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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(六日目、地下)
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魔剣破壊

 防御に徹する、と言っているからムツミから仕掛けてくることはないだろう。

 仕掛けるイメージ。魔剣破壊の仕組みがどうなっているのかの確認だから、彼女がクルタナで受け止めるような攻撃。

 単純にオハバリを振り下ろせばいいか。

 短く息を吐き、腰を落として重心を低くし、膝に力を溜める。俺はその溜めた力を使いムツミの懐に飛び込んだ。

 接近し、躊躇わずにオハバリを振り下ろす。ムツミはクルタナで受け止めた。

 ギィン、と魔剣同士がぶつかる音。そのまま鍔迫り合いになる。


――魔剣・クルタナを検知しました。魔剣破壊を実行しますか?


 通知が流れる。魔剣破壊は実行可否を直前に聞いてくるようだ。

 俺は「いや」と呟き否定する。


――魔剣破壊は実行されませんでした。実行する場合は再度魔剣を交錯させてください。


 実行するにはオハバリを壊す対象の魔剣と接触させている間に承認しないといけないのか。

 これなら誤って魔剣を破壊することはない。安心して使うことができる能力だ。

 今回は肯定してクルタナを破壊するような真似はしない。魔剣破壊の仕組みさえ分かれば十分。

 代わりに魔法を使うため漢字をイメージ。思い浮かべたのは「風」「前」の二文字。

 ムツミを吹き飛ばして、膠着状態から脱しようと考える。


「っ!」


 何か気づいたのか、ムツミは鍔迫り合いを止め距離を取った。警戒されている。魔法を使っても避けられて終わりかな。無駄な攻撃になりそうだ。

 魔法を発動させず、オハバリを構え直す。


――魔法「風前」は発動されませんでした。一分以内に発動しなければ、削除されます。


 一度考えた魔法は制限時間があるのか。

 複数の魔法の設定は……あ、駄目だ。別の魔法をイメージしたら「重複不可」と通知がきた。

 そうなると、一分以内は一つの魔法しか使えないのか。少し不便かも。


(ん?)


 目の端に砂時計の形状をしたマークと小さく数字が表示されていることに気付いた。数字は六十からカウントダウンされている。これはおそらく魔法の制限時間だな。

 これまでになかった画面だ。そもそも自動的に表示される画面は今までなかった。

 魔剣を所持したことによって、それに関するものが見えるようになったのかもしれない。

 これは分かりやすくていい。


「今、クルタナを破壊しようと考えていましたか?」


 攻撃を仕掛けないことにムツミが怪訝な表情で声をかけてきた。

 どうやら彼女は俺が魔法を使おうとした動作が魔剣破壊の動作だと思っていたらしい。


「通知はあったけど破壊はせずに、魔法を使おうとした」

「ナオヤの場合、魔剣破壊をするのか魔法を使うのか、分からないですね」

「クルタナを破壊する気はないぞ」

「……考えていても口にしないほうがいいですよ。手の内を明かすようなものです」


 確かにそうか。相手に自身の考えを言っても俺が不利になるだけだ。

 けど今は魔剣の確認のための勝負だし、言ってもいい気がするけどなぁ。


「私も手の内を明かしてくれたのなら、利用しますけどね……!」

「うおっ!」


 頭を掻いて自身の言動について考えていると、ムツミが距離を詰めてきた。そして剣道の打ち込み稽古のごとくクルタナを何度も振り下ろしてくる。


「防御に徹するって言ってなかったか!?」

「魔剣の破壊があるから、気を付けていたのですよ。それに攻撃は最大の防御とも言いますよ?」

「言うけど!」


 間髪入れない攻撃をし続けることが最善だと考えたのだろう。そうすれば俺は受け身になって、攻撃に移ることができない。

 理にかなった攻撃手段だと思う。だけど今は違う。

 目の端に見える砂時計と数字を見る。残り五秒。


(発動っ!)


