなら、このポーションは開発できなかっただろう。
あくまでも現代薬草学の知識が土台にあったからこその発明である。
やはり、現代は五百年前よりも遥かに発達している。
この時代ならば、構想だけで終わっていた研究や、考えもしなかった発想が出来る。
魔術は無限の可能性を秘めているんだ。
「懐が温かくなったから帰りにどこかの喫茶店で甘いものでも奢るよ。レディ達」
「わお、太っ腹」
「それじゃあお言葉に甘えようかな」
これまではお祖父ちゃんに甘えてばかりだった僕だけれど、お金が入るのであれば自立していかないといけないね。
「それよりも、次は校舎の外のグラウンドで授業だったっけ?」
「ええ。杖乗りよ」
「・・・杖乗りねぇ」
〝杖乗り〟とは、杖に乗る魔術のことである。
魔術師は空を飛ぶ。
風属性の魔法を使って飛ぶ者もいるが、制御が難しく、また、風属性が扱えない魔術師は飛べない。
そこで開発されたのが道具を使って空を飛ぼうという発想。
この発想自体は僕の元いた時代にもあった。
だからこそ僕は言いたい。
杖ってなんだ、と。
違うだろう。
杖じゃないだろう。
魔術師ならば箒に乗れと強く言いたい。
もうなんだよ杖って。
情緒ってものがないのか。
乗るなら箒だろう。
箒に乗ってこその魔術師じゃないのか。
だが、今現在、箒に乗って空を飛んでいる魔術師はいないらしい。
時代は移る。
今、ポピュラーなのは杖なのだ。
まあ、分からなくはない。
昔の杖は短かった。
だから、乗ろうなんて発想がそもそもなかった。
しかし、現代魔術の杖は長い。
だから、箒の代わりになるのだ。
魔術師の相棒と言うべき杖に乗れるのだから、わざわざ別の道具である箒を使う必要がない。
だから、箒は廃れていった。
悔しいが理にかなっている。
本当に悔しいが。
「ふふ、アルフはまだ杖に乗ることに乗り気じゃないのね」
「魔術師には箒ってものがあるのに、なんで杖に乗るんだろうね」
苛立ちをなんとか抑えながら、僕は文句を言う。
「そっちの方が便利だからでしょう。道具を常に二つも持ち歩くわけにもいかないし」
「・・・まあ、そうなんだけどさ」
「時代は進歩しているのよー。伝説の魔術師サマ?」
「やめてよ」
くっ、馬鹿にされている。
未来人に馬鹿にされている。
己、このままで済ませてなるものか。
僕は駆け出した。
「ちょ、ちょっとアルフどこ行くのよ!?」
「用務員室まで行ってくる。二人は先に行って」
「そんなところ言ってどうするのよ!?」
「箒を借りてくる~」
僕は二人を残して駆け出した。
「もう。アルフったら」
「珍しくムキになってるね」
「まあ、アルフにとっては納得のいかないことなのかもしれないわね」
*********
杖乗りの授業は二組の教室の生徒達からなる合同授業である。
生徒達は全員グラウンドに集めれた。
この授業を受け持つのが、レスティーナと呼ばれる女性教師だ。
体育会系の厳しい教師である。
生徒達は、空を飛べる授業がようやく始まるのかと期待半分不安半分の心持でこの授業に臨んでいた。
無論、既に杖に乗れる生徒達もいたが、これが初めてという生徒もいるので緊張をはらんだ授業となる。
「さて、それでは生徒諸君。全員いますね」
レスティーナがハキハキとした口調で尋ねると、場ばしんとなった。
そんな中で、メリアは居心地が悪そうにちょこんと手を上げる。
「ミス・アルベルト。どうしましたか?」
「あ、あの、アルフがまだです」
「アルフ? ミスターアルベルトですか。トイレですか?」
「い、いえ。忘れ物を取りに」
レスティーナの顔が歪む。
「仕方がありませんね。では、授業を始めます。皆さん、持参した杖を使うということでよろしいですね? もし不安がある生徒がいれば、杖乗り用に鍛え上げられた杖をお貸ししますが、借りたい生徒はいますか?」
誰も手を上げない。
レスティーナは頷く。
「よろしい。では、皆さん杖を浮かせなさい」
杖を浮かす。
杖に魔力を流し込み、杖をその場に浮遊させる魔術である。
これが出来ないと話にならないのだが、事実、出来ない人間も中にはいるのである。
生徒達は杖を横にすると魔力を流していく。
大抵の者はその場に杖を留まらせることが出来たが、中には地面に落ちてしまう生徒もチラホラと見受けれてた。
「集中して。魔力を十分に杖に流し込むのです!」
苦戦している生徒達はなんとか杖を浮遊させようとするが、これが上手くいかない。
杖に魔力を流し込むことはなかなかどうして難しいのだ。
メリアとリゼは難なく杖を浮かせることが出来た。
というか、実は二人は既に杖に乗った経験があったので、何の問題もなかった。
「杖を浮かせられない生徒は一塊に集まって練習です。なんなら、こっちで用意した別の杖を使ってもよろしい。では、杖を浮かせられた諸君にはこの先を教えてー」
「すいませーん」
その時、レスティーナの声を遮って、一人の生徒が駆けてきた。
手に一本の箒を携えたアルフである。




