VS機械(蜘蛛型)
ムツミの声そして同時に発射された光を見て、咄嗟に身を横に投げた。
ジュッ、と靴底が焼ける音。
熱攻撃か。ムツミに教えてもらわなかったら、危ない状況だった。大火傷の重傷を負っていたはず。
「ナオヤ、すみませんっ! 次は撃たせませんのでっ!」
「そう言っているそばから、輝いているぞ!?」
横転して動くことができないはずだけど器用に砲身を動かし、俺を狙っている。もう一度撃ってくることは確実だ。
あのまま撃てば、地を這うような砲撃になるはずだ。上への回避はもってのほかで、横に避けることしかできない。
範囲は狭いようだから、俺が砲撃の直線上に立たなければいいだけか。
「……って」
蜘蛛型だけに意識を向けていたら駄目だ。黒と白の人型がいるはずの場所を見る。
視線を向けた先にいない。
どこにいる?
「背後!」
振り向く。そこに二体の人型が剣を振り上げていた。
俺の死角を移動していたのか。避けるには間に合わない。俺はオハバリをかざし、二体の剣を受け止める。
さすがに二本の剣を受け止めると重量感がある。受け止めるだけで精一杯で、身動きが取れない。
また黒の人型は剣が壊れることを躊躇していないようだ。剣に入っていた亀裂が広がっていく。
脇目で蜘蛛型を見る。銃口は輝き、発射寸前だ。
「はぁあっ!」
ムツミが短剣を砲身に突き刺す。そして魔法を発動。突き刺した周囲が徐々に氷で覆われていく。
凍らせて撃たせないつもりなのか?
熱攻撃だから、無茶な防ぎ方だと俺は思うけど……
「ナオヤは自身のことに集中してっ!」
「お、おうっ!」
怒られた。俺は向き直し、人型を見る。黒の剣は限界。いつ壊れてもおかしくはない。
(鍔迫り合いじゃなかったら、剣の破壊をしたんだけどなぁ)
このまま黒の剣が壊れると拮抗している力のバランスが崩れる。そうすれば健在な白の剣が俺を斬る行動に出る可能性が高い。
それは避けないと。同じ場所でいる訳にはいかない。砲撃がすぐに来るはず。
(ついでに蜘蛛型の砲撃をどうにか対処したいな)
避けるだけならすぐにできるけど、暫定の対処でしかない。砲撃できないような恒久の対処。
正直ムツミじゃ不安だ。任せているけど、信頼できないっていうか……
彼女に言ったら怒られそうだな。
「……」
――漢字「突」「風」「自」「横」を検知しました。現在の状況でも発動することができ……
「実行だっ」
通知を遮り、すぐに魔法を発動。オハバリを中心に風が渦巻く。それは次第に強くなっていき、暴風と化した。
渦巻く暴風は方向を変え、俺を横へと飛ばす。
「う、おっ!?」
思っていたよりも風力が強い。受け身を取ることができず、地面を転がる。直後、俺がいた場所に熱砲撃が飛んだ。熱気が俺を襲う。
やっぱりムツミの対応は間に合わなかったか。
「ナオヤ!」
ムツミの驚いた声が聞こえる。今は返事をする時間も惜しい。
立ち上がる。鍔迫り合いをしていた状況から強制的にだけど脱することができた。
熱線が放出された先を見る。避ける間もなかった二体の人型は熱線に晒され、体の大半の部分が溶解していた。
魔剣と認識された剣の部分は何事もなかったかのように、刃が照明の光を反射させている。
(道連れにするつもりだったのか?)
機械だから、道連れにするという考えはないかもしれない。
偶然人型が俺の動きを止め、蜘蛛型がそこに砲撃をしただけかもしれない。
本当のことは分からない。
まぁ、どうでもいいことか。相討ちで人型が戦闘不能になったことは好都合だ。
俺は蜘蛛型に向けて駆ける。あとはこいつだけだし、俺が倒しても問題ない。
物理的に破壊することが最善の方法か?
外装に穴を開けることができたら、魔法も効きそうだし。
ただ単にオハバリを振りかざし、斬るだけでは駄目だ。たぶんオハバリをぶつけた時に弾かれる。
それに蜘蛛型が魔剣の類いではない可能性が高い。
スパッと斬る方法がなかったっけ?
……なんだっけ、あれ。刃を超高速で振動させる武器。
――漢字「振」「剣」「細」を検知しました。オハバリの剣身を振動させますか?
疑問に思いつつ、漢字を考えてもちゃんと発動できるんだな。
「当然っ!」
発動させる。オハバリの剣身が振動しているのが握っている柄から伝わってきた。
これならいけるか?
斬るだけよりはリスクが少ないはず。
(よしっ)
蜘蛛型はすぐ目の前だ。砲撃の直線上からは外れている。
「小銃には気を付けて!」
ムツミが叫ぶのと同時に蜘蛛型の脚部の銃が火を噴いた。油断していた。機関銃のような銃をキーホルダーの如くじゃらじゃらと装着していたんだった。
立ち止まり、オハバリを前にかざす。刃に銃弾が当たる感覚。防ぐことができている。耳元では斬ったと考えられる銃弾の通過する音。
しばらく耐えていると不意に攻撃が止んだ。装填しているのか。
今のうちに対処しておくか。再度駆け出し、小銃に近づく。振動するオハバリのおかげで簡単に破壊できた。
小銃を破壊し終え、蜘蛛型の上に飛び乗りムツミの傍に立つ。真上に立つと主砲の死角になって攻撃が届かない。
「何をする気です?」
「蜘蛛型を破壊しようかと。短剣だと難しいだろ?」
オハバリを突き立てる。火花が散らしながら、蜘蛛型の胴体に深々と刺さる。
異常を察知したらしく、脚を動かし暴れ出す。だけど俺たちを振り落とすまでの力はない。
一方、俺も蜘蛛型を倒すまでに至っていない。
胴体に刺さっていると言っても、深くてオハバリの刃の長さまでだ。決定的な致命傷にはならない。
(となると……)
こういう時に魔法。内部なら電撃も効くはずだ。
――漢字「雷」を検知しました。魔力量により雷鳴の大きさ、電力量が変化します。
「ムツミ、蜘蛛型から離れていた方がいいかも」
「どうしてです?」
「「雷」の魔法を全力で使う」
「怖いこといいますね……ですが、ナオヤはどうするのです?」
俺?
俺はオハバリを握っているから、耳を塞ぐことはできないな。
「まあ、なんとかなるだろ」
「ナオヤも人のことを言えませんね」
自分へのリスクがあることを厭わないことを言っているのか?
……そうだな。怪我することに関してはあまり気を付けていない。
さっきの風の魔法もしかり。服を着ているから確認できていないけど、体は傷だらけのはずだ。
倒すことを優先しているからだろう。
「鼓膜が破れても知りませんよ」
「怖いこと言うな」
「まぁそうなったら、治してあげます」
そう言いムツミは耳を塞ぎ蜘蛛型から飛び降りる。脅した挙句、本人は安全な状況。
なんだか恨めしい。けどこれ以上文句を言っていられないな。関節部を動かなくさせていた氷にヒビが入り、いつ動き出してもおかしくはない。
動き回られたら面倒だ。
(よし、やるか)
オハバリに込める魔力は最大限。オーバーキルになっても構わない。
というか、そのほうが確実に倒せるし安心だ。
「発動っ!」
叫んだ直後空気を震わせる轟音、そしてオハバリから電気が俺の体内に流れ、視界が暗転した。