 さっき使わなかった「風前」の魔法を念じて発動させる。剣身に風がまとい、俺はそれをムツミに対して振り下ろす。

 突風がムツミを襲う。


「魔法!?」


 急な魔法にムツミは驚く。

 そしてどんな魔法か分からない彼女にとって、警戒するしかない。

 一瞬攻撃の手を緩めた。

 その瞬間を俺は逃さない。オハバリをクルタナの下からぶつける。交錯した時に魔剣破壊の通知があったけど、無視。そのまま力ずくで彼女の手から吹き飛ばした。

 クルタナは回転しながら飛んでいき、ムツミの背後の地面に突き刺さった。

 そして首元にオハバリを突き付ける。


「……参りました」

「よしっ」


 これでムツミとの勝負は昨日から全部勝っているな。

 もうムツミには負ける気がしない。

 オハバリで突き付けるのを止め、剣先を下げる。


「魔法の動作がなかったので、不意を突かれました」

「設定した魔法は一分以内ならすぐに発動できるんだ」

「事前動作無しですか」

「ただ発動させない限り、他の魔法は使えない」

「それは不便ですね。取り消しはできないのですか?」

「そうだな……」


 さっきと同じ「風前」の魔法を作り、設定を確認する。だけど取り消すような項目は見当たらない。


「無理そうだな」

「では戦う時にどのような魔法を使うのか、慎重に考えないといけないですね」


 ムツミの言う通りだ。無駄に魔法を作り、他の魔法を使えない状況になって自分自身を不利にしたら元も子もない。作ったらすぐに使うことを意識するか。

 ストックせずとも連続で魔法は使えるし。


「あとは魔剣の破壊ですね」


 後方の地面に突き刺さっているクルタナに彼女は視線を向ける。


「クルタナを壊すのか?」

「だって実際に破壊してみないと、分からないでしょう?」

「そうだけど……」

「さっさと壊してください」


 ムツミはクルタナを壊されることに何とも思わないのだろうか。貰い物とは言っていたけど、普通はためらいを持つものだと思う。

 けど何度聞いても埒があかなさそうだ。内心を教えてくれそうにもない。

 息を吐く。これ以上悩んでも仕方がない。地面に突き刺さるクルタナに近づき、オハバリの剣身を当てる。


――魔剣・クルタナを検知しました。魔剣破壊を実行しますか?

「ああ」

――実行の承認が確認されました。クルタナの情報を取得します……


 目の前にクルタナの設定が流れる。かいつまんで読んでいくと、所有者名や魔剣の特性が表示されているようだ。

 所長に見せてもらった、オハバリのコードのように漢字で書かれていた。漢字に触れる機会が少なくなっていた俺にとって、どこか新鮮な気分。

 でもこれって毎回表示されるのかな。だとしたら視界が邪魔されて見えにくい。

 加えてクルタナの情報を取得しているためか、破壊までに時間がかかっている。

 すぐに破壊できる訳ではなさそうだ。情報の取得が終わるまで俺は待つ。

 十秒ほど時間が経過し、スクロールは止まった。


――魔剣破壊の準備が整いました。魔剣・クルタナを破壊します。


 視界の中に赤い線が現れる。その線はクルタナの剣身を横に分断するように引かれていた。

 斬線か。これに沿ってクルタナを斬れ、ということなのだろう。

 俺はオハバリを斬線に従って動かす。オハバリはクルタナに吸い込まれていき、剣身を二分した。

 力を入れる必要がほとんどなかった。まるで豆腐を包丁で切ったような感覚。さっき勝負で火花を散らして交錯させていたことが嘘のように、いとも簡単に斬ることができた。


 分断された柄が音を立てて地面に落ちた。その落ちた柄をムツミは拾い上げる。


「時間がかかりましたね」

「情報を取得していたからだな」

「情報? 何のです?」

「クルタナ」

「クルタナの情報?」


 あ、ムツミは理解できていないようだ。首を傾げている。

 どこかにその取得した情報がないかな。俺はオハバリを片付け、ステータス画面から魔剣のことが書かれている箇所を漁る。


「あった。この情報だ」

「……漢字で書かれていますね」

「読みにくいか?」

「ええ。でも、なんとなくは分かります」


 じっと表示された文章を読む。


「水や治療の漢字がありますね」

「そうだな。それでたぶんこれがムツミの名前」


 所有者と書かれた箇所の横を指差す。そこには「六実」とある。


「これが漢字で書いた私の名前ですか」

「当て字だろうけどな」

「当て字でも、名前を漢字で書くことができるのですね」


 ムツミは笑みを浮かべている。漢字に意味はないけど、書くことができることが嬉しいのか。

 地球で言う日本など漢字圏の国に来た外国人が、自身の名前を漢字で書いた時に近い感覚なのだろうか。

 俺には分からない感覚だな。


「でも、どうしてオハバリはクルタナの情報を得たのですか?」

「さぁな。けど今は考える必要はないだろ。時間もそんなにないし」


 時計を見る。午後一時を回ったところ。ナナミとの勝負まで一時間をきった。


「そうですね。ではこの場所から出ますか」

「だったら入口を開けてくれ。アゾットが閉じたんだ」

「本当にろくでもないことをしてくれましたね……アゾット、聞いてましたよね。開くにはどうしたらいいですか?」


 呆れ声。ムツミは目をつぶって体内のアゾットを会話を始める。ブツブツ呟き、次第に眉間にしわが寄っていく。

 アゾットの言葉に対してか、苛立っているように見える。


「……ナオヤ、粛清機械という言葉を覚えていますか?」

「アゾットが入口を閉じた時にアナウンスされていた……って、まさか」

「入口を開けるにはその機械を破壊しなければなりません」


 本当かよ。

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