再確認
「ナオヤがオハバリに認められたことですし……」
「ん?」
「改めて、ナナミ様を解放する方法を確認します」
「だな」
ムツミの提案に俺はうなずく。俺が魔剣を手に入れたことで状況が変わった。彼女が考えていた方法も変わっているはず。
俺とムツミは向き合って地面に座る。
「まず今日はナナミ様に勝ってください」
「そこは変わらないんだな」
「所長がマニュピレータを出している状況を作るなら、最善の手です」
ナナミよりも強いことを示しその後所長に近づく、ということか。
仮に俺が所長の元をいきなり訪れて「マニュピレータを見せてください」とオハバリを持ちながら言っても疑われるだろうし。
というか間違いなく警戒される。
ムツミが言う方法は疑われることが少なく、現実的なもの。反対する理由もない。
「ナナミと勝負した後は?」
「何もしません」
「は?」
「所長が自らナオヤの前に現れると思います。「すばらしい!」とか「まさかナナミに勝つとは」とか言いながら」
「……」
ムツミの言う通り、所長から近づいてくるのだろうか。
信じられないけど、所長のことは俺よりも彼女のほうが知っている。彼女の情報を頼りにするしかない。
「で、俺は所長がマニュピレータを取り出したら、壊せばいいのか?」
「できればナオヤに支配のスキルが使われる直前にお願いします」
「ナナミが支配から抜け出していることを確実にするためか?」
俺の質問にムツミはうなずく。確かに彼女にとってはナナミの支配からの解放が最優先事項だもんな。解放されていることが確実じゃないと不安だろう。
マニュピレータの破壊は俺の頑張りどころだ。失敗は許されない。
失敗したら俺が所長に支配されてしまうからな。
(ん?)
俺はふとしたことに気づく。
「マニュピレータの破壊のことは了解」
「お願いします」
「けど、一つ気になることがある」
俺は指を立てて尋ねる。
「ムツミはどうなるんだ?」
ナナミとは違いムツミは支配されたままの状態で、マニピュレータの破壊を迎えることになる。
破壊した後ムツミも支配から解放されるかもしれないし、もしかしたらスキルだけが彼女に残るかもしれない。
スキルだけが残った時、彼女の身に何が起きるのかなんて分からない。
最悪なことを考えると「魔剣を破壊したけど所長の支配から抜け出せませんでした」となるかもしれない。
そうなると一生支配から抜け出すことができない可能性が高い。
俺の問いに彼女は肩をすくめた。
「さぁ?」
「さぁ、って……」
「私のことは二の次です。まずはナナミ様です」
自己犠牲も厭わないってか?
そういう考え方もあるかもしれないけど、俺は嫌だな。
結果が最悪の場合だと、次なんてない。
「自分自身を労れよ」
「そうですか?」
「二人とも確実に助かる方法を探すべきだ」
「方法はあるのですか?」
「う……」
言い返され、言葉をつまらせる。
方法は思いついていない。
「……脅して、ムツミも解放させるとか?」
「でしたら、マニピュレータをセタさんのものにした方が早いです」
暗に所長を亡き者にしろ、と言っている。
それは回避したい。最悪な結果の一つに見えるし、俺自身も「殺してしまった」とか後悔したくはない。
「ナナミ様を解放できたら、私は問題ありません」
「投げやりだな」
これ以上この話を続けても、堂々巡りになりそうだ。
ムツミは無関心だし、俺が彼女も確実に解放される方法を探す方がいい。
時間はない上、責任重大だけどな。
それでも諦めることはしたくない。
誰もが死なずに解決する方法を。
「整理しますね。今日ナオヤは勝負でナナミ様よりも強いことを示す。続いて所長と接触する」
「ああ。で、所長がナナミ……とムツミをスキル「支配」から解放したら、オハバリでマニピュレータを破壊する」
「私のことは……もういいです。ナオヤの好きなようにしてください」
ため息を吐くムツミ。俺の言葉に納得はしていないけど、ナナミを助けることは一致しているから文句はない、といったところか。
話が終わり、彼女は立ち上がる。
「打ち合わせはこれで終わりですね……ではナオヤ」
「なんだ?」
「ナナミ様との勝負まで時間は少ないですが、一度勝負しましょう」
「……どこかの戦闘民族か、お前らは」
ムツミもアゾットもナナミも戦いたがる。困った状況だ。
「違います。オハバリの確認です」
「だったら勝負じゃなくてもいいだろ」
「相手がいるほうが現実味があるではないですか」
「現実味なんていらないと思うけどな……」
「ナナミ様との勝負では使わないのですか?」
「ああ、そういうこと」
その考え方もありか。魔剣同士の勝負にもなり、魔法を使うことが楽になるかもしれない。事前にムツミと勝負して、扱い方に慣れることは丁度いいことなのかも。
それに【注意事項】には書いてあったけど、オハバリでナナミの所有するフルンティングは破壊されることはない。
立ち上がり片手にオハバリを顕現させる。さっきはオハバリの設定に目が行っていたから、今度は形状をじっくりと見る。
湾曲せず真っ直ぐな銀色に煌めく剣身。その剣身の長さは拳十個分ほどの長さ。対して柄は拳三個分ほど。
剣身と柄の間には小さな鍔。握っている手が刃に触れることが無いようにする、必要最小限の作り。
ムツミのアゾットやナナミのフルンティングと比べるとシンプルな形状の魔剣だ。
「では、私も魔剣を……あれ? アゾットを呼び出すことができない?」
俺から距離を取り、アゾットを呼び出そうとしていたムツミが首をかしげる。
右手を閉じたり開いたりして、何がおかしいのか確認をしている。
「あー、オハバリが魔剣破壊の武器だからじゃないか?」
「そういうこと……せっかくアゾットを壊すことができると思ったのに」
「怖いことを言うな」
「勝手に日記を模写して、ナオヤに見せたことを許していませんから」
根に持っていたのか。プライベートなことだし、勝手なことをされたら怒るのは当然だよな。
だけど壊すことまではしなくていい。明らかに過剰な対応だ。
というか、魔剣が自分自身の呼び出しを拒否することが可能なんだな。
「アゾットを苛めるな」
「苛めていません。制裁です」
「本当に壊れたら元も子もないだろ」
「……むぅ」
頰を膨らませ、アゾットを呼び出そうとしていた動きを止める。そして今度は左手を横一線に振った。
振りきった左手に握られていたのは剣先の平たい魔剣クルタナ。よく見慣れた魔剣だ。
「仕方がないので、これで勝負しましょう。大きさもフルンティングに近いですし」
「だったら最初からそっちを呼び出せ」





