幕間(模擬戦場までの路上)
ムツミを実験室に寝かせ、模擬戦場へと向かいながら俺は考える。
これから始まるナナミとの勝負のこと。
自分自身のスキルは当てにできない。
発動できるのは「成長する力(刀剣)」のスキル「ヴュルテン剣術(基本)」のみ。ナナミとの勝負に「背水」は発動しない。
ムツミ――アゾットと戦った時に発動していた、条件付きの「ヴュルテン剣術(中級)」も確認してみたけど、グレーアウトでの表示となっていた。
発動できないということだろう。
スキルについて、機械との戦いでは「背水」は発動していなかったけど、思った以上に楽に戦えた。
それはたぶん機械が単純に最短で殺しにかかる攻撃だったから。迷いのない攻撃を避けるのは簡単だった。
ナナミとの勝負は違う。
朝に鍛練をしていたし、手の内を知っている相手。戦いづらい。
それにナナミは全力で戦ってはいなかった。師範と生徒みたいな立場で剣術を教えてもらっていた。
ということは俺にとって知らない攻撃が必ずある。
魔法についても魔剣フルンティングの「鎌鼬」しか知らない。他にも魔法があると考えた方がいい。
まだ時間がある。頭の中を整理しよう。
彼女の動きを振り返る。
朝の鍛練で剣を交えた時、彼女の動きはどんなものだったか。
勝負を想像する。俺が彼女に合わせ、どのように動けばいいのか。
魔法を使った時、俺は何を考えて対応すればいいのか。
オハバリを使って魔法を発動し、防御か回避をするべきか?
(……いや)
否定する。ナナミは俺がオハバリを持っていることを知らないはず。
奥の手として使った方が不意を突けるか?
驚いて手を止めるかもしれないし。
その間、魔法はミズカネを用いて描かないと使えないけど、もともと描く魔法には慣れていないから使うことはないだろう。
ムツミから借りているトツカのツルギを使おう。
(そういえば)
脳内でシュミレートし、ある程度形になった時ふと思う。
どうしてそこまで考える?
ナナミを助けたいからか?
違う気がする。その気持ちはムツミの「ナナミ様を助けたい」という言葉に感化されたからだ。
俺自身の根底の気持ちではない。
(……ああ)
少し考え、思い出す。ナナミと魔物を狩りに行った時のこと。
気持ちにスイッチが入って躊躇わず魔物を殺した。
あの時は「死にたくない」という一心だった。今の気持ちはそれに近い。
負けたらムツミに殺されるからか。そのために一心不乱になろうとしている。
単に自分自身の思いのために戦う。死なないために勝つ。そしてそれはムツミの望んでいることに繋がる。勝つことが最善な結果になると思う。
俺もバッドエンドにはなりたくない。全てをハッピーエンドで終わらせるために、ナナミに勝つ。
それだけだ。





