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安心

「わ、私に婚約の話があるのか知りたいの?」


 興味本位で聞いたのだけど、なんかやたらとソワソワし始めたぞ。

 こっちをチラチラみて、落ち着きがない。

 この反応は何なんだろうか? 僕は首を傾げた。


「メリアこそ、女性なんだからそういう話があっても不思議じゃないと思って。参考までに教えてくれる?」


 僕の価値観が変わってなければ女性は十代で結婚する貴族が多い筈だ。

 メリアは上目遣いに僕を見る。

 なんかかわいい。


「ア、アルフは私が婚約していたら、嫌?」


 思ってもみなかった質問だ。

 嫌かどうか?

 ううん、どうだろう。

 メリアに婚約者がいたら、か。

 僕はしばらく悩んだ後に答える。


「嫌かな」


「嫌なんだ」


「うん。なんだか遠い人になっちゃったような気がして。寂しい? そんな感じかな」


「・・・そっか」


「あ、でもメリアが婚約したんだったら僕は祝福の言葉を贈るよ。寂しいけどメリアが幸せになってくれるのが一番さ」


 本心を洗いざらいぶちまけると、メリアは口を曲げて細目で僕を見る。


「ふん、だ。つまらない答え」


 え、そう?


 僕なりに悩んだ結果の答えだったんだけど。


「ふん! じゃあ教えてあげる。いないわ婚約者なんて。いても断ってるもの」


「断ってるんだ」


 メリアは当然とばかりに大きく頷いた。


「私だって今は魔術学校に通って、魔術をもっと知りたいと思ってるんだから、結婚とかまだまだ先よ。その前に学ぶべきことが山ほどあるわ」


「そうだよね!」


 僕は嬉しくてにっこり微笑んだ。

 そうなのだ。

 僕らはまだまだ勉強しなければならないことが沢山あるのだから、結婚だ、恋愛だのに構っている暇などありはしないのだ。


 現代魔術は面白い。

 当たり前だけど五百年前よりも進化している。

 もっともっと吸収して自分の物にしなければならない時に、それ以外にうつつを抜かしている場合じゃない。


「安心した? アルフ」


「うん。安心した。まだ一緒にいられるね」


 笑顔で応えるとメリアは首を傾げた。


「うん? 私が婚約したらアルフとは一緒にいられないの?」


「だって、婚約者がいるのに、男が傍にいるのはちょっと不味いんじゃないのかな?」


 僕が婚約者だったら、多分だけどあまり面白くはないだろう。

 ん? それは器が小さいか?

 ここは婚約者を信じてどーんと構えていたほうが落ち着いた紳士になるのだろうか?

 そうだ、嫉妬するのはかっこ悪い。

 ここは気を大きくして相手を信用するべきだ。


 いや待て。

 嫉妬は恥ずかしいことだろうか?

 好きな相手が別の異性と楽しくしているのを見てモヤモヤするのは当然のことでは?

 いや、それは相手を信用していない証なのでは?


 いやいや、相手もいないうちからそんなこと考えてどうする。

 今は魔術に集中するんだ。

 女の子などにうつつを抜かしている場合ではない。


 しかし待て。

 僕は前世でもそんなこと考えてて、青春時代全く女っ気がなかったのではなかろうか?

 このまま行くと今世でも僕は彼女が一人も出来ずにおじいさんになってしまうのではないだろうか?

 ば、馬鹿な。

 また独り身で過ごしていくというのか?


 いや、慌てるな。

 まだ慌てる必要はない。

 僕はまだ十五だ。

 これからだ。

 僕の青春はこれから始まるんだ!


 僕が決意を固めていると、メリアは頬に指を当てながら、視線を動かしていた。


「大丈夫じゃない? 私とアルフって従妹だし。例え私に婚約者がいたとしたってそんなに目くじら立てないんじゃないかしら?」


「そう? やっぱり親しい男性が近くにいると面白くないのかと思って」


「はん! そんなことくらいでへそを曲げるような男は願い下げよ」


 やっぱり嫉妬する男はあまりポイントが高くないらしい。


「それともアルフはこれからも私と仲良くしてくれないの?」


 少し不安そうになりながらメリアは聞いてきた。

 僕はブンブン首を横に振る。


「そんな筈ないじゃないか。僕はずっとメリアの傍にいるよ」


 それを聞いたメリアは今日一番の笑顔で返してくれた。

 ほんのり顔が赤い。


「じゃあ、私、さっきのポーションのことをお父様に話してくる。結婚はする気がないってことでいいのよね? お爺様にもそう伝えちゃうけど」


「いいよ。僕の恋人は今のところ魔術だから」


 僕がそう言うとメリアはどこか思いつめた様子で僕を見返している。

 なんだろう?

 あ、さっきの僕の心配をメリアも考えてくれているのかな?

 このまま放って置くと僕が婚期を逃がしてしまうのではないかと。


「分かった。それじゃあね」


「うん。またね」


 僕は手を振ってメリアを見送った。


*********


 メリアはアルフの家を出て、馬車の中で考えを巡らせていた。


「今のアルフは恋人を作るつもりがない。そこはまあ一安心だけど、それじゃあいつまで経っても私を意識してくれないってことじゃない」


 なんてことだ。

 こっちは思い切り意識しているというのに、あっちはてんでその気がないとはどういうことなのか。


「リゼだってきっとアルフのことを・・・。ライバルがいるんだしうかうかしていられないっていうのに」


 考えてみればアルフは顔は悪くない。

 多少童顔ではあるが、そこがまた可愛くはあるし、それとは真逆に大人びた考え方思考をする。まあ、元がお爺さんなのだから当たり前だ。

 そのギャップがいい。

 魔術の才能は極めて高いのも当たり前。

 なんといっても相手はあのアルフレートの生まれ変わりなのだから。


 これからアルフは出世する。

 成功する。

 爵位だって得るかもしれない。

 そうなった時、周りの女は放って置くだろうか?

 今のうちに首輪をつけておいたほうがいい。


「負けてられない。頑張れ私!」


 メリアは一人、馬車の中で握り拳を作った。

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