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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(六日目、VS所長)
85/90

ナナミ(精神世界)

 ここは、どこ?

 気が付くと私は白い空間にいた。

 足元の感覚はない。ふわふわと浮いているような感じ。


(……そういえば)


 過去に似た経験をしたことがあった気がする。

 あれはフルンティングを初めて手にし、フルンティングの人格を受け入れた時。

 あの時も今と同じような空間にいた。


 現実ではない、私の内面――精神の世界。


――やあ、ナナミ。


 声がしたほうを向く。そこには「私」がいた。

 すぐに誰なのか分かる。彼女はフルンティング。私の持つ魔剣の精神。


「……こんにちは」

――浮かない口調だな。

「どうしてなのか、分かっているでしょ?」


 同じ体を共有し、考えが読み取れる彼女が知らないわけがない。

 浮かない口調なのは、セタに負けたからではない。賭け事に負けたことよる、私の所有権がセタとムツミにあることだ。


「誰かの管理・支配なんてこれ以上受けたくなかったのに」

――賭けの内容をきちんと見ていなかったナナミが悪い。

「うるさい」


 もっともなことを言われ、ため息を吐く。ちゃんと内容を確認してから賭けをすればよかった。

 今更になって反省している。


「目覚めたらムツミのところに行って、文句を言うわ」

――そんな状況だったら、言いに行けばいい。


 含みを持たせた言い方。フルンティング睨むと、彼女は指先を上空へと向けた。

 視線を向ける。そこに大きな画面があって、(もや)のかかった映像が流れていた。

 映像には二本の黒い影。人の形をしている。


 これはもしかして私の今の視界?


 現状を把握したい。目を凝らしてよく見る。そうすることで映像から靄が少なくなり、見やすくなった。

 映っているのはセタと所長。二人は魔剣を構え対峙したまま、動かない。

 セタが持っている魔剣はオハバリだということはすぐに分かった。だけど所長が持っている魔剣は見たことがなかった。


――あれはティソーナだ。

「ティソーナ?」

――相手に幻覚を見せる魔剣だ。


 通知が届く。詳細を開くとティソーナの文言と剣の画像。その下に説明がある。


〇魔剣名

 ティソーナ

〇概要

 直線的な剣身に木目状の模様が特徴の魔剣。幻覚・錯覚の魔法が設定されており、相手を混乱させることを得意とする。

 またその幻覚・錯覚は相手の視覚的混乱だけではなく、思考にも侵食することができる。


 思考に侵食。それができるということは、動きを封じることも可能ということ。

 動かないセタを指していることは明確だった。


――幻覚を見せられているセタには所長が見えていない。

「どうすればいい?」

――ナナミが目を覚まし、頬でも思い切りひっぱたくことが一番手っ取り早いだろう。

「じゃあ、早く起こして」

――自然に目を覚ますことしか方法はない。


 焦れったい。

 早く何とかしたい。


――目を覚ますまで話をしよう。

「……勝手にすれば?」

――つれないな。


 苦笑しつつ、フルンティングは頭を掻く。


――セタに負けた理由だがスキル『諦念』が『諦念(無心)』に変わったからだ。

「……そのスキルの内容は?」

――無心が加わったことで思考が単純・短絡的になる。今回は「セタを殺す」というものになり、結果セタに動きを読まれやすくなった。

「それだけ?」

――それだけだ。


 そんな単純なことで私は負けてしまったの?

 情けないことだと思う。


(まあ、それでも)


 その短絡的な思考を突いてセタが私を負かしたことは、彼が成長しているということか。

 その点については嬉しいことだけど、少し複雑。


――負けたくなかったのなら、変化させないように心情を落ち着かせるべきだった。

「……過ぎたことよ。考えても仕方ないわ」


 彼女のほうを見るのを止め、私の視界が表示されている画面を見る。セタも所長も動かない。セタは所長に思考を蝕まれているから動けない。所長はセタを操っているから動かない、といったところだろう。

 私が早く目覚めて、セタを現実に引き戻さないと。


――セタを起こすことが第一に考えているが、その後はどうするのだ?

「どう、とは?」

――貴様は所長に「支配」されている。隙をついてセタを起こすことは可能だと思うが、所長に操られ、セタを殺すのがおちだぞ?

「……それは」

――考えもしていなかったのか……呆れるな。


 はぁ、と大きく息を吐く。ムッとなったけど事実だから言い返せない。


「何か対応策はあるの?」

――ある。


 フルンティングは自身のメニュー画面を開く。指で何度か触れ、目的の画面を見つけたのか私の目の前に移動させた。

 その画面は何の変わりもない、自身の能力を示す画面。私自身の画面と形式は変わらないから違和感も何もない。

 だけど見せてきたからには何かあるはず。

 彼女に聞いたり、分からないと答えることは駄目。白い目で見られるのがおちだ。


 何が書かれているのか見る。身体能力が数値化された値が並んでいた。当たり前だけど、同じ体を共有しているのだから数値は私のものと変わらない。

 なぜ見せたのか私は画面を見ながら考える。


「……え」

――気がついたか?

「フルンティングは所長の支配を受けていないの?」


 私の画面にはあって、彼女のものにないもの。

 それは所長の支配を示す「ヒシハイ」の言葉。体を共有する彼女にもあると思っていた。

 だけどその言葉がどこにも見当たらない。


――マニュピレータの「支配」は人格一つに対して一つの支配を行う。支配を受けた時「表」の人格だったナナミが所長の支配下になったのだ。


 平然と今まで知らされていなかった事実を言う。


「どうして教えてくれなかったの?」

――我の話なんて、聞く気がなかっただろ。

「それはあなたが信頼できないからよ。勝手に体を乗っ取ろうとするし」

――そうかもしれないな。


 笑みを浮かべる。その笑みが腹立たしく感じた。


「……それで、なぜ今このことを教えたの?」

――マニュピレータを使われたとき、我と交代しろ。そうすれば支配の影響は受けない。

「……あなたがセタを殺さないわよね?」


 信用できない。私は彼女をじっと見る。すると彼女は笑みを浮かべるのを止め、真剣な眼差しになる。


――殺さない。今のセタは役に立つからな。

「役に立つって……」

――呆れるかもしれないが、役に立つか立たないか。それが我の行動の根幹だ……っと、そろそろ目が覚める。


 顔を上げ、上空に視線を向ける。つられて私も見上げた。

 まぶしい光が射し込んできていた。その光が目覚めるためのものだと瞬時に理解した。


――で、どうする?

「……分かったわよ」


 早くセタを起こさなければならない上、フルンティングの言う方法しか最善が思い付かない。

 フルンティングの提案を受け入れるしかない。


「言ったことは守りなさいよ」

「我が名にかけて、我の所有者の役に立ってみせよう」

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