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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(六日目、地下)
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オハバリ

「どうして今、その話題になるんだ?」

「オハバリが魔剣破壊の武器だからですよ。マニピュレータを破壊できれば同じことですし」


 そういえば以前ムツミが言っていたな。オハバリは他の魔剣を破壊できる唯一の魔剣だ、って。

 オハバリを使い、マニピュレータを破壊することができれば、所長を殺さないですむ。そして支配から解放することができると言うことか。

 そのことをアゾットがムツミに伝えたらしい。

 魔剣が言うことは理にかなっている。


 で、そのオハバリの問いかけ、か。

 ……ああ。あのよくわからない内容のやつ。


「……ナオヤ? また問いかけを忘れていた訳ではないですよね?」

「まさか」


 全力で首を振り、否定する。

 忘れていたことを肯定したらムツミも許さないだろう。

 二回目だし。


(忘れていた訳じゃない。考える余裕がなかっただけだ)


 そっと心の中で言い訳をしておく。

 ムツミは半眼になって俺を睨んでいるが、無視する。

 目を逸らすついでにオハバリから受け取ったメッセージを開き、内容を見る。



 ――

 六日後、汝は複数の選択肢から一つを選ぶことになる。選択を決め、それに逆らい抗うことができるのか。

 そして選択した道の先には必ず苦難が訪れる。覚悟を決め、乗り越えられるか。

 苦難を乗り越えた先に我を所有した際に考えた願いを叶える機会が訪れる。その道のりは長い。願いを忘れず、歩み続ける気概はあるか。

 ――



 何度見直しても理解し難いな。

 座り込んで考える。

 複数の選択肢から俺は一つを選ぶ。

 その選んだ先には苦難が待っていて、それを乗り越えなければならない。

 そして乗り越えた先には最後、願いを叶える機会がある、と。


(はぁ)


 どんな選択肢があるのかも分からないのに、覚悟だけ決めろというのは横暴だと思う。

 不安だらけで覚悟なんてできる、とオハバリは思っているのだろうか。


「未来予知ですか、それは?」

「うぉっ!」


 いつの間にか背後に回っていたムツミがいきなり顔を覗かせてきた。思わず俺は反転して距離を取る。

 俺の行動を見た彼女も驚いているようだった。


「……そんなに驚かなくても」

「だったら先声をかけろ」

「すみませんでした、声をかけなくて」

「軽いなぁ」

「それで、そのメッセージがオハバリから送られてきたのですか?」

「はぁ……」


 俺のぼやきは無視され、彼女は再度メッセージを覗いてくる。


「そうだ。この前ムツミとオハバリを見に行ったときに送られてきた」

「となると……六日後とは、明後日のことですか」


 明後日か。まだ時間がある、と考えていいのか。

 いまだによく分からない内容だな。


「内容はよく分からないですけど「覚悟はできた、問題ない」と宣言しちゃいましょう」

「……軽いなぁ」


 気楽に言うムツミに呆れる。

 これは俺の今後を示しているんだ。簡単に決めたくはない。

 だからといって考え込んでも答えは出ないのだが。

 思考が堂々巡りしてしまっている気がする。


「くよくよしても仕方ないと思いますよ。内容を見る限り、何を選択しても苦労するようですし」

「そうだな」

「それに、もしかしたら……」


 ムツミは少し間を空けてから口を開いた。


「自分自身で選んだ道は諦めるな、と言いたいだけかもしれませんよ、ナオヤ」

「俺が難しく考えすぎているのか?」

「はい……アゾットも「決まり事は仕方ない。分かる範囲で覚悟を問わなければならない」と言っています」


 問いかけだから形式ばった形で表現したということか。

 だけど「今後苦労するけど、諦めずに頑張れ」のような、簡単な内容にして欲しかった。

 魔剣が分かっていても俺は知らないんだから、詳しく書かれても混乱するだけだ。

 詳しく問う必要はないと思う。


「……覚悟を決めるか」

「決めてくれましたか」

「ムツミの言う通り時間もないし、それに未来のことなんて、ぐだぐだ考えても仕方がない」


 不安視せずに前向きに考えよう。

 オハバリの問いかけを深く考えずシンプルなものだと捉える。

 未来は何が起こるか分からない。オハバリが伝える通り苦労するかもしれない。

 だけどそれが普通のことだと思う。人生は山あり谷ありだ。平坦なものではない。

 それに人生は選択の連続、という言葉を残した偉人もいる。

 選択のない人生なんて退屈だ。


 未来に起こりうることを受け入れてオハバリを手にする。

 俺はそう決めた。

 何があっても諦めない。


――オハバリがセタナオヤを認証しました。


 通知が届く。内容を聞くだけで理解する。

 今は銭湯にあるはずだけど、呼び出せるか試してみるか。


「認証 オハバリ 取り出し」


 立ち上がり右手に力を込め、呟く。右の掌に形成される柄とその先に伸びる剣身。俺はその柄をしっかりと握る。

 重量感を手の中に感じたときには、剣の形成は終わっていた。

 見たことのある形。銭湯で暴れまわり、床に突き刺さっていた魔剣。


 握るのはその銭湯の時以来だ。あの時は余裕もなく、柄を握り魔力を込めただけだった。

 構えて左右に軽く振る。スキルは発動していないけど、しっくりとくる。


「認められたのですね」

「ああ。呆気なくて拍子抜けしたけど」

「不意に魔剣を得て、戸惑うよりはその方がいいです」


 そういうものか。

 危機的状況でこういう類の武器を手に入れることを勝手に想像していた。

 まあそれはアニメとか小説の読み過ぎか。

 平穏な時に手に入れる方が無難だな。

 事前に特徴を知ることができるし、準備がしやすい。


 メニュー画面を開く。

 新しく「マケン」という項目ができていた。

 タップして項目を展開する。

 ひらがなとカタカナの文字列。読むことには慣れた。

 脳内での漢字変換はお手のものだ。



魔剣「オハバリ」

【概要】

 ・他の魔剣を破壊することができる唯一の武器。

 ・セタナオヤ、ナナミが所持者となる。

 ※現在ナナミは正式な所持者ではない。


【魔法】

◯セタナオヤ使用時

 ・属性等の制限なし。

 ・漢字をイメージし、魔力を込めることで魔法が発動する。


◯ナナミ使用時

 ・未確定


【注意事項】

 ・セタナオヤおよびナナミが所持する魔剣については破壊することができない。

 ・片方が顕現させている際は他方ではオハバリを使用することができない。



 ほとんど俺のことだな。ナナミはまだ認められていないから、認められていない。

 今は俺が使えるだけで充分だ。

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