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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(六日目、地下)
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粛正機械対応準備

 ムツミの言葉を聞いて俺は肩を落とす。

 粛清機械ってあれだよな。殺傷設定になっている、フルンティングに支配されたナナミでも戦うことに苦労するという機械。

 そんな粛清機械(もの)と戦わなければならないのか?


「アゾットは本当に俺を殺す気だったのかよ」

「私も含めてです。全く、余計なことをして……アゾット、うるさいです。そんな事を私は望んでいません」


 茶化されたのか、アゾットに対して言い返している。


「死なば諸共って使い方を間違っています」

「俺も死にたくはない」


 アゾットに聞こえているかどうかは分からないが、俺も言う。

 全く何を考えているのだか。死んだら元も子もないだろ。

 今更文句を言っていても仕方がない。対処方法を考えないと。


 入口がある場所へ向かい、壁を叩く。奥が空洞になっていることが分かる、乾いた音。

 想っていたよりも薄そうだ。魔法で壊すことは可能か?

 超音波カッターみたいに、オハバリを振動させれば塞いでいる壁を壊すことができる気がする。


「壁を壊さないほうがいいですよ」


 俺の考えを読み取ったのか、ムツミに制止させられた。


「壊せば異常とみなして機械が出現します」

「戦うしかないのか」

「そうです」


 ムツミは大きく息を吐く。そして機械の詳細を確認しているのか、自身のステータス画面を操作している。


「壊さない限り、機械の出現は私の方で操作できます。時間は短いですが準備をしましょう」

「了解」

「出てくる機械は三体だそうです……今、詳細を送りました」


 メッセージが届き、内容を確認する。五体の内、蜘蛛型一体と人型が二体。形状も添付の画像があって、イメージがしやすい。

 蜘蛛型はその名の通り、八つの金属製の太く長い足。胴は半球を上に直方体と合わさった形状だ。

 ミニバンほどの全長。高さは足を含めて二、三メートルほど。半球の胴体には目が足の本数と同じ八つ付いている。そして目の下には砲身が備えられていた。

 キャタピラの部分を足に変えた戦車と言ったところか。

 見たことがない形だから、異様としか感じない。

 一方人型は前腕部分が剣と同化した機械だった。手も使うことができるらしく、画像ではハンドガンを握っている。

 頭部はフルフェイスのヘルメットで覆われていた。バイクを運転する人間みたいな格好。

 いや武装しているし、コンビニ強盗のそれに近いか。

 脚には何の装飾もない。ただ足裏にはローラーが付いていてそれで移動する、と。普通に足を使うよりも移動速度が速そうだな。


「ヴュルテン帝国の機械――自律型対人機械。円形闘技場で競技という名のもと、罪人を処刑していた機械だそうです」


 古代ローマのものに近いか。機械を肉食動物に変えたら同じものだろう。

 剣闘士が戦っていたから、罪人ではないけれども。


(……無理じゃね?)


 全く勝てる気がしない。戦う前から詰んでしまっているように思える。

 ムツミと共に蜘蛛型と人型で分担して戦うとしても無理がありそうだ。蜘蛛型はともかく、人型だと一対二で戦い辛い。

 そもそも無機質のものと戦うときは俺の「背水」のスキルが発動しない、とナナミが言っていた。だからほとんど戦力にならない。


「不安ですか?」

「当然だ。実戦形式での練習はしていたけど、死が隣り合わせの本番は初めてだから」

「ナナミ様のおかげで、たまに死にかけているではないですか」

「あの時は「背水」のスキルが発動しているから、生き残っているんだよ」

「……ああ」


 俺が言わんとすることが分かったのか、ムツミは納得した表情。そして首をかしげる。


「だから?」

「だからって……」

「私なんて、最初からスキルを持っていないのですよ。スキル頼りを止めて死ぬ気で戦ってください……本当に死んでは駄目ですけど」


 ムツミの言うことはもっともだ。彼女は自身の力で機械と相対するんだ。

 俺とは違って「背水」を持っていないから。


「ナオヤなら大丈夫ですよ」

「本当か?」

「いつも通り、動きを見極めて対処すればいいです」

「……分かった」

「自信持って落ち着いて戦ってください」

「ああ」

「ですので、ナオヤは人型二体をお願いします」

「りょうか……ちょっと待て」


 テンポよく言ってきたから、流れでうなずきかけた。


「俺が人型なのか?」

「ナオヤが遠距離系の機械には慣れていないでしょう?」

「そうだけど」


 指摘され言葉を詰まらせる。俺は魔法以外で遠距離系の攻撃は経験したことはない。アニメで見たことがあるけど、当然それは参考になるはずがない。


「周囲に気を配りながら戦えますか?」

「……自分のことで手一杯だろうな」

「私は流れ弾に当たりたくないので、蜘蛛型は私が対処します」

「俺に流れ弾は飛んでくるのか?」

「善処します」


 もしかしてムツミも戦ったことがないんじゃないのか?

 キッと睨むと視線を逸らされた。


「……はぁ、分かった」

「異論はないのですか?」

「考えてみたら、これまでの対人の経験を活かすなら、人型のほうが戦いやすい」


 ナナミやムツミと戦った経験。これを活かすことができるはず。

 二体でもすることは似ている。相手の動きを見て戦う。それだけだ。

 できるかできないかではなく、するしかないんだ。


「分かっていたのなら、なぜ文句を言ったのですか?」

「あんなテンポよく言われたら、言い返したくなるだろ」

「からかうことは私の日課ですので」

「はっ」


 鼻で笑う。

 そうだった。ムツミはそういう性格だった。

 この地下の模擬戦場での彼女の言動が、いつもと違っていた。

 調子が戻ってきたのだろう。

 俺も今の言葉で気が少しだけ楽になった。


 オハバリを取り出し、柄を強く握る。

――成長する力(刀剣)」のスキル「ヴュルテン剣術(基本)」を発動します。


 やっぱり「ヴュルテン剣術(中級)」は 消えている。機械だと「背水」も発動しないだろうから、これ以上のスキル発動は頼りにしないほうがいい。

 頼れるのは本当の自分の力。


「さて、やるか」

「分かりました。では機械を出現させます」


 画面を操作し、ボタンをタップする。

 視線の先、壁の二ヶ所が開く。闇の中から歩行している音とタイヤ音が聞こえてきた。

 しばらくして機械が姿を表す。

 ムツミに見せてもらった画像とほぼ同じだ。

 武装している武器の数以外は。

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